妹の身代わりとされた姉は向かった先で大切にされる

桜月雪兎

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第一章

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ルドルフは早速書類製作にかかった。
アイリスがやって来た経緯と持ち物に診断書を付け、実家との縁切りの上嫁入りさせる事を記した。

セバスは侍女たちに出していた持ち物をもとの箱に仕舞うように指示した。
これが証拠の物品となる。

カイルは自身の友人たちに今回の事を手紙で伝え、いざとなった時力を貸して欲しいと嘆願したのだ。

手紙をもらった友人たちはカイルに番が現れたことを驚き、祝福した。そして、カイルがこのような手紙を出すことさえ珍しいため全員が力を貸すと約束した。

「アイリス、君を守るためなら俺はどんな手を使う事も厭わないよ」
「うちの息子はあんな顔も出来るのだな」
「感心するとことではありません、旦那様」

カイルの黒く悪そうな笑みにルドルフとセバスは背筋に嫌な汗をかき、寒気がした。
 
***

一方、アイリスはリリーシアのもとで現在、ターニャ女医の診断と治療を受けていた。

カイルの見立て通りかなり悪い状態だ。
栄養失調、脱水状態、成長阻害、火傷、切り傷、鞭を撃たれたと思われるみみず腫、打撲、適切な治療を受けていなかったためと思われる骨折からの変形、現在の骨折、細菌感染による炎症等上げたらきりがないほどだ。

ターニャ女医からしたらよく生きていると驚く事ばかりだ。
この状態で生きており、尚且つ自ら動いていたなど到底考えられるものではない。

ターニャ女医はすぐに出来る治療から始めた。

この国には魔法があり、それは生活に溶け込んでいる。
魔力は誰もが持っているが魔法に転換できる者は限られている。
と言うのも魔法に転換するには一定以上の魔力が必要なのだ。

魔力が一定ある場合は平民でも国営の学校で魔法を学ぶことが出来る。
そして、その費用は無料なのだ。

しかし、魔法にも属性や相性がある。
治療に必要な属性は水か光とされている。

なので、勉学、薬学などで治療する『一般治療』と魔法で治療する『魔法治療』の二種類がある。

ターニャ女医は『魔法治療』も出来る方だった。

なので、まずは『火傷』『切り傷』『みみず腫』『打撲』『現在の骨折』を治した。
次に『骨折からの変形』を治すのだが、これは一度変形した場所を壊し、適切な形へ修復する作業になる。
さすがにこれは治療法を説明しておかないといけない。
適切な形に治すためとはいえ一度その部分を【壊す】のだから。

「……ヴァルファス公爵夫人様」
「何かしら?ターニャ女医」
「これから行う治療の説明をさせていただきます」
「何か問題でも?」
「こちらとこちらなのですが、骨折が治療されておらず変形しているのです」
「まあ!!」

ターニャ女医の説明にリリーシアは驚き憤慨した。
それでも海千山千の社交界を渡り歩く公爵夫人、すぐに押し隠し、続きを促した。

「それで一度その変形部を【壊し】、適切な形に治します」
「そのようにすれば治るのですね」
「はい。必ず綺麗に適切な形に治します」
「分かりました。お願いします」
「はい。ですが、一度【壊す】ので」
「誰か、舌を噛まないように布を噛ましなさい」
「はい」
「ああ、アイリスちゃん。ごめんなさいね。でも、すぐにターニャ女医が治してくださいますからね。治ったらすぐに外しますから、頑張って下さい」
「…………」

この治療の間もアイリスは眠り続けている。
先程までの治療は痛みも何も伴わないので起きることはなかった。
これからは痛みが伴う可能性があるので起きる可能性もあったが、アイリスが起きることは結局なかった。

ターニャ女医が説明通りの治療をしたのだが、痛みが生活の一部になっていたアイリスにはもっと強い痛みが常にあったので、ターニャ女医の細心の注意を払って行った治療の痛みでは【痛み】と言えない程だった。

最後に『炎症』を治して終了となった。

「これで今出来る治療はすべて行いました」
「ターニャ女医、ありがとうございます」
「いえいえ、後は『栄養失調』と『脱水状態』に『成長阻害』ですが、暫くはこちらに通い、目が覚めるまでは栄養剤と水分を点滴で行います」
「はい」
「目が覚めましてからは柔らかくした物から始めてあげてください。水分はゆっくりと少しずつからでいいです。いきなりいくと吐いて余計酷くなりますので」
「分かりました」
「では、今日の分から入れていきますね」
「お願いいたします」

こうして、ターニャ女医は暫くヴァルファス公爵家に通うことになった。






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