8 / 69
第一章
5
しおりを挟む「何事だ!」
「だ、旦那様」
「この泣き声は、彼女…アイリス嬢か?」
「はい」
「一体、何が」
駆けつけたルドルフが見たのはどこからそれだけの大声が出るのかと思われるほど大声で泣き叫ぶアイリスを優しく抱きしめ頭を撫でているカイルの姿だった。
暫くそのまま様子を見ているとアイリスが泣きつかれて眠ってしまった。
「サリア」
「は、はい」
「アイリスの部屋は整ったのかい?」
カイルはアイリスが深く眠ったのを確認すると先程までの笑顔を消した。
その変化にその場にいた全員が息をのんだ。
こうなったカイルは父親であるルドルフでさえ恐怖を感じるほどだ。
カイルに質問されているのでサリアは答えなくてはいけなかったが、恐怖から口を開閉させるだけで言葉にならなかった。
代わりに全体を把握しており、耐性のあるセバスの方が答えた。
「いいえ、カイル様。もう暫くかかります」
「ん?セバス、どういうことだい?」
「持ち込まれたものがほとんどお使いになれない物でしたので、早急に買いに行かせてます。あと、衣服に関しましても同様でして」
「ふーん、やはりそうか。でも、服に関しては今は必要分でいいよ。今度、一緒に見繕うから。取り敢えず、暫くはベッドから動けないと思うし」
「カイル様?」
カイルが『やはり』と理解している発言をしたので全員が首をかしげた。
カイルとアイリスは今日、先程玄関であっただけだ。
匂いで『番』の事をわかると言えど向こうのするとこを把握できるわけではない。
カイルは知っていたのではなく、アイリスの状態から予測していただけだ。
「セバス、今すぐに主治医を呼んでくれ。あ、いつも母上を診てくださるターニャ女医で頼むよ」
「はい」
「父上は私と執務室でお話を」
「あ、ああ」
「母上はアイリスの事を頼みます」
「フフ、分かりました。この母に任せなさい」
「はい、お願いいたします。セバスは手配が終わったら執務室に来るように」
「畏まりました」
「アイリス、私は少し離れるが君が目覚めるまでには帰ってくるからね、ゆっくりお休み」
カイルはアイリスが掴んでいる自分のジャケットを脱いでアイリスにかけた。
アイリスは侍女たちに抱えられながらリリーシアと共にリリーシアの部屋に連れて行かれた。
カイルは同じ女性であるリリーシアや侍女たちならアイリスの事を任せられると判断し託した。
セバスはカイルの命令通りにターニャ女医を呼び、リリーシアの部屋に案内するように侍女たちに伝えた。
「では、ターニャ女医が来られたら奥様のお部屋に案内するように」
「「「「「はい」」」」」
「ナバーラ商会の方が来られたら、奥様の指示に従うように」
「「「「「はい」」」」」
「では、私は旦那様とカイル様の元に向かいます。いつも通り滞りなく行うように」
「「「「「はい」」」」」
セバスは侍女たちの返事を聞くと機微を返して、ルドルフの執務室に向かった。
あの状態のカイルのもとに向かうのを侍女たちに哀れに思われながら。
64
お気に入りに追加
9,393
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番
すれ違いエンド
ざまぁ
ゆるゆる設定

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる