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物語9
しおりを挟む新しく入った鈴木さんは真面目な人で、シフトの時には遅れず十分前には来てくれた。
お店の仕事は初めてのようだったから、まずは外回りから教えた。
駐車場の空き缶取りから水まき、玄関前の掃き掃除、ゴミ箱の場所も教えた。外周りが終わると店内の掃除だ。トイレ掃除から、通路や窓ふき、テーブルの上の掃除とメニューの置き方まで、細かく指示した。
やはり会社役員の経験があるだけ、何でも一度で覚えた。きっと履歴書には書いてなかったが、どこぞの大学を、卒業している人だと思った。
仕事も歳の割に早く、てきぱきした動きはとても六十には見えない。
鈴木さんは店の看板娘には成らないので、、客が来店すると用意して置いた水を、すかさず客の元に持って行くことを指示したし、客が帰ると後片付けは指示しないうちに進んでしてしまう。年下の私からの指示にも、はきはき返事が返ってくる。
この人は拾いものだと思った。社長にもそう報告した。もちろん奥様にもだ。
「へー?なかなか良い人のようね」と奥様も社長も納得して呉れた。
ただ少し可笑しなところが有り、暇な時でも店の中やスタッフの休息室(此処にはロッカーがある)など、人がいない時に見回っている。可笑しいなと思い
「鈴木さん、いつも店内をくまなく見て回っているようですが?どうかされました・」と聞いたところ、
「イヤー泥棒に狙われてもいけないと思い」など話しをはぐらかした。???
私はこの時点では鈴木さんに対し、怪しい人だとは思わなかった。帰って年の割にきびきび動いてくれるし、指示しなくても、進んでテキパキと仕事をしている。
その姿に、やはりある程度人生経験を積んだ人の方が、使いやすいと思った。
鈴木さんはいつも約束の時間より十分前には店に来て、駐車場の掃除や玄関マットの掃除からトイレの掃除など、指示されない仕事まで積極的にしていた。
それこそ店の中の隅から隅まで、見て回り掃除をしていた)
ずいぶんと神経の細かい人だ、この人ならお店にとってもありがたい存在だと思った。
なるだけ長い間働いてくれれば良いのだが、私は思わぬアルバイトの出現に諸手を挙げて喜んでいた。
休息の時間、鈴木さんの話しかけてみた。
「鈴木さんは以前どんな仕事されていたんですか?確か電気工事とか履歴書に有りましたが?」
「そう屋内配線の電気工事です。良くネズもが配線をかじって漏電火災に成ることが有りますが、今の配線はそうならないようになっています」
「へー、じゃあ屋根裏なんかにも登るんですか?夏なんか大変でしょ?」この後鈴木さんは電気工事のあれこれを話してくれたが、聞いている私は半分も理解できなかった。
一応まじめに勉強して所得した技術らしいが、きっと大変だっただろうなと思った。最後に「鈴木さんで大学出ていますよね?」と聞くととても言いづらそうだったが
「東大の電気工学科を出ています。そこで電流とか勉強したんです」と言われとても驚いた。この何の変哲も無いおじさんが、東大卒なんで履歴書にも書いてなかった。
今日は一日驚きの連続だった
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