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物語33
しおりを挟む次の日夕方家に帰り、仁志さんの分まで料理を作っていた。
玄関のチャイムが鳴り仁志さんが「ただいま」と帰ってきた。
最近彼は「ただいま」と自分の家に帰る様に言う。まだ結婚したわけでもないのに。男の人ってこう言う物なのか?
この前のデートで、一度セックスしただけなのだ。(あたしはあんたの家政婦か?)、と思いつつ「お帰りなさい」と受け入れている自分がなんだか可笑しくなった。
「バイトで何か問題は?」仁志さんは私の顔を、心配そうにのぞき込み声をかけてきた。
「大丈夫!」先日の私に対する社長の痴漢事件以来、すっかりやる気をなくしていた。あの店も居づらくなった。彼はそのことを気にしている。
「もうすぐ出来るからイスに座ってビールでも飲んでいて、それともお風呂に入る」
そう言うと「お風呂は一緒に入りたいな!」と言う(馬鹿言ってんじゃないよ)と思いながら彼を睨み付けたつもり、でもどうも本当に怒っていなかった様で、彼も笑っていた。
最近彼は良く冗談を言う。
「ねー何が食べたい」と聞くと
「そうだな、さくらを食べちゃおうかな?」(アホかおまえは?)と思って渋い顔をすると、頭をかいて横を向いてしまう。
あのケンカ以来、以前より心がうち解けた様な気がする。
「いつかあたし達、またケンカするね」
「だろうね。君は強いし」
「あら!あなただって、言い始めたら引っ込まないじゃない!」またケンカになりそうだったが、他愛のないじゃれ合いだった。
お互いに顔は笑っていた。こんな風に気楽になれた男性は、今まで居なかった。
私の顔を見ていた仁志さんが
「ねえ!俺たち結婚しないか?」
「えー?」突然のプロポーズに驚いた。
(でも怖い、本当にあたしで良いのかしら?彼はいつも接待で綺麗で若い女性のいる処に行くし、先日のような美人とお客さんとは言って居たがいつも逢っている。あたしはもう三十路だ?彼はそんなあたしのどこが良いの?とても不安)そう思い考え込んでいると
「俺じゃ嫌か?真剣なんだ」
「そうじゃなくて、自信がないの」私は彼とうまく遣って行かれるか?幸せになれるか?とても不安に成った。
「どうして?」「だってあたし歳だし、きっとお母様達が反対するわ」
「何だそんな事を気にしていたんだ?さくらは幾つに成ったの?」
「えー、」一瞬どうしようかと迷ったが小さな声でポツリと言った
「三十二歳・・・、もうすぐおばさんて言われるわ」
「なんだ、それなら問題ないさ、歳なら僕の方が上だ、もう三十七だ。」
「それに、それによ!あたし、お金持って無いの、預金なんて全然無いのよ」
「俺だって金なんか持ってないさ、でも親から貰ったこの身体がある。働けば金なんて手に入るよ、さくらだってバイト続けても良いよ!」
「でも、あたしの何処が気に入ったの?だって!洋服だって、いつもジーパンばかりで女らしくないし、それに、あたし勝ち気だし!それから、えーと、おれから・・・」
「そういう処が、全部好きなんだ。俺だって言い出したら聞かないよ」
私はなんて言って良いか、下を向いて何も言えなかった。(どうしたら良いの?なんて答えようかしら)
仁志さんはそんな私を見て、優しく抱きしめそーっと優しく口づけをしてくれた。私はもう何も考えられなく、ただ彼の求愛を受け入れるしかなかった。
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