上 下
49 / 57

第四十九話『天才性』

しおりを挟む
 
「彼処は良かった。好きな事が出来るから」

 そう語り始めたリベンの目は煌めいていた。
 輝かしい記憶を辿る様に、その目は確かに鮮やかだったのだ。

「でもまぁ色々あって……工業科の奴等とバトる事になっちまってな。
 はは。別に大した理由でも、事でもない。
 ……ただ負ける気は、誰にだってなかった」

「───」

 ユリスは今もなお、黙り続ける。
 どんな表情をしているかは、彼のぼさぼさの髪で隠れていた。

「たった四人の機械兵科対、数十人規模の工業科。
 でもこっちには天才しか居なかった。
 軍事顧問のリアル。手先が異常に器用なリーグ。
 ……そしてあたしとユリスで、技術担当を務めた」

 リベンは笑った。

「───これ以上の最強のチームは無いと、そう思ったね。
 あたし達の機械兵オートマタならやれるって。
 敵が作る鉄屑何かに相打ちすら喫する事ないって、そう確信してたなぁ
 ……まぁ事実そのまま勝ったわけだが。ありゃ楽しかったなぁ……」

 そんな思い出話を語りながら、楽しそうに一人笑うリベン。
 しかし。

『彼』にとっては、それが煽りに見えたらしい。

「──────ふざけるなッ!!!」

 突然話を遮る様に、彼は怒号を以て声を荒げた。
 その後、彼が連ねた言葉には。

 ……悲痛なまでの叫びが、秘められていた。

「何かと思えば思い出話?
 そもそもあの勝ちは俺たちが居たからじゃない!
 ──────お前だけでも、勝てた戦いだっ!!」

「……」

 その言葉に、私リベンと以外のその場の誰もが口を噤んだ。
 確かに、そうだと。

 あの一方的な戦いになり得たのは、リベンが要因だったと。
 彼女の天才性を恨むかの様に、その場には静寂が走った。

 その言葉に異議を呈す者はただ一人。
 うっすらと笑みを浮かべるリベンのみしか、居なかった。

「まぁ、違うと嘘になるだろうなぁ」
「───くそっ……。だからお前が嫌いなんだ」
「ほう。だからあたし達を裏切った、ってっことなのか?」
「……違うっ!!」

 ユリスは言い逃れる様に、大きく横に首を振った。
 それを、ただ。

 リベンは睥睨し、佇んでいた。
 ……他の者が介在する余地はない。

 それ程までの緊張感が、そこには漂っていたのだ。

「違うもんか。……お前はあたしの天才性に嫉妬し、帝国軍の密の任を受け入れた。
 どうせあたし達がシエル民だとか、任を成功させたら、帝国直属の技術者にしてやるとか言われたんだろ?」
「……く」

 ユリスは歯軋りを行ったが、言い返しはしてこなかった。
 図星であるのだろう。

 ああ……嫉妬にて身内切りとは。
 殺したいくらいに、私が嫌いなタイプだ。

「……」

 ……。
 …………。

 ユリスはしばらく黙り込み、次第に静寂が訪れる。
 そして。

 刻限を以て、彼は言い放ったのだ。

「───そうだよ。俺はリベン達を売った」
「は。やっぱ裏切ってんじゃねぇか」
「違う。俺はただ、リベン達を誘き寄せただけ
 だから俺は悪くない。やったのは帝国軍───」

 連ねられる責任転嫁の言葉。
 そこで痺れを切らしたのか。

 蹴破られ。
 扉が勢い良く開いた。

 そこから出てきたのはリアルである。
 ずんずんと歩み寄って行く彼女であったが、最後には感情的にユリスの胸ぐらを掴んだ。

 盗み聞きして居たのに。
 案外大胆なモノです。

「ぐ……」

 呻きをあげるユリス。
 直後、リアルの口から出てきたのは。

「───ふざけないでっ!!」

 怒声。
 耐えかねなくなった故の、心の底からの叫びだった。

「裏切って無い?俺は悪く無い?
 ───責任転嫁をしようたって、罪は罪だからな!!」

 口調も荒く、まるでリベンの様に。
 ユリスへ怒号を飛ばす彼女の様は、歴とした理由もあった。

 それは、

「だ、だ、だから何回も、言ってるだろ……俺は───」

 未だ罪を認めぬユリスへの反感故。
 ここまで貫き通す精神は素直に感服だが───醜く過ぎるであろう。

「こん……のクソ野郎ッ!!」

 だが体罰はNG。
 私はリアルが振り上げた手を受け止め、その幼さを睨んだ。

「───捕縛した対象への傷害行為は許されませんね」
「……っち!!」

 案外あっさり引きましたね。
 まぁ『私だったから』であるでしょうが。

 鬼気迫るリアルを、腕のみで遠ざけ。
 全く反応を示さなくなったユリスを見て、リベンは笑った。

「そんなかっかするなよ、リアル」
「リベンさん……と、リーグ」
「ああ、俺は呼び捨てなのね」
「所詮『お前』だからな。まぁ良い。
 ──────兎に角、ユリス。まだ尋問は終わってねぇぞ」

 ち、という舌打ちが聞こえた。
 そう。未だ本題は済んでいない。

 私はその言葉と共に、ホログラムを投射して居た機械を回収した。
 これでリベン達の通信は聞こえなくなった訳である。

「シール。何をする気……?」
「いやなに。ただホログラム越しでは、意思が伝わりきらないと思いまして」

 部屋の外から足音が聞こえてくる。
 それに私が口角を上げたのと同時に。

 察したユリスは焦った様に顔を上げた。

「エクセル、お前まさか───!!」

 口頭で、伝えはしない。
 只々鼻笑いで、答えておくだけで良い。
 そうすれば、今後の衝撃が大きくなるでしょうし。

 ──────ねぇ、そうでしょう?

「───!!」

 ……リベン。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

処理中です...