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第一章

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まず、ユキルディスはとりあえずの拠点を修繕することにした。
実はこの領地の建物はほとんど風化してしまっているが、唯一残っているのが領主館なのだ。
ユキルディスとアルフォンスはその領主館に向かった。

「いや~、外観はともかく、庭は荒れてるなぁ~」
「まぁ、仕方ないですよ。長いことこの領自体が無人だったんですから」
「だよね~。屋敷の中はどうなってるんだろうなぁ~。う~ん、確認するのが怖いなぁ」
「ですね」

2人は意を決して屋敷の中に入った。
そこはやはり荒れてはいたが、年数から考えれば不思議なほど保たれていた。

「なんだろう。『状態維持』でもかかったいたんだろうか?」
「その可能性は薄いと思いますよ。むしろ、精霊たちが住んでいたからかもしれませんね」
「精霊たちが?」
「ええ、ここは雨風を凌げるので住み着いていたみたいですね。すでにここを離れているみたいですが」
「そうか。それじゃあ、まずはこの屋敷を住みやすいようにしないとな」
「ですね。ですが、俺もユキ様も『無属性魔法』は持っていないので『修繕』は使えませんよ?」
「そこなんだよなぁ。せめて、サリバンでも来てくれたら良かったんだけどなぁ」
「おや?ご一緒しても良かったんですか?」
「誰だ!」
「……サリバン、何で?」

2人がどの様にしようか悩んでいると第3者の声が聞こえて驚いた。
アルフォンスがユキルディスを守るように背に庇い、腰の剣に手をやった。
すぐに剣を抜けるように。
そうすると物陰から1人の老紳士が現れた。
それは今ユキルディスが呟いたサリバンだった。
アルフォンスも相手がサリバンだと分かると剣から手は離さなかったが、全身に込めた力は抜いた。

「サリバンさん」
「はい。アルフォンス君、久しぶりですね」
「何でここにいるんですか?」
「本当だよ。サリバンはあの人たち側だと思ってたんだけど、違ったのかい?」
「まさか!何で私があの略奪者たちに仕えないといけないんですか?」
「……略奪者……ははは。あれでも一応、血の繋がった父親なんだけど、異母兄あにたちも半分は血が繋がってるだけどなぁ」
「ですが、的を射てますよ。私の中では完全なる略奪者です」
「私もですよ。私は今までアルフレッド家を守る為に尽くしてきましたが、その当主が別の領地をたまわられたのならそちらに仕えるのが当たり前です」
「当たり前って」
「当たり前ですよ。私はサリバン・ヴァリス。アルフレッド家の血筋に代々忠誠を誓ったヴァリス家の者です」
「あ、血筋、『血の忠誠』か」
「はい。ですので、私はユキルディス様にこれからもお仕えします。あと、念のために息子をアルフレッド家に残してきました。いつでも使えるように」
「あ、うん、そういう人だよね。サリバンは」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ」

アルフォンスはユキルディスが呆れたように苦笑しているのを見て剣から手を離した。

『血の忠誠』というのは本当に強い結び付きで、どちらかの血が絶えるまで受け継がれていく忠誠であり、呪いとも云えるのだ。
決して違えることが出来ない。違えた時はその人物の死を意味するからだ。
勿論、相手の血筋のために意に反する言動をとることも時に必要になるので心から違えない限り裏切った事にはならない。
だから、サリバンやその息子は生きているのだ。

「それではまずは私がこの屋敷を『修繕』すれば良いのですね?」
「ああ、頼むよ」
「お任せください。【無属性魔法・修繕:範囲庭を含めた屋敷と敷地全体】」

サリバンが唱えるとサリバンの周りが光が輝き、その光が屋敷と敷地全体に広がった。
暫くすると光が収まり、そこには新築・・同然の屋敷の光景があった。
放置されていた調度品たちも新品・・同様だ。

「相変わらず、サリバンの『修繕』ってビックリだよね」
「ええ、屋敷から調度品まで新品・・にしてしまうんですから」

ユキルディスとアルフォンスが言うようにサリバンの『修繕』は特別だ。
本来の『修繕』とは壊れるもしくは破損する前の状態に戻す魔法である。
なので、今回ならある程度使い込まれた感じになるのが普通なのだが、それを新品・・同様にしてしまうのがサリバンの『修繕』なのだ。



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