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オリビアSIDE
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「町並み、変わらんなぁ」
オリビアは、5年ぶりに故郷へと足を踏み入れた。
ここは、フォレスト国。うっそうとした森に囲まれた小国である。オリビアは、この国で生まれグレイ伯爵令嬢として15歳まで過ごした。そして、王立学園に入学する前日に姿を消した。当時は、誘拐だなんだと騒がれたが犯人は見つからず父であるグレイ伯爵も政略結婚である亡き妻に似た娘に無関心であったため、捜索は早々に打ち切られた。そして、グレイ伯爵令嬢の失踪事件は神隠しとされ、当時はちょっとしたゴシップとなったのだ。
だが、真相はオリビアの用意周到な家出であった。オリビアには秘密がある。13歳の誕生日にオリビアは唐突に前世を思い出した。日本で生まれ、お気楽な関西出身の女子高生として過ごしていたが、不慮の自動車事故に巻き込まれて死んだということを。そして、この世界が友人がしていた乙女ゲーム「doki☆doki☆フォレスト学園~どの彼を選ぶ?~」に酷似している事に気づいたのだ。
オリビアは、驚愕し数日寝込んだ。その間は、出産のため亡くなった母の代わりにオリビアを大切に育ててくれたメイドのアリスが付きっきりで看病をしてくれた。数日ぶりに目を覚ましたオリビアは鏡の前で自分の姿を見た。
その姿は「doki☆doki☆ フォレスト学園~以下略」の悪役令嬢オリビアの少し幼い姿であった。白い肌に艶やかな黒く長い髪、エメラルドグリーンの美しい瞳は、ややつり目のため気が強そうに見える。だが控えめに言っても美少女である。そして、その鏡の前の美少女は顔を赤らめ口元が緩む。
(doki☆doki☆ と名のつく世界に転生!!は、恥ずかしいやん!!)
オリビアは悶えた。悪役令嬢に生まれた事に絶望したのではなく、doki☆doki☆と名のつく世界に転生してしまったことに、恥ずかしさで悶えのたうち回った。ひとしきり悶えた後オリビアは今後について冷静に考えた。
オリビアは攻略対象公爵子息レオのルートの悪役令嬢である。主人公がレオルートに入れば死亡の1択である。学園に入学した平民で特待生の主人公エミリーがオリビアの婚約者である公爵子息レオと仲良くなりそれに嫉妬したオリビアが嫌がらせをする。そもそもレオとオリビアの仲は政略的なもので冷めたものではあったが、これはレオがそう思っているだけである。
内心オリビアはとてもレオを慕っていた。母は亡くなり、父はオリビアに無関心、メイドのアリスぐらいがオリビアの味方であった。そこに現れたのが婚約者であるレオである。レオは無口ではあるが婚約者として節度ある振る舞いをしてくれた。定期的な訪問と贈り物。そんな婚約者として当たり前な事がオリビアはとても嬉しかった。大人しい性格ながら一生懸命レオに話しかけ、頷いてくれるレオは自分を大切に思ってくれていると思った。
そんなレオがエミリーに心が傾いている。オリビアは必死だったのだレオを自分につなぎとめるために。控えめで大人しいオリビアと違って平民らしい快活さと明るさを持ったエミリーにどんどん惹かれていくレオをみて焦ったオリビアは遂に、エミリーを階段から突き落としてしまう。そしてその事をレオによって学園のパーティーにて糾弾されてしまうのだ。エミリーと親しくしていた王太子殿下は、激怒し国外追放をオリビアに命じる。そして、追放された先で野党に襲われ殺されしまうのだ。
(これはあかん。・・・てかオリビアへの仕打ちひどない???ちょっぴり不遇な大人しい女の子やねんで)
