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9話 デートといえば「あーん」
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「はい、コアラカレーお待ちどう」
「……ありがとうございます」
まだリディアは少ししょげていた。
「え、可愛いです!」
しかしコアラカレーを見た瞬間、表情がぱぁと明るくなった。
コアラカレーはここの名物で、ライスにナゲットを3つ置いて耳・耳・鼻を作っている。見た目の完成度はかなり高いカレーだ。
「食事に遊び心もあるのですね」
「動物園や遊園地なんかはそうだな。気分が上がるだろ」
「はい! ……あ、今のは違います。撤回します」
俺とのデートで気分が上がった事実を隠したいらしい。
ここで軽口を叩けば延々と俺が主導権を握った状態で話ができそうだが、カレーが冷めてしまうのでやめておいた。
「じゃあ手を合わせて……」
俺が言う前に、リディアはもう手を合わせていた。すっかりこっちの生活に慣れたようだな。
「いただきます」
「いただきます」
テーブルに置かれたスプーンを持った。その時だった。
どこからともなく力が加わり、俺の手に握られたスプーンがはるか彼方へ吹っ飛んでいってしまった。
「な、何だっ?」
「もう、何をしているんです?」
リディアが犯人ではなさそうだ。まだ出会って3日目だが、嘘をつくのが下手なタイプだと思う。だからリディアは白。下着の色は水色。
まぁ突風が吹くこともあるか。生まれて初めての経験だが。
俺はカウンターに行って、スプーンを一つもらってきた。おばちゃんに笑われ、少し恥ずかしい。
「はぁ、アンラッキーなこともあるものだな」
気を取り直して食べようとしたその時、またしてもスプーンがどこかへ飛んでいってしまった。
おかしい。これは確実におかしい。
「正輝さんってそんなにドジでしたっけ」
「いやドジとかじゃない。何かに巻き込まれている気がする」
巻き込まれ体質の俺だ。動物園みたいに人の集まるところに来たら巻き込まれるのはもはや必然と言える。
どうしたものかと悩んでいると、強いスパイスの香りが鼻をくすぐった。
顔を上げると、リディアが自らのスプーンにカレーを乗せ、俺に差し出してきた。俗に言う、「あーん」だ。
「ど、どういう風の吹き回しだ?」
「べ、別に私が正輝さんに惚れることはないと証明するために、いつまでも空腹でいられたら困るだけです」
「……本当に優しいな、ありがとう」
「な、何の話ですか?」
とぼけるリディアが差し出したスプーンに乗ったカレーを食べる。今度は何も起こらない。カレーは甘口だ。
「いちいちスプーンを取りに行っていたら迷惑です。なので私が食べさせてあげるので覚悟してください」
「おう。でもいいのか? 間接キスだぞ」
俺がそう言うとリディアは一瞬にしてナプキンを広げ、彼女の可愛い顔を隠した。やっぱり無理していたんじゃないか。
だが悪くない。こんな美少女に「あーん」してもらえるのは全男の夢であると断言できる。それを俺が叶えているのだ。その権利を放棄する気は一切ない。
リディアはすぐにカレーを掬い、俺にスプーンを向けてきた。器用にも、ナプキンで顔を隠したままだ。
「は、早く食べてください。恥ずかしいんですから」
「いただきます」
「なぜまた食前の挨拶をするんですか?」
「1度目は食材と生産者への感謝。2度目は食べさせてくれる、リディアへの感謝だ」
「……意外と律儀なんですね」
「惚れたか?」
「そんなにチョロくありません。女の子を馬鹿にしないでください」
「ちぇー」
いいことをキメ顔で言えばあるいは、と思ったんだけどな。
それにしてもスプーンが吹っ飛ぶ怪奇現象、あれは何だったんだ。
カフェの外をジッと見つめるも、特に変なものは見つからなかった。
まぁ、そういうこともあるか。
