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第二十三話.説明と異変
しおりを挟むあれからエミルはタローを担ぎ、何とか街へと戻ってきていた。辺りは薄暗くなってきており、人通りが少なくなっている。
エミルは目の前にある冒険者ギルドへと入ると、珍しくすっからかんなギルド内を気にしないまま受付へと向かい、受付嬢ナズナに声を掛けた。
「お姉さまは何処に居るんですの」
エミルの声に反応したのか、書類の整理をしていたナズナは顔を上げると、突如勢い良く立ち上がった。
「何があったの!?」
ナズナは口調を変えることすら忘れ、受付から出てエミルに駆け寄る。
「……あとで説明するんですわ。取り敢えず今はお姉さまを呼んでほしいですの」
エミルは冷静にそう伝えると、近くにひっそりと置かれていた椅子を並べ、そこにタローを寝かした。
エミルは溜まっていた空気を肺から押し出すと、タローの向かいに椅子を置き、自分もそこへと座る。
すると、人が居ないことを確認したナズナもエミルの隣に並んで座った。
「ごめんなさい……マイは今クエストに行っているのよ。近くにAランク級の魔物が発生したからその討伐にね」
「Aランク……? ここは始まりの街なんじゃないですの? 最高でもCランクしか出て来ないと聞いていたんですわ」
「そうね。最近まではそうだったよ」
そう言うとナズナは静かにタローを見詰める。
『僕のこの能力は魔物を引き寄せるんですよ』
その様子を見ていたエミルは、ふいにタローの言葉を思い出す。
あのタローの言葉が本当ならば、強力な魔物がこの街に集まってきているのはタローの能力が原因