48 / 51
番外編SS
番外編SS05.レラちゃんパン買いに
しおりを挟む
『焼きたてのふわふわパンが食べたい!』
常にそう願っていたわたしの願いがついに叶えられる日がやってきた!
パンを作るために、商人から小麦粉を仕入れたのだ。
ドラクの地には上質な天然水が豊富だし、岩塩もある。必要な材料は揃っている。
パン職人ほどではないが、小麦農家で育ったので、作り方は知っている。
「これを混ぜればいいんですか?」
「そうだ。混ぜて、こねるんだ」
ハティは得体の知れない物質に触れるように、恐る恐る指先で水を含んでどろりとした小麦粉に触れた。
「そんなんじゃダメだ。手のひらを使ってこねるんだ」
「そ、そうなんですね……」
明らかに気持ち悪がっている。
「もういい、わたしがやる!」
思いっきり引いているハティにかわり、力いっぱい小麦をこねた。「教えてください」と言ってきたのは彼女の方だったのに、今はわたしの様子を眺めているだけだ。
時間をおいて発酵させれば、あとは焼くだけ。
焼き上がりの香ばしいパンの匂いを思い出し、胸がワクワクすると同時に腹の虫が鳴った。
「おーい! リグ」
城の厨房から外に出て、集落外れでリグと合流した。
「レラの言うとおりに“パンかまど”を作ったぞ」
「ありがとう!」
リグが腕を向けた先には、パンかまどが出来上がっていた。
いびつな煉瓦が積み重なった様子はいかにも素人の手造りだとわかる。
祖国のものに比べれば小さく簡素であるが、パンを焼く上段部分はドーム状になっており、下段には薪をくべる造りになっている。
パンかまどとしてはバッチリな見た目だ。
「よし、これでふわふわパンができるぞ」
意気揚々とパン種を置く。
「……で、火はどうやってつける?」
「そりゃあ、あれだろ。火を起こすなら……」
リグが親指を立てて自身の背後を指した。
指し示す空の方向には、こちらに飛来してくる黒い影が見えた。
……まさか!?
そのまさかである。
ドラゴン姿のベルがこちらに接近してくる。
積み上げた薪を吹き飛ばしながら、かまどの前に着地した。
「……おい。何もこんな大袈裟に火をつけなくたっていいだろう」
呆れ返り、リグにじっとりとした視線を向けるが、逆に威張って言い返された。
「寵妃の口に入る初めてのふわふわパンだ。我が主君自ら、妃のために火を起こしたいと仰せである」
こんな時に改まった態度で言うので、折れる他ない。
それに、せっかくベルがドラゴン姿になってくれたのだ。
「わかったよ。……ベル頼む。薪に火をつけてくれ。あぁ、少しでいい。火の粉を起こすくらいでな。火加減が肝心なんだ」
ドラゴン姿になったベルの口先を撫でると、喉を鳴らした。「わかった」の返事だ。
ベルはスゥーっと息を腹に吸い込み、炎の息を力いっぱい吐き出した。
ゴオォォォーー!!
「えーーーー!! ちょっと!! 強すぎだってば!!」
ドラゴンの口から吐き出された息は炎の柱となってかまどを包み込み……。
全てが灰色になるまで燃やし尽くした。
「……火の粉でいいって……、言ったのに……」
わたしは地面に両手と両膝を着いて嘆いた。
後に残ったのはすす汚れたかまどの残骸と炭のようになったパン種だった……。
「あぁ……」
「……」
リグもハティも、掛ける言葉はなく、呆然と立ち尽くしていた。
「わたしの……ふわふわ……パン」
地面に涙が伝い落ちる。
「……いや……、悪りぃ……、どうも火加減が……難しかった……みてぇだな。ベルはレラのために力いっぱいやったんだ……わかってくれや……」
「……わかってるよ」
リグのフォローが虚しく心に響く。
むしろ、ベルに失敗させてしまい申し訳ない気持ちになってくる。
* * *
「じゃあ、行ってくる!」
「ええ、気をつけてくださいくださいね」
「……あ、俺の分も頼むわ!」
「……わたくしの分もお願いします。ベルの分もお忘れなく」
「わかってるよ!」
自家製パンが焼けないのはしょうがない。
気持ちを切り替えて、麓のヨークシュアのパン屋に買い物に出掛けることにした。
もちろん、交通手段はドラゴンだ。ベルがヨークシュアまで連れていってくれる。
パンを買って往復で数時間。
小麦をこねて発酵させて焼いて……、その時間を考えると買い物に行った方がよっぽど効率的だと、ドラゴンの背にまたがってから気がついた。
それでもわたしは、ドラクの地で作る自家製パンを諦めない。
いつかは必ず……!