死亡エンドは全力で避けたい。だがもう既に、公爵子息であるレオとは婚約者として8歳の頃に決められてしまっていた。銀髪にアイスブルーの瞳をした、やや冷たい印象のある2歳年上のレオは同じく攻略対象である金髪碧眼の王太子殿下と並ぶ美少年として有名だ。無口であることを除けばレオは理想的な婚約者ではある。だが前世を思い出したオリビアにとっては死の鎌をもった婚約者である。めちゃくちゃに怖い。
一人うんうんと、状況を整理しオリビアは決断した。婚約者レオにはもう出会ってしまったから致し方ないとして、学園には入学しない。エミリーがレオルートに入らないかもという甘い期待は捨てよう。なんたって命がかかっている。
それに記憶が戻ったオリビアにレオは魅力的に映らなかった。無口なイケメンとの結婚。顔は良くても、オリビアは会話を楽しみたいのである。にぎやかな家庭が理想だ。
なによりレオは何を考えているか分からない。内心オリビアうぜぇ~と思っているかもしれない。オリビアは学園に入学する前に自活できるルートを見つけて家出をする事を目標とした。
そうと決まれば、オリビアの行動は早かった。まずは父に色々と理由をつけて他国の語学や文化を学べる家庭教師と護身術を学べる武術の先生をつけてもらった。父は武術の先生をつけることに少し訝しんではいたが、そもそも娘に無関心であったので好きにしろとつけてくれた。自活していく中で護身術は必須だと感じていたオリビアは父が自分に無関心であった事にこの時ばかりは喜んだ。
そしてオリビアは他国の文化を学ぶ内に、海があるシーガイア国が家出先に向いているのではと考えるようになった。まだまだ、この世界では砂糖・塩くらいしか流通していない。シーガイア国は貿易の国なので、様々な国と交易をしている。唐辛子やコショウなどがこの世界にあるかはわからないが似た香辛料をを見つけ出しそれで商売をすればひと財産を築づけるかもしれない。なにより、美味しいものを食べたいというのもある。オリビアは、シーガイア国の言語であるラメア語を必死でこっそり勉強するようになった。そもそもオリビアの能力値が高かったせいか言語も護身術も順調に覚えていった。
また、ちょくちょくメイドのアリスを供にして下町におりた。そして平民として生きていくにはどのように生きていけば良いかをじっくり観察した。物の値段、生活様式、服装、喋り方、観察できる物は出来るだけしたが、市井で怪しまれず生きるということを観察することだけではどう考えても難しいことがわかった。
なので14歳になった時、市井で働いてみることにした。まず、アリスに市井の生活に興味があると言って平民が着る服と帽子を何着か購入してもらった。そして、胸にさらしを巻き服を着て髪はまとめて帽子に隠し少年の姿でこっそり下町に出た。目指すは、シーガイア国と取引のある商家である。商家は人手が不足していたらしく、母が病気で毎日は看病で来れないが、小遣い稼ぎに働かせてほしいという少年をすぐに雇った。
次に、婚約者のレオとは距離をとることにした。レオとは定期的なお茶会をしていたが、前世を思い出したオリビアはこのレオとのお茶会がとても苦手であった。態度は紳士的で贈り物も定期的には贈ってくれるが、口数少ないゆえお茶会でも会話がない。弾まないというか無である。
前世がおしゃべりな関西人のオリビアとしては貴族とはいえもう少し気を許した会話をしたいところだが、レオの冷たいアイスブルーの瞳をみるとオリビアは萎縮してしまう。そんな理由でオリビアはこのお茶会をどうにかして回数を減らしたかった。そしてオリビアは意を決して提案した。
「レオ様は学園に入学されて、生徒会のお仕事もお忙しい事と思います。お茶会の回数を減らしましょう。月に1回を半年に1回などいかがでしょう」
レオは目を見開いたのちに、少しイラつきながらもぐっとこらえた表情をすると
