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【海翔の気持ちは分からない】

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 海翔は一緒に暮らしている祖母が高齢なので、家事をよくやっていると聞いた。
 学校での姿しか知らないので、話に聞いているだけだったが、確かに料理は上手で素早く野菜を切って焼きそばを作っていく。
 同時進行でお好み焼きも作り、切り分けてパックに入れた物を並べていく。
 拓真からしたら、のんびりマイペースな海翔しか知らないので、意外な発見だった。
「超、早いじゃん」
「まあね。もう朝昼晩作って作り置きしてるから。家帰ってから。お金のかからない節約料理。あるもので作るってやつー」
 海翔は手を動かしながら、実に楽しそうに笑う。
「意外・・・」
「え、得意って言ってたでしょ、僕」
「まあ、聞いてたけど」
 拓真が手持ちぶさたになっていると、アサミが、
「じゃあ、こっちの下から2番目の箱取って」
 と片隅に積み上げられているダンボールを指差した。
 拓真が缶コーヒーのストックを氷水のバケツに出し終えたとき、海翔が調理している目の前には人だかりが出来ている。
「はい、焼きそば三つ、1200円」
「おねえちゃん、どこの人? 見たことないね」
 やたらと日焼けした男が品を受け取りながら絡むと、海翔は愛想良く、
「残念、お姉ちゃんじゃないよ。間違えた罰でジュースも買っていってね!」
「じゃあ、コーラ3つ!」
「まいどあり!」
 どんどん売っていく。
 拓真はあっけに取られながら、アサミが片隅で昼休憩をしている間、海翔の助手として働いた。     

 髪を後ろでひとつに結んだ海翔は、速いペースで作る売るを繰り返し、あっという間に売上金を入れる箱がいっぱいになっていく。
「ちょっと、整理してきてよ。拓真」
「分かった」
 アサミがいるテーブルでお金を纏めていた拓真は横からの視線に気がつく。
「何ですか」
 そっけなく拓真が言う。アサミはふっと微笑む。
「だいたい分かるんだけど、あの子が気になって仕方が無いっていうのが」
「・・・マコさんから聞いたんですね」
「マコが書いてるブログを見ている人で、昔の自分の様な子が居るって。ちょっとやりとりしたら、似てたって」
 拓真はお金を揃え終えて、テーブルの端を見ながら黙った。
「やりとりするうちに仲良くなったから、友達と2人でバイトに来なよって言ったらOKしてくれたって聞いて。忙しいのこの時期だけだけど、私とマコ2人だと大変だねって言ったところで凄く助かったんだ」
「俺も、なんか凄くいいところで、泊めてもらって食事も貰えてバイト代までって、なんか申し訳ないです。
「でも、こっちは大助かりだわ」
 アサミは朗らかに笑ってさくさく売りさばく海翔の背中を見た。
 華奢な背中に汗が滲んでいるのが分かる。
「初めて会うときまでずっと女の子二人組だと思ってたけど」
「えっ、そうなんですか」
「だって、〝タマ〟が~ってマコが言うからね。そういうニックネームの女の子二人組だと思ってたんだよ~ ネコみたいな名前だね」
「まあ、適当だったんで。でもマコさんは知ってましたよ。俺が男だって」
「えー、言ってくれたら良かったのにね」
「ほんとに」
 何となく二人は笑い合う。
 拓真は少しの沈黙の後に、ため息をついた。
「気になりますよ、ずっと。高校入って出会いました。親しくなったのは、今年から」
「まだ、来たばかり。あと一週間以上あるよ」
「短い。向こうは、ホントになんとも思ってないと思う。ていうか、海翔はちょっと何考えてるか分からないな・・・」
 一段落したような海翔は鉄板を綺麗にするのに必死になっている。
 どうも余程向いているらしかった。
 お金を整理しにいった拓真の存在は忘れているようだ。
「うーん。私から言えるのは、ゆっくりね、ってことかな」
 拓真はそれには黙って、ぺこりと頭を下げ立ち上がり海翔の元に戻った。 
  



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