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死亡前 7月2日15時55分
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7月2日、月曜日。
放課後の美術室で、野上周大は机に手をおき、よりかかかったポーズを取っていた。その向かいには、彼をモデルに絵を描く朱音の姿があった。
「次の日曜日どこ行く? 俺はどこでもいいよ」
周大はポーズを崩さないように気をつけながら、朱音に声を掛けた。
朱音は無言のまま、スケッチブックに向き合い、鉛筆を走らせている。
絵を描く練習をしたい朱音は、彼氏の周大にモデルを頼み、デッサンに付き合ってもらっていた。
「俺の話聞いてる? 」
一瞬、朱音は周大を見たが、すぐにスケッチブックに視線を戻した。ワンテンポ遅れて返事をする。
「……聞いてるよ」
返事はそれだけで、朱音は黙々と手を動かした。
会話がうまく進まないので、周大は少し苛立ちが募り、その場で小さく足踏みをしてしまう。
「動かないで! モデルなんだから」
小さな動きだったが、朱音は目を光らせ、めざとく周大を注意した。
朱音もまたイライラしていた。
思うように絵が描けない。自分が描く線の一本一本が納得いかない。それを修正するように、何度も線を重ねたところで、スケッチブックの周大の姿は歪むだけ。軌道修正も不可能になっていた。
「どうした? 何かあったろ?」
朱音の苛立ちを感じ取った周大は心配そうに声をかけた。
朱音はわかりやすかった。感情がすぐ態度に現れる。隠しているつもりなのにいつも周大には気づかれてしまう。
「はぁ……。なんでもない」
朱音は聞こえるほど大きいため息をついた。
朱音は漠然と自分の将来に対する不安を抱えながら、軽音部のOG樋川恵に会いに行ったが、彼女は自らバンド活動に終止符を打ち、夢を追うことを諦めようとしていた。
鉛筆の先が画用紙の上でさ迷う。日曜日のことを思い返すと線がブレた。またスケッチの輪郭が歪む。
下手くそな線画を上塗りするようにまた線を重ねた。
周大が心配そうに朱音を見つめている間、スケッチブックを引っ掻くような鉛筆の音が教室に響いた。
カランっ……。
朱音は唐突に鉛筆を放った。
「朱音?」
周大が目を細めた。驚きと心配と、二つの感情が混ざった顔をしている。
「描いても描いても下手くそだよ。……こんなんじゃ全然ダメだ」
「俺は朱音が描いた絵が好きだよ」
周大は励ましてくれている。わかっていても、今の朱音の心には響かなかった。
朱音は描き途中だった周大のスケッチを真っ二つに破り、美術室を飛び出した。
「おーい! 朱音ー!」
周大の声を振り切るように、朱音は走った。先の見えない未来から逃避するように。息が切れるまで走り続けた。
周大の声が聞こえなくなるところまで走っても、背中から自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
「俺は朱音が描いた絵が好きだよ」
周大の言葉を思い出すが、闇に覆われた朱音の心に届く光にはならなかった。
放課後の美術室で、野上周大は机に手をおき、よりかかかったポーズを取っていた。その向かいには、彼をモデルに絵を描く朱音の姿があった。
「次の日曜日どこ行く? 俺はどこでもいいよ」
周大はポーズを崩さないように気をつけながら、朱音に声を掛けた。
朱音は無言のまま、スケッチブックに向き合い、鉛筆を走らせている。
絵を描く練習をしたい朱音は、彼氏の周大にモデルを頼み、デッサンに付き合ってもらっていた。
「俺の話聞いてる? 」
一瞬、朱音は周大を見たが、すぐにスケッチブックに視線を戻した。ワンテンポ遅れて返事をする。
「……聞いてるよ」
返事はそれだけで、朱音は黙々と手を動かした。
会話がうまく進まないので、周大は少し苛立ちが募り、その場で小さく足踏みをしてしまう。
「動かないで! モデルなんだから」
小さな動きだったが、朱音は目を光らせ、めざとく周大を注意した。
朱音もまたイライラしていた。
思うように絵が描けない。自分が描く線の一本一本が納得いかない。それを修正するように、何度も線を重ねたところで、スケッチブックの周大の姿は歪むだけ。軌道修正も不可能になっていた。
「どうした? 何かあったろ?」
朱音の苛立ちを感じ取った周大は心配そうに声をかけた。
朱音はわかりやすかった。感情がすぐ態度に現れる。隠しているつもりなのにいつも周大には気づかれてしまう。
「はぁ……。なんでもない」
朱音は聞こえるほど大きいため息をついた。
朱音は漠然と自分の将来に対する不安を抱えながら、軽音部のOG樋川恵に会いに行ったが、彼女は自らバンド活動に終止符を打ち、夢を追うことを諦めようとしていた。
鉛筆の先が画用紙の上でさ迷う。日曜日のことを思い返すと線がブレた。またスケッチの輪郭が歪む。
下手くそな線画を上塗りするようにまた線を重ねた。
周大が心配そうに朱音を見つめている間、スケッチブックを引っ掻くような鉛筆の音が教室に響いた。
カランっ……。
朱音は唐突に鉛筆を放った。
「朱音?」
周大が目を細めた。驚きと心配と、二つの感情が混ざった顔をしている。
「描いても描いても下手くそだよ。……こんなんじゃ全然ダメだ」
「俺は朱音が描いた絵が好きだよ」
周大は励ましてくれている。わかっていても、今の朱音の心には響かなかった。
朱音は描き途中だった周大のスケッチを真っ二つに破り、美術室を飛び出した。
「おーい! 朱音ー!」
周大の声を振り切るように、朱音は走った。先の見えない未来から逃避するように。息が切れるまで走り続けた。
周大の声が聞こえなくなるところまで走っても、背中から自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
「俺は朱音が描いた絵が好きだよ」
周大の言葉を思い出すが、闇に覆われた朱音の心に届く光にはならなかった。
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