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物語8
しおりを挟むアルバイト募集の張り紙をしてから、どのくらい日数がたっただろうか。
「すみません、あの玄関の張り紙を見たのですが」と中年くらいの男性の声で、電話が掛かり問い合わせがあった。
「アルバイトに応募ですか?」電話は私に回されたのでそう聞くと、
「そう、応募したいのですが」
忙しい時に来られても困ると思い、
「ええといつ来られますか、明日午後三時くらいなら面接したいのですが」と言うと
「明日三時?大丈夫です」
「では明日の午後三時に履歴書を持って来て下さい。」と答え、明日昼過ぎに会う約束をした。
やっと応募があったのだが、ちゃんと努めてくれるか心配だった。ただ中年の男性なので、定年後の暇つぶしか、リストラされ私の様に仕事を探して居る人か?いずれにしろ今時の、いい加減な若い子よりは、ましだろうと期待した。
翌日彼は、指定通りの時間に遅れずにやってきた。(この人は約束を守る人だ)第一印象はそう感じた。
見たところ以外と若い!さっそく店のテーブルに掛けて貰い、水を持って行き差し出された履歴書を見た。
名前は鈴木実六十歳、年の割には若く見えた。
住所は此の近く、「お店のラーメンを良く食べに来ている」と言っていた。
資格は一級電気技師の資格を持っていて、略歴を見て驚いた。学歴は無いが株式会社の役員をしていたと、経歴が書いてある。
着物は普段着だったが、髪をきちんと整髪し表情から、育ちの良い人間に思われた。
つい、何でこんな人がウチで、アルバイトなどと思ってしまった。
「ちなみにラーメン屋での、アルバイトは経験有りますか?」
「いままで電気工事しかやったことありませんが、ラーメンは好きで自分でもスープから作っていました。趣味ですが」と言う。
略歴と責任ある言葉遣いに、働いて貰っても良いなと思ったので、さっさと面接を済ませ社長の承諾を得るため
「二・三日待っていただけますか。連絡はここに書かれてある電話番号に電話すれば良いですね」と言う事で帰って貰った。
鈴木の思い
私は六十歳になり会社を退職した。ちょっと訳ありの会社だったが、一応定年で止めた。ただ自分ではまだ働けると思い、適当な職を探したが、思う様な仕事は見つからない。
当たり前だ。私の様な特殊な技術者を必要とする会社など、有るはずもない。
そう、私には人様に言えない特殊技術があり、その技術で今まで働いてきた。
ラーメン屋のバイトは、その商売のをするための場所、としか考えていない。
こういったラーメンチェーンでは、売上金がまとまるチャンスがある。その時が私の技術が物を言う時だ。
そう思い獲物を探していたら、店先に「アルバイト募集」の張り紙を見て、早速応募した。
その店は店構えから客席数まで、私の獲物にはちょうど良い物件だった。
早速電話で問い合わせをしたら、翌日三時と指定され、会って呉れると言うので、約束の時間に店に行った。
店は昼時が過ぎたので、空いていた。すぐパートのチーフとやらが面接に応じて呉れた。
二・三日すると採用通知が来て
「来週月曜日午前十時から」と言う指示だった。
そこで実際に働いてみると、勤務シフトが週二日程度、一日三時間程度しか働けない。それではそれで良い。内職の時間が持てる。ラッキーだった。
その店のチーフである中年女性、横井さくらさんには、勤務が週五日入り忙しそうだった。
私は新人だから勤務時間が少なく暇なので、いつか内職をする時間はあると思ってチーフの顔を見たのだった。しかしつい自分の歳もわすれ
「あの中年パートの女性は将来どうするつもりなんだろう?まだ独身のようだが、ラーメン屋のアルバイトのチーフをやって、店ではあれこれ指示しているが?一端家に帰ると一人暮らしなんだろうな」など自分で想像していた。
彼女は決して威張っては居なかったが、責任ある発言は重い様に感じた。根はきっと慎重な人なんだろうと思った。
ラーメン屋はパートの定年はないが、それでもいつまでも、働き続けるわけにも行かないはずだ。店では裏方で旗を振り、皆を指揮しているが、あくまでパートの作ったラーメンだ。何処まで人気が保てるのか?店が無くなったら彼女の人生は悲惨だろうね!など自分の事など、棚に上げて考えてしまった。
そう思うのは俺の仕事の所為か、職場の環境には気を配った。
でもうまくすれば、人の良さそうなこの店の社長も、騙すのも苦労はしないはず。まして人のロッカーの中身を、頂戴することなど朝飯前だ。
まー、しばらくは大人しくしているが、そのうちきっと店の者は慌てるだろう。
内職をするにも、下見と準備は必要だ。
下手扱くと、先日下着に魅せられ、思わず手を伸ばした家なんか、犬に大きく吠えられ驚いた。あの犬そんなに大きな体ではなかったが声が大きく、いきなり吠えられたので驚き、あわてて逃げ出した。後で気が付いたが、ズボンの端が食いちぎられていた。
私の特殊技術は、運と度胸も大事な決め手だ。
きっと此処の店の人も、後々驚くだろう。でも、もし私の正体がばれても捕まらない様に、履歴書にはウソばかり書いて置いた。住所などウソ八百だ。ただ携帯電話番号だけは、本当のことしか書けなかった。
そう僕の本職は人の物を黙ってこっそりと頂くことが職業だ。前は組織で仕事をしていたが。定年のなり動作が鈍くなったので退職を迫られた。でもこれからでも、個人的に仕事は勤まるだろう。
良く職業的な目で見ると、この店も隙だらけだった。
仕事開始の日が来たので、最初に言いつかったのは駐車場の掃除だ。隣に交番があるので注意しなければならない。
次には玄関の掃除やトイレ・テーブルの上やメニューの置き方まで指示された。
肝心なロッカーは別棟にあり、人気が無いときがザラだ。ちょうど狙うのに良い。
でも此処にはまとまった金はおいてない。
俺はいつも開店時間より十分前には店にでて、駐車場の掃除や玄関マットの掃除からトイレの掃除など、指示されない仕事まで積極的にしていた。
それこそ店の中の隅から隅まで、見て回り掃除をしていた。(いわゆる下見だ)これがうまく行けば、仕事も楽だ。でも店にはあまり金目の物は無い。
狙うならあの人の良さそうなスケベな社長なら騙せる。ふふふ、これは後々楽しくなりそうだ。
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