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第一章

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「アイリスが悪事を働いた?あり得ないな。アイリスが悪事を働くような子ならあんな風に心を壊すはずがない」
「ほ、本当なのです、カイル様。あれは……」
「判事、ターニャ女医によるアイリスの状態報告をしたいのですが?」
「か、構いません。お願いいたします」
「ターニャ女医、お願いいたします」
「は、はい」

カイルはアルバの言葉を否定した。
カイルは『番』であるアイリスの事を理解している、理解しているからこそアルバたちの言葉に憎悪を感じ、強い怒りを抱いた。

全員がカイルの怒気にのまれていた。
それでも自身の正当性を、アイリスが悪いのだと言い募ろうとしたアルバの言葉を遮ってターニャ女医にアイリスの状態を話してもらおうと判事に伝えた。

アイリスの状態が本当に悪事を働いたすえの仕置きではないと言うことを。

「では、アイリス嬢の主治医としてご報告します。アイリス嬢は『栄養失調』、『脱水状態』、『成長阻害』、『火傷』、『切り傷』、『鞭を撃たれたと思われるみみず腫』、『打撲』、『適切な治療を受けていなかったためと思われる骨折からの変形』、『新しい骨折』、『細菌感染による炎症』が診られました。私はむしろよく生きておられたと驚き、尚且つ自ら動かれていたなど到底考えられるものではありませんでした」

ターニャ女医から聞かされるアイリスの状態に判事は自らが受けたような痛々しい表情をしていた。

カイルやルドルフは再度聞かされるアイリスの状態に悲しみと怒りが募った。

ナーシェル子爵家の方は顔を下にふせており、表情は見えなかったが悔しそうな表情している。

このままでは絶縁状が受理されてしまうと思ったからだ。
どこまでもアイリスのことに心を動かされることはない様だった。

「それで治療ですが、アイリス嬢は眠られておりその間に『火傷』、『切り傷』、『打撲』、『みみず腫』、『新しい骨折』は私の魔法治療ですぐに治りました。『骨折による変形』は一度その変形部を【壊し】、適切な形に治す必要がありました。ですが、一度【壊す】ので強い痛みを伴います。舌を噛まないように申し訳ないのですが布を噛んで貰いました」
「治療の一環ということですね」
「はい。私は先程説明した通りの治療をしました。しかし、アイリス嬢は眠り続けました。そこから予想されるのは痛みが生活の一部になっており、アイリス嬢はもっと強い痛みが常にあったのではと、私の治療の痛みでは【痛み】と言えない程に。そして、最後に『炎症』を治し、後は『栄養失調』と『脱水状態』に『成長阻害』ですが、こちらはヴァルファス公爵家に通い、眠られている間は栄養剤と水分を点滴で、起きられてからはゆっくりと状態を見ながら通常の食事に戻るように段階を分けて食事形態を変えていきました。現在もまだ普通の食事形態ではありませんが、回復傾向にはあります」
「そうですか。ありがとうございます」
「ターニャ女医は王妃様も診られる高名な王宮魔法医師です。彼女ら宮仕えの医療人はどんなこと・・・・・があっても偽りの診断はしません。そう、どんなことがあっても」

カイルの言葉にナーシェル子爵家は青ざめた。
王妃様さえ診るターニャ女医の診断を偽りと言い張ることは出来ない。
そんなことをすれば宮仕えの医療人全員を敵に回すことになり、今後治療を依頼しても受けて貰えなくなるからだ。



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R3.2.18

一部修正しました。





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