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物語27
しおりを挟む次の休日のデートはスカイツリーだった。東京スカイツリーは、皆さんおなじみのデートスポットだ。
スカイツリーは大変混雑していたので、離れないように手を繋ぎ歩いたのだが、なんか若い時のようにドキドキしてしまい、なんだか恥ずかしく懸命に冷静な振りをした。
きっと修学旅行できたのだろう、学生さん達は、はしゃぎ回っていた。
こうやって見ると地平線まで見え、東京って結構広い都会だ。此処に皆さん生活しているのかなと少し驚いた。私も仁志さんも、手を繋ぎゆったりとした気持ちで歩いた。
もう先日の待ちぼうけのことなど、どうでも良い気持ちに成れた。
どのくらいの時間、東京を見ていただろうか。黄昏時の東京は地平線の彼方まで、まるで宝石をばらまいたようにキラキラと輝き、思わず見とれてしまった。私もやはり女なのだと実感した。
だってまるでダイアモンドの宝石のような煌めきに、思わず見とれたのだった。
「さくらそろそろメシ食いに行こう」と彼が言うので、頷いて手を引かれながら歩き、東京スカイツリーからしばらく話しながら歩いた。
仁志さんはこれから会社での仕事の夢についての事や、仕事の進め方など様々な話を聴いたが、私ははっきりって全然解らない 。
ただ手を引かれたまま、ついて歩きながら相づちを打つだけしか出来なかった。
でも営業の仕事が大変だ、と言う事だけは解った。もう一つお客様の接待でお酒を飲んで帰ると言う事も言われたが、なんか浮気の宣告のようで、イヤだったのでしっかりと釘を刺した。
「ねえ仁志さん。営業でお客様を接待するって、当然女の人達がいる所にも行くのよね。皆さんとても綺麗で、良く飲み屋の人と出来ちゃうなんて話を聞くのだけれど!」と言っただけだが、彼は慌てて
「そりゃー、仕事だからそう言う所も行くけど、僕はそんな所に行っても、そこの女性達は好きじゃ無いよ。僕ははじめから客の接待で行くので、そこにいる女が可愛いとか好きだなんて思ったことは無いさ。そりゃー金掛けて化粧しているんだから、それなりに見られる顔しているけど、彼奴(あいつ)らはそれが商売だからなのさ。それに身体で客を呼んでいる女も居るという話しだよ。そんな女、まじめに結婚なんて考えられないさ。第一俺ははじめから客の盛り立て役だから、自分が楽しい気持ちになんか成ったことなど一度も無い。さくらとこうやって歩く方がズーッと楽しい気持ちに成れる」など普段より言葉が多く成った。(怪しい?これは油断できないな。)私は怪しいと思い、横目で睨んだ。そしたら、彼は慌てて横を向いたまま黙ってしまった。(解りやすい人!)そう思うと安心も出来た。
それにこれ以上、まだ起きてないことを、言っても仕方ないので、私も黙って歩いた。
その沈黙が彼には重かったようで、盛んに咳払いをし身体の動きがぎこちないことを、見逃さなかった。(こいつ浮気したら絶対に許さないからな!もしそうなったらどうしてやろうか?)今からその時に備え、心構えだけしておこう。そう思った。私って執念深いかしら?
しばらくして着いたのは、とてもステキなホテルだ。そう夕食を食べに来たのだ。途中の会話ですっかり忘れていた。
このホテルは二二階建てで最上階にビュッフェレストランがあり、さっきまで居たスカイツリーが見え、とてもステキなレストランだった。ビルの入り口のメニューを見て思わず
「エー?此処、高いんじゃない?」思わずはしたないことを、言ってしまった。
「この前待ちぼうけさせた、お詫びのつもりだよ」と言うので、甘えることにした。
入り口にはホストさんが立っていて、窓際の眺めに良いテーブルに案内された。彼はこういう処にいつも来ているのだろうか?聞いてみようかなと思ったが、雰囲気を壊しそうだったので止めておいた。
今日が楽しめれば、とりあえず良い、あまり威嚇して嫌われても困るし、と猫をかぶった。
テーブル横の窓からは、東京スカイツリーが見え、町も煌びやかに灯が灯り(あかりがともり)始めている。
レストランの中は落ち着けて、生演奏のピアノが静かに響いている。
とても優雅な雰囲気の中、仁志さんが
「何食べる」
「あなたにお任せします」そう言って彼は、ホストに注文した。アペリティフには、淡い黄金色のシャンパンが来た。チューリップグラスに入った淡い黄金色のシャンパンには、細長い細かな粒の気泡が一筋立っている。
互いにそれを見ながらグラスを重ね、今日有ったことなどを話した。
「あたし東京があんなに広いなんて初めて解った。済んでいても地べたに這いつくばっていると、全体が解らないわ」
「俺だってそうさ。でもいつも思うんだけど、開発部の奴らはすごいよ、だって部屋の中でパソコンに向かっていて、俺たちが書いた仕様通りにシステムを作るんだぜ。良くあんな部屋の中で間違いも無しに仕事が出来る物だ」
「だってそれは、あなたが書いた仕様通りに作るからでしょ。あなたが間違うとメチャメチャになっちゅんじゃない?」
「それはそうだけど、俺たちだって、客の要求を書くだけで、システム自身がどう動くかなんて解らない。彼奴らの想像力には、いつも驚かされる」
「やはり餅は餅屋だね。でもそうやってで来た物を売るあなた達が居ないと、商売にならないんでしょ。あなたたちの仕事だって大切ね、いつもあなたが言っているじゃ無い」
しばらくして運ばれてきた優雅な食事に、私はとても満足した。
私は鳩の胸肉のソテーを食べた。油がとても美味しかった。こんなお料理を食べたのは、まだ若かった頃以来だ。
一口口に運ぶと、味付けがとても微妙な塩加減で、素材の味を生かしている。
彼は鹿のヒレステーキ。彼は大きな口を開け、一気に食べてしまった。
こういった場所に、彼は似合わない。そんな彼を見ていたら
「なに?」彼が私の視線を不思議思ったのだろう、そうに聞いてきた。
「別に」それ以上言えない。だって・・・、だって仁志の食べっぷりは、まるでブタのようだった。彼に食べられたのでは、上品な料理も鳴くだろう。
店のラーメンと此処のレストランの料理とは、格が全然違う、ラーメンはあくまでB級ランチだ。
このレストランの料理はA級料理、だから料理の味は最高で、ゆっくりと食事を楽しんだ。
食事が済むと彼が
「疲れない?」と聞く。それほど歩いた訳では無いので、別に疲れては居なかったが、ひょっとして、今日彼と・・・・
「えっ?」少し驚いた。と同時に期待に胸を弾ませている自分が居た。でもすぐには「はい」とは言えなかった。だってそんなこと恥ずかしくて言えない。
私は下を俯いていたら、仁志さんは勘定を済ませ私の手を掴むと、黙って歩き出した。
(どこに行くの?)と聞こうと思ったが、此処はホテルだ。
そういう関係になっても、あたしはきっと後悔しないだろうと思った。
そして彼と二人で部屋に入った。
「ねえ、風呂一緒にはいる?」と言われとても驚いた。でも此処はホテルだし、お互いに大人同士だ。
でもそれまでは彼とは、まだ関係が無かった。今まで家で食事をしても、私には手を伸ばしてくれなかった。それを今日いきなり・・・、とても戸惑ったし、怖じ気づいてしまった。
そして何よりあたしは前の会社で不倫以来、男性と関係したことがない。
その内に仁志さんの手が伸びてきて、あたしは・・・・
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