リディアとの甘い時間、甘いカレーに絆されて、俺の脳内も甘くなっていた。
「……ありがとうございます」
まだリディアは少ししょげていた。
「え、可愛いです!」
しかしコアラカレーを見た瞬間、表情がぱぁと明るくなった。
コアラカレーはここの名物で、ライスにナゲットを3つ置いて耳・耳・鼻を作っている。見た目の完成度はかなり高いカレーだ。
「食事に遊び心もあるのですね」
「動物園や遊園地なんかはそうだな。気分が上がるだろ」
「はい! ……あ、今のは違います。撤回します」
俺とのデートで気分が上がった事実を隠したいらしい。
ここで軽口を叩けば延々と俺が主導権を握った状態で話ができそうだが、カレーが冷めてしまうのでやめておいた。
「じゃあ手を合わせて……」
俺が言う前に、リディアはもう手を合わせていた。すっかりこっちの生活に慣れたようだな。
「いただきます」
「いただきます」
テーブルに置かれたスプーンを持った。その時だった。
どこからともなく力が加わり、俺の手に握られたスプーンがはるか彼方へ吹っ飛んでいってしまった。
「な、何だっ?」
「もう、何をしているんです?」
リディアが犯人ではなさそうだ。まだ出会って3日目だが、嘘をつくのが下手なタイプだと思う。だからリディアは白。下着の色は水色。
まぁ突風が吹くこともあるか。生まれて初めての経験だが。
俺はカウンターに行って、スプーンを一つもらってきた。おばちゃんに笑われ、少し恥ずかしい。
「はぁ、アンラッキーなこともあるものだな」
気を取り直して食べようとしたその時、またしてもスプーンがどこかへ飛んでいってしまった。
おかしい。これは確実におかしい。
「正輝さんってそんなにドジでしたっけ」
「いやドジとかじゃない。何かに巻き込まれている気がする」
巻き込まれ体質の俺だ。動物園みたいに人の集まるところに来たら巻き込まれるのはもはや必然と言える。
どうしたものかと悩んでいると、強いスパイスの香りが鼻をくすぐった。
顔を上げると、リディアが自らのスプーンにカレーを乗せ、俺に差し出してきた。俗に言う、「あーん」だ。
「ど、どういう風の吹き回しだ?」
「べ、別に私が正輝さんに惚れることはないと証明するために、いつまでも空腹でいられたら困るだけです」
「……本当に優しいな、ありがとう」
「な、何の話ですか?」
とぼけるリディアが差し出したスプーンに乗ったカレーを食べる。今度は何も起こらない。カレーは甘口だ。
「いちいちスプーンを取りに行っていたら迷惑です。なので私が食べさせてあげるので覚悟してください」
「おう。でもいいのか? 間接キスだぞ」
俺がそう言うとリディアは一瞬にしてナプキンを広げ、彼女の可愛い顔を隠した。やっぱり無理していたんじゃないか。
だが悪くない。こんな美少女に「あーん」してもらえるのは全男の夢であると断言できる。それを俺が叶えているのだ。その権利を放棄する気は一切ない。
リディアはすぐにカレーを掬い、俺にスプーンを向けてきた。器用にも、ナプキンで顔を隠したままだ。
「は、早く食べてください。恥ずかしいんですから」
「いただきます」
「なぜまた食前の挨拶をするんですか?」
「1度目は食材と生産者への感謝。2度目は食べさせてくれる、リディアへの感謝だ」
「……意外と律儀なんですね」
「惚れたか?」
「そんなにチョロくありません。女の子を馬鹿にしないでください」
「ちぇー」
いいことをキメ顔で言えばあるいは、と思ったんだけどな。
それにしてもスプーンが吹っ飛ぶ怪奇現象、あれは何だったんだ。
カフェの外をジッと見つめるも、特に変なものは見つからなかった。
まぁ、そういうこともあるか。
リディアとの甘い時間、甘いカレーに絆されて、俺の脳内も甘くなっていた。
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