そう思いながらも、パン職人が作るふわふわパンのことですぐに頭がいっぱいになり、ウキウキしながらベルの背に乗って買い物に出掛けた。
常にそう願っていたわたしの願いがついに叶えられる日がやってきた!
パンを作るために、商人から小麦粉を仕入れたのだ。
ドラクの地には上質な天然水が豊富だし、岩塩もある。必要な材料は揃っている。
パン職人ほどではないが、小麦農家で育ったので、作り方は知っている。
「これを混ぜればいいんですか?」
「そうだ。混ぜて、こねるんだ」
ハティは得体の知れない物質に触れるように、恐る恐る指先で水を含んでどろりとした小麦粉に触れた。
「そんなんじゃダメだ。手のひらを使ってこねるんだ」
「そ、そうなんですね……」
明らかに気持ち悪がっている。
「もういい、わたしがやる!」
思いっきり引いているハティにかわり、力いっぱい小麦をこねた。「教えてください」と言ってきたのは彼女の方だったのに、今はわたしの様子を眺めているだけだ。
時間をおいて発酵させれば、あとは焼くだけ。
焼き上がりの香ばしいパンの匂いを思い出し、胸がワクワクすると同時に腹の虫が鳴った。
「おーい! リグ」
城の厨房から外に出て、集落外れでリグと合流した。
「レラの言うとおりに“パンかまど”を作ったぞ」
「ありがとう!」
リグが腕を向けた先には、パンかまどが出来上がっていた。
いびつな煉瓦が積み重なった様子はいかにも素人の手造りだとわかる。
祖国のものに比べれば小さく簡素であるが、パンを焼く上段部分はドーム状になっており、下段には薪をくべる造りになっている。
パンかまどとしてはバッチリな見た目だ。
「よし、これでふわふわパンができるぞ」
意気揚々とパン種を置く。
「……で、火はどうやってつける?」
「そりゃあ、あれだろ。火を起こすなら……」
リグが親指を立てて自身の背後を指した。
指し示す空の方向には、こちらに飛来してくる黒い影が見えた。
……まさか!?
そのまさかである。
ドラゴン姿のベルがこちらに接近してくる。
積み上げた薪を吹き飛ばしながら、かまどの前に着地した。
「……おい。何もこんな大袈裟に火をつけなくたっていいだろう」
呆れ返り、リグにじっとりとした視線を向けるが、逆に威張って言い返された。
「寵妃の口に入る初めてのふわふわパンだ。我が主君自ら、妃のために火を起こしたいと仰せである」
こんな時に改まった態度で言うので、折れる他ない。
それに、せっかくベルがドラゴン姿になってくれたのだ。
「わかったよ。……ベル頼む。薪に火をつけてくれ。あぁ、少しでいい。火の粉を起こすくらいでな。火加減が肝心なんだ」
ドラゴン姿になったベルの口先を撫でると、喉を鳴らした。「わかった」の返事だ。
ベルはスゥーっと息を腹に吸い込み、炎の息を力いっぱい吐き出した。
ゴオォォォーー!!
「えーーーー!! ちょっと!! 強すぎだってば!!」
ドラゴンの口から吐き出された息は炎の柱となってかまどを包み込み……。
全てが灰色になるまで燃やし尽くした。
「……火の粉でいいって……、言ったのに……」
わたしは地面に両手と両膝を着いて嘆いた。
後に残ったのはすす汚れたかまどの残骸と炭のようになったパン種だった……。
「あぁ……」
「……」
リグもハティも、掛ける言葉はなく、呆然と立ち尽くしていた。
「わたしの……ふわふわ……パン」
地面に涙が伝い落ちる。
「……いや……、悪りぃ……、どうも火加減が……難しかった……みてぇだな。ベルはレラのために力いっぱいやったんだ……わかってくれや……」
「……わかってるよ」
リグのフォローが虚しく心に響く。
むしろ、ベルに失敗させてしまい申し訳ない気持ちになってくる。
* * *
「じゃあ、行ってくる!」
「ええ、気をつけてくださいくださいね」
「……あ、俺の分も頼むわ!」
「……わたくしの分もお願いします。ベルの分もお忘れなく」
「わかってるよ!」
自家製パンが焼けないのはしょうがない。
気持ちを切り替えて、麓のヨークシュアのパン屋に買い物に出掛けることにした。
もちろん、交通手段はドラゴンだ。ベルがヨークシュアまで連れていってくれる。
パンを買って往復で数時間。
小麦をこねて発酵させて焼いて……、その時間を考えると買い物に行った方がよっぽど効率的だと、ドラゴンの背にまたがってから気がついた。
それでもわたしは、ドラクの地で作る自家製パンを諦めない。
いつかは必ず……!
そう思いながらも、パン職人が作るふわふわパンのことですぐに頭がいっぱいになり、ウキウキしながらベルの背に乗って買い物に出掛けた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる