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出会い物語10
しおりを挟むその次の日はたまたまホール係がお休みし、私がホール係をしていた。この大田米子という娘はまじめだが、ちょくちょく体の具合が悪いらしく休む。
バイトでも社会保険に入るべきだ。私はいつかは社長に言ってやろうと思って居た。社会保険に入ってなければ、店の中で怪我をしても、国民健康保険で治療しなければならない。
そんな理不尽な事は無いはず、人を使う側はそれなりに責任を持って、人を目の前で監督し働かせなければならない。だから当然そこで起きた怪我などは、社会保険でまかなわれなければならないはずだ。
仕事だけ押しつけて、責任を取ろうとしない雇用主はドロボーと同じだ。
今日も客がひっきりなしに入り、店は忙しかった。そんな時に知って居る顔が目の前に現れた。「あら!?」驚いて思わず声が出てしまった。
それは以前大切なCDの入った紙袋を忘れていった、大西商事営業係長の後藤司さんだった。名刺を置いて行かれたから、名前は覚えていた。
「またご来店頂いて、有り難うございます。今日は何を召し上がりますか?」と注文を聞く。
「味噌ラーメンお願いします」と言うので調理場のスタッフに伝えた。
後藤さんは美味しそうに、今日も綺麗に食べていって呉れた。
食後お勘定の時に、小さく折り曲げたメモを、そっと渡して帰って行った。
後藤さんからのメモを、暇になった時にみんなに見られないようにそーっと開いてみた。
「先日は有り難う。大変助かりました。
あれは大切なアンケートのデータが入った、CDです。無くなったら一大事でした有り難う。
お店の管理がしっかりしているから、すぐ見つかったんですね。
その管理体制が、お店の味にも出ています。有り難う。
何かお礼をしたいにで、良かったら、どこか素敵なお店で、食事でもしませんか?
今度お店が暇な時を見計らって、また電話します。
後藤」
えー?これってひょっとして・・・)思わず胸が騒いだ。
私は特に後藤さんに、悪い感じはしていなかったし、また忙しい時では無く暇な時なら電話で話も差し支えない。こんな風に誘われるのは、過去あまりなかった。
(食事だけなら良いか)等考えていた。
家に帰り早速ポチに話をした。
「ねえ今日男の人から誘われちゃった。どうしたら良いと思う?」
そしたら「俺はそんなの知らない」と横を向かれてしまった。なんか後藤さんとの付き合いに、暗雲が立ち上りそうだな?
でも後藤さんはなかなか紳士的出し礼儀も正しい。彼とならどこかに遊びにっても楽しいかも知れない。思わず期待に心が弾んだ。
こんな気持ちになるのは、もう相当前以来だった。
いつ誘われるのかななど、自分で妄想していた。それだけ期待していたのかも知れない。
また翌日、別の出会いもあった。「アラー」驚いて思わず声が出てしまった。
相手も気がついたみたいで
「ヤー、君はホール係なの?」
「いえ、いつもは調理場に居ますが今日はホールの娘が休んでしまい変わりにしてます。太田さん今日は?」
「仕事の途中さ!客先に行っての帰りなんだ。ついでにこいつ、同僚の森松って言うんだ」同僚の方を紹介された。互いに挨拶を交わしたが、やはり大田さんと同じ営業の方だと言う。それから二言三言ことばを交わし、注文を受けた。
彼はいつも水元公園の散歩の時に出会う、同じペット散歩仲間の太田さんだった。たまにポチの体のことなどを相談していたが、親切にしてくれ「その内寄って下さい」とは言ったが、まさかお店に本当に会うとは思わなかった。何でも客先の帰りに、ちょうど食事時だったので、店に寄ったらしい。
「まさか本当に会えるなんて、驚いたよ。君が働いている店と言うことは知っていたが」と言っていた。驚いたのは私の方も同じ、知っている人が来るなんて、思いもしなかった。
でも店では他の客も居るので、あまり関わっていられない。客は毎日列を作って、自分の番が来るのを待っている。
今日も店は忙しいし、どうせまた明日の朝逢える。話はその時にゆっくりすれば良いと思い、仕事を優先した。べつに知り合いの人なだけで、特別な出逢いとは思いもしなかった。
ただペット仲間の来店は毎朝言葉を交わしている所為か、何となく親しみを感じ、チャーシューウを一つオマケしておいた。彼が解ったかどう、解らなかったが。
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