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物語25
しおりを挟むある時社長が慌てて店に来た。そして
「あのじいさん、今日はどうした?」と聞くので
「今日出てきていません。連絡したのですが電話にも出なくって。店が忙しいのに!アルバイトって勝手だわ」
鈴木さんは店に出ていない。電話したが留守電になるばかりで連絡が付かなかった。六十過ぎて居る割に、あまりにも無責任だ。見かけ倒しだった。
「おい、あのじいさんの住所は?」社長の素行が何か怪しい。
きっとまた奥様に隠れて、何かしたのだろう。きっと飲み屋の娘にちょっかいを出し、男にいちゃもんでも付けられたんだろうと思っていた。
でも何でアルバイトのおじさんなんだ?
「どうしたんですか?あの人の住所なら履歴書に書いてあると思います。電話も書いてあります。ただ電話は繋がりませんが」
「ちょっとその履歴書を見せてくれ」と言うので履歴書を見せたら、社長は険しい顔でそれを持って行った。
何があったのか良く解らないが、あの様子ではただならぬ事が起きたのかも知れない。
アルバイトのおじさんは、それ以来出てこなかった。
この忙しいのに!全くアルバイトって、どうしようもないな?と言っても私もアルバイトか?
要するに雇う方が社員として、身分を保障しないのがいけない!そう思いつつ、これではまた新しいバイトを探さないといけないかな?など思って今日も忙しい日を送った。
まったく負ける。
それから二・三日して、奥様から電話があった。
「アルバイトの鈴木実はどうしてる」いきなりアルバイトに名前など聞かれ驚いた。
「なんかもう一週間前から出てこないので、止めて貰おうかと思っています」と話すと
「そう!」と言って電話が切れた。??なんか不思議な電話だ。
仕事が終わり家近くに来たとき、ポチのうなり声が聞こえた。その声も普段と違う凶暴なうなり声だった。(なんかおかしい)そう思い急いで家の前に来ると、ドロボーが洗濯物を盗もうとしていた。
「あれ?鈴木さんだ」そう、それは紛れもなくアルバイトをして居た鈴木実だった。
オマケにその鈴木の手には、あたしの高給ブラが握られていた。下着ドロボーだ。私は驚きと共に「きゃー、ドロボー」と叫んでいた。
でもドロボーというと、近所の人は怖がって出てこない。ちょうど良い具合に警察官がパトロールしていたので、すぐ鈴木を捕まえて呉れたから良かった。
警察官はすぐ応援を呼び、鈴木は亀有警察のパトカーに乗せられて行った。
後で事情を聞かれたが、「ポチが激しく吠えていたので急いで戻ってみたら」としか言えなかった。それだけ私はおろおろと動揺していた。警察官が
「犬は怪しい奴の臭いは覚えているのもです。きっとこの犬が犯人の臭いを覚えていたのでしょう」と言われ、以前ポチが食いついていた、下着ドロボーの事を思い出した。
それは良いとしてあたしの高いブラは、証拠品として持って行かれた。もうあの高いブラも多くの警察官達にも見られているので、もう恥ずかしくて使えない。泣きっ面に蜂とはこの事だろうか?六千円もしたブラは、一度着けただけで・・・
その後警察で鈴木の犯行を聞かれたらしいが、その厳しい追及にいろいろな罪を告白したらしい。
家の店でも以前にアルバイトも娘が被害に遭ったことがあるので、事件に遭ったアルバイトの娘は、ロッカーから盗まれた給与袋について話をした。社長の下着の話はもう警察の処理も済んでいるしあえて伏せた。今更言っても仕方ないし、社長のメンツもあると思った。
社長の話では、三百万近い金をだまし取られたと言う事だった。三百万と聞いてあたしは思わず「えー三百万」と絶句してしまった。
それだけのお金が有れば、私達のバイト代を上げてくれればとつい思った。
社長の話では、鈴木がもっと効率の上がる機械があるらしいと言う事だった。
「他の店でも有ったのですが、食器洗いにベルトコンベアー式になっていて、片方に汚れた食器を置くと、機械の反対から次々にピカピカのドンブリが出てきます。今は食器を洗うのに、箱を上げ下げして洗っていますが、汚れも取れなく最後には手洗いです。お客さんが立て込んでいる時には、それでは効率が悪く、お客さんを待たせてしまいます」と言われ、その気になったらしい。手付けの三百万を渡したところ、以後連絡が取れなくなったと言う事だった。
私は社長の話を聞き、食器洗い機がいくらするのか知らないが、そんな機械があれば同業者の間で話題になっているはず。事実を確かめないでお金を渡す人が居るだろうか?
話を聞いている内に、私はスケベで騙されやすい社長に呆れてしまった。
警察の話だと鈴木実(本名は田口実と言うらしい)は、あちこちでドロボーをし、お店にアルバイトとして働き、窃盗を繰り返していると言うのだった。
余罪を取り調べられ、たまたまウチのアルバイト募集の張り紙を見て、「鴨ネギ」と思い、応募したと自供したという。
今は、人の家の下着を盗んだ所を捕まり、拘置所で取り調べを受けているそうだが、その時この店の話が出たということだった。
社長は鈴木のウソにまんまと騙され、三百万も取られたらしい。全く此の社長、スケベの割に人が甘い、若い娘のお尻を触るより、もっとそういった甘いもうけ話に、気を付けて貰いたい物だ。どうせお金を取られるなら、私達の時給や年金を掛けて欲しいと、正直に思った。
「でその犯人はこの先どうなるんですか?取られたお金は戻るんでしょうか?」
「人を殺したわけではないので、おそらく三ヶ月位の勾留で清むでしょ、その後はまた娑婆(しやば)に戻ってきます。お金は戻らないですね。」と言う。まったく警察って当てにならない。
「あの被害届を出してもダメですか?」奥様が言った。やはりお金は取り戻したい物だ。アルバイトの娘のお金だって、彼女が可哀想だ!
「被害届を出されても、ない袖は振れないと言うのが日本の法律です。まー勉強代と思って諦めて下さい」と人事の様に言って帰って行った。
ドロボーってやり得か?ついあの刑事の顔が、憎たらしく見えてしまった。
それより私にとって予想外のことが起きた。社長が何を思ったのか
「この責任は鈴木実を雇った、横井君に取って貰わなくっちゃ!」
「えー?」そう言われ、とても驚いた。
私は面接はしたよ。でも雇ったのは社長のはず、そう思い社長に言った。
「確かに面接はしました。でも雇ったのは社長です。あたしにどんな責任が有るんですか?」
「だって面接の時、怪しいと気が付いていれば、こんな被害はなかったよ!ひょっとしてアルバイトの娘の給与を取ったのも、鈴木じゃないか?」このクソ社長。自分の間抜けを私の所為にしたいと思って居る。
「だけど雇ったのは社長ですよ。あたしに言われても困ります」
「あなた、横井さんに責任を押しつけるのは間違っているわ、あなたさえちゃんと気を付けていれば、詐欺なんかに遭わなくて済んだのよ。責任者はあなた自身よ!」
奥様が正しい判断をしてくれたので、私の責任問題は無くなったが、それにしても自分の間抜けを、私の所為にするなんて、絶対に許せない。
今日は鈴木実より、社長の態度に頭に来た。あのスケベジジィが!
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