「わかった、そうしよう」
と言い捨てて、スタスタと去ってしまった。オリビアはレオの後ろ姿を呆然と見送りながらも怒らせてしまったのだと思った。
(レオたん、めっちゃイラついてた。こわい・・・)
軽率にも心中ではレオの事をレオたん呼びしているオリビアである。まあレオとしては義務としてせっかく来てやったのにって感じかな。でもこれで憂鬱なお茶会がなくなったと喜んだ。
家出するまでの1年間は、毎日忙しかった。だが商家で働いたおかげで、シーガイア国の商人と仲良くなり、貿易会社で雇ってもらえることになった。ラメア語も完璧に習得し、シーガイア国での新生活に胸を膨らませていた。
そしていよいよ家出する前日、それはレオとの最後のお茶会日でもあった。レオは、この2年で乙女ゲームに出てくるままの美青年になっていた。
半年に1度ずつしか会ってはいないが、体躯は細身ではあるが程よく筋肉がついており、身長も伸びた。顔つきは、怜悧な印象だがご令嬢の皆様がため息をつくほどの美しさだ。さすが攻略対象。レオは優雅に席に付き、美しい所作でお茶を一口飲むとじっとこちらを見つめてきた。
「オリビアの目は美しいな」
オリビアは突然の褒め言葉にフリーズしてしまった。聞き間違いに決まってる。レオたんがこんな事を言うはずない。あまりにも驚きすぎてオリビアはぎこちなく微笑みスルーすることにした。レオは、その微笑みに少し戸惑いながら
「学園で会える事を楽しみにしている」
と告げるとまたスタスタと去ってしまった。オリビアは前にもこんな事があったよなと思いながらその後ろ姿を見つめていた。そしてその背中を見ながら心の中で
(レオたん、長い間お世話になりました。元気でね!)
とちょっぴりしんみりしながら別れを告げた。そして、大急ぎで家出の準備を始めて、早朝のうちに家出をした。
そして、現在に至る。5年ぶりにフォレスト国に訪れた目的は2つある。
1つ目は商談のため。シーガイア国に渡ったオリビアは貿易会社で働く内に船にも乗せてもらえるようになった。そして船旅をするうちにさる国で遂に見つけたのだ唐辛子を。唐辛子を持ち帰ったオリビアは加工の仕方や販路まで開拓して会社に多大な利益をもたらした。その功績から貿易会社の外交部門の要職についたのだ。
そして今回は是非ともオリビアと商談をしたいという商談相手たっての希望でフォレスト国にやって来たのだ。一度家出した国に戻るのはさすがにまずいかな?顔がさすかも?とは思った。だが今の自分の様変わりように大丈夫だと思い直した。
船旅によりこんがり灼けた小麦色の肌に、艶やかで長かった黒髪は思い切り良く肩まで切って一つに結んでいる。変わらないのはこのエメラルドグリーンの瞳くらいである。服装もこの国では女性にしては珍しいパンツルックに編み上げのブーツ、白いシャツは腕まくりしており小麦色の肌はとても健康的で貴族の令嬢には到底見えない。これはバレない。
それに、ゲーム開始から5年も経っている。主人公エミリーも2年前には学園を卒業しているはず。学園にいなかった悪役令嬢に誰が興味あるねんと思った。
それに気になっていたのだ、その後が。これが2つ目の目的である。
結局、主人公エミリーは誰を選んだのかそれが知りたかった。王子と結婚はしていないということはわかっていた。もししていたらシーガイア国でもさすがに噂は入る。平民のエミリーと王子が結婚となれば、まさしくシンデレラストーリーなのだから。
そんな軽率な好奇心でこの国に舞い戻ったオリビアは、すぐ後悔することになる。
商談相手に指定された店に着いた瞬間、その銀髪が目に入った。その瞬間に逃げれば、逃げおおせたかもしれない。でも、一瞬戸惑ったところをおそろしいスピードで近づいてきた青年に手を掴まれ、胸の内に引き込まれてしまった。
「お帰り、オリビア」
オリビアがおそるおそる顔をあげると銀髪の美青年が、艶やかな笑顔で微笑んでいた。
オリビアは、5年ぶりに故郷へと足を踏み入れた。
ここは、フォレスト国。うっそうとした森に囲まれた小国である。オリビアは、この国で生まれグレイ伯爵令嬢として15歳まで過ごした。そして、王立学園に入学する前日に姿を消した。当時は、誘拐だなんだと騒がれたが犯人は見つからず父であるグレイ伯爵も政略結婚である亡き妻に似た娘に無関心であったため、捜索は早々に打ち切られた。そして、グレイ伯爵令嬢の失踪事件は神隠しとされ、当時はちょっとしたゴシップとなったのだ。
だが、真相はオリビアの用意周到な家出であった。オリビアには秘密がある。13歳の誕生日にオリビアは唐突に前世を思い出した。日本で生まれ、お気楽な関西出身の女子高生として過ごしていたが、不慮の自動車事故に巻き込まれて死んだということを。そして、この世界が友人がしていた乙女ゲーム「doki☆doki☆フォレスト学園~どの彼を選ぶ?~」に酷似している事に気づいたのだ。
オリビアは、驚愕し数日寝込んだ。その間は、出産のため亡くなった母の代わりにオリビアを大切に育ててくれたメイドのアリスが付きっきりで看病をしてくれた。数日ぶりに目を覚ましたオリビアは鏡の前で自分の姿を見た。
その姿は「doki☆doki☆ フォレスト学園~以下略」の悪役令嬢オリビアの少し幼い姿であった。白い肌に艶やかな黒く長い髪、エメラルドグリーンの美しい瞳は、ややつり目のため気が強そうに見える。だが控えめに言っても美少女である。そして、その鏡の前の美少女は顔を赤らめ口元が緩む。
(doki☆doki☆ と名のつく世界に転生!!は、恥ずかしいやん!!)
オリビアは悶えた。悪役令嬢に生まれた事に絶望したのではなく、doki☆doki☆と名のつく世界に転生してしまったことに、恥ずかしさで悶えのたうち回った。ひとしきり悶えた後オリビアは今後について冷静に考えた。
オリビアは攻略対象公爵子息レオのルートの悪役令嬢である。主人公がレオルートに入れば死亡の1択である。学園に入学した平民で特待生の主人公エミリーがオリビアの婚約者である公爵子息レオと仲良くなりそれに嫉妬したオリビアが嫌がらせをする。そもそもレオとオリビアの仲は政略的なもので冷めたものではあったが、これはレオがそう思っているだけである。
内心オリビアはとてもレオを慕っていた。母は亡くなり、父はオリビアに無関心、メイドのアリスぐらいがオリビアの味方であった。そこに現れたのが婚約者であるレオである。レオは無口ではあるが婚約者として節度ある振る舞いをしてくれた。定期的な訪問と贈り物。そんな婚約者として当たり前な事がオリビアはとても嬉しかった。大人しい性格ながら一生懸命レオに話しかけ、頷いてくれるレオは自分を大切に思ってくれていると思った。
そんなレオがエミリーに心が傾いている。オリビアは必死だったのだレオを自分につなぎとめるために。控えめで大人しいオリビアと違って平民らしい快活さと明るさを持ったエミリーにどんどん惹かれていくレオをみて焦ったオリビアは遂に、エミリーを階段から突き落としてしまう。そしてその事をレオによって学園のパーティーにて糾弾されてしまうのだ。エミリーと親しくしていた王太子殿下は、激怒し国外追放をオリビアに命じる。そして、追放された先で野党に襲われ殺されしまうのだ。
(これはあかん。・・・てかオリビアへの仕打ちひどない???ちょっぴり不遇な大人しい女の子やねんで)
死亡エンドは全力で避けたい。だがもう既に、公爵子息であるレオとは婚約者として8歳の頃に決められてしまっていた。銀髪にアイスブルーの瞳をした、やや冷たい印象のある2歳年上のレオは同じく攻略対象である金髪碧眼の王太子殿下と並ぶ美少年として有名だ。無口であることを除けばレオは理想的な婚約者ではある。だが前世を思い出したオリビアにとっては死の鎌をもった婚約者である。めちゃくちゃに怖い。
一人うんうんと、状況を整理しオリビアは決断した。婚約者レオにはもう出会ってしまったから致し方ないとして、学園には入学しない。エミリーがレオルートに入らないかもという甘い期待は捨てよう。なんたって命がかかっている。
それに記憶が戻ったオリビアにレオは魅力的に映らなかった。無口なイケメンとの結婚。顔は良くても、オリビアは会話を楽しみたいのである。にぎやかな家庭が理想だ。
なによりレオは何を考えているか分からない。内心オリビアうぜぇ~と思っているかもしれない。オリビアは学園に入学する前に自活できるルートを見つけて家出をする事を目標とした。
そうと決まれば、オリビアの行動は早かった。まずは父に色々と理由をつけて他国の語学や文化を学べる家庭教師と護身術を学べる武術の先生をつけてもらった。父は武術の先生をつけることに少し訝しんではいたが、そもそも娘に無関心であったので好きにしろとつけてくれた。自活していく中で護身術は必須だと感じていたオリビアは父が自分に無関心であった事にこの時ばかりは喜んだ。
そしてオリビアは他国の文化を学ぶ内に、海があるシーガイア国が家出先に向いているのではと考えるようになった。まだまだ、この世界では砂糖・塩くらいしか流通していない。シーガイア国は貿易の国なので、様々な国と交易をしている。唐辛子やコショウなどがこの世界にあるかはわからないが似た香辛料をを見つけ出しそれで商売をすればひと財産を築づけるかもしれない。なにより、美味しいものを食べたいというのもある。オリビアは、シーガイア国の言語であるラメア語を必死でこっそり勉強するようになった。そもそもオリビアの能力値が高かったせいか言語も護身術も順調に覚えていった。
また、ちょくちょくメイドのアリスを供にして下町におりた。そして平民として生きていくにはどのように生きていけば良いかをじっくり観察した。物の値段、生活様式、服装、喋り方、観察できる物は出来るだけしたが、市井で怪しまれず生きるということを観察することだけではどう考えても難しいことがわかった。
なので14歳になった時、市井で働いてみることにした。まず、アリスに市井の生活に興味があると言って平民が着る服と帽子を何着か購入してもらった。そして、胸にさらしを巻き服を着て髪はまとめて帽子に隠し少年の姿でこっそり下町に出た。目指すは、シーガイア国と取引のある商家である。商家は人手が不足していたらしく、母が病気で毎日は看病で来れないが、小遣い稼ぎに働かせてほしいという少年をすぐに雇った。
次に、婚約者のレオとは距離をとることにした。レオとは定期的なお茶会をしていたが、前世を思い出したオリビアはこのレオとのお茶会がとても苦手であった。態度は紳士的で贈り物も定期的には贈ってくれるが、口数少ないゆえお茶会でも会話がない。弾まないというか無である。
前世がおしゃべりな関西人のオリビアとしては貴族とはいえもう少し気を許した会話をしたいところだが、レオの冷たいアイスブルーの瞳をみるとオリビアは萎縮してしまう。そんな理由でオリビアはこのお茶会をどうにかして回数を減らしたかった。そしてオリビアは意を決して提案した。
「レオ様は学園に入学されて、生徒会のお仕事もお忙しい事と思います。お茶会の回数を減らしましょう。月に1回を半年に1回などいかがでしょう」
レオは目を見開いたのちに、少しイラつきながらもぐっとこらえた表情をすると
「わかった、そうしよう」
と言い捨てて、スタスタと去ってしまった。オリビアはレオの後ろ姿を呆然と見送りながらも怒らせてしまったのだと思った。
(レオたん、めっちゃイラついてた。こわい・・・)
軽率にも心中ではレオの事をレオたん呼びしているオリビアである。まあレオとしては義務としてせっかく来てやったのにって感じかな。でもこれで憂鬱なお茶会がなくなったと喜んだ。
家出するまでの1年間は、毎日忙しかった。だが商家で働いたおかげで、シーガイア国の商人と仲良くなり、貿易会社で雇ってもらえることになった。ラメア語も完璧に習得し、シーガイア国での新生活に胸を膨らませていた。
そしていよいよ家出する前日、それはレオとの最後のお茶会日でもあった。レオは、この2年で乙女ゲームに出てくるままの美青年になっていた。
半年に1度ずつしか会ってはいないが、体躯は細身ではあるが程よく筋肉がついており、身長も伸びた。顔つきは、怜悧な印象だがご令嬢の皆様がため息をつくほどの美しさだ。さすが攻略対象。レオは優雅に席に付き、美しい所作でお茶を一口飲むとじっとこちらを見つめてきた。
「オリビアの目は美しいな」
オリビアは突然の褒め言葉にフリーズしてしまった。聞き間違いに決まってる。レオたんがこんな事を言うはずない。あまりにも驚きすぎてオリビアはぎこちなく微笑みスルーすることにした。レオは、その微笑みに少し戸惑いながら
「学園で会える事を楽しみにしている」
と告げるとまたスタスタと去ってしまった。オリビアは前にもこんな事があったよなと思いながらその後ろ姿を見つめていた。そしてその背中を見ながら心の中で
(レオたん、長い間お世話になりました。元気でね!)
とちょっぴりしんみりしながら別れを告げた。そして、大急ぎで家出の準備を始めて、早朝のうちに家出をした。
そして、現在に至る。5年ぶりにフォレスト国に訪れた目的は2つある。
1つ目は商談のため。シーガイア国に渡ったオリビアは貿易会社で働く内に船にも乗せてもらえるようになった。そして船旅をするうちにさる国で遂に見つけたのだ唐辛子を。唐辛子を持ち帰ったオリビアは加工の仕方や販路まで開拓して会社に多大な利益をもたらした。その功績から貿易会社の外交部門の要職についたのだ。
そして今回は是非ともオリビアと商談をしたいという商談相手たっての希望でフォレスト国にやって来たのだ。一度家出した国に戻るのはさすがにまずいかな?顔がさすかも?とは思った。だが今の自分の様変わりように大丈夫だと思い直した。
船旅によりこんがり灼けた小麦色の肌に、艶やかで長かった黒髪は思い切り良く肩まで切って一つに結んでいる。変わらないのはこのエメラルドグリーンの瞳くらいである。服装もこの国では女性にしては珍しいパンツルックに編み上げのブーツ、白いシャツは腕まくりしており小麦色の肌はとても健康的で貴族の令嬢には到底見えない。これはバレない。
それに、ゲーム開始から5年も経っている。主人公エミリーも2年前には学園を卒業しているはず。学園にいなかった悪役令嬢に誰が興味あるねんと思った。
それに気になっていたのだ、その後が。これが2つ目の目的である。
結局、主人公エミリーは誰を選んだのかそれが知りたかった。王子と結婚はしていないということはわかっていた。もししていたらシーガイア国でもさすがに噂は入る。平民のエミリーと王子が結婚となれば、まさしくシンデレラストーリーなのだから。
そんな軽率な好奇心でこの国に舞い戻ったオリビアは、すぐ後悔することになる。
商談相手に指定された店に着いた瞬間、その銀髪が目に入った。その瞬間に逃げれば、逃げおおせたかもしれない。でも、一瞬戸惑ったところをおそろしいスピードで近づいてきた青年に手を掴まれ、胸の内に引き込まれてしまった。
「お帰り、オリビア」
オリビアがおそるおそる顔をあげると銀髪の美青年が、艶やかな笑顔で微笑んでいた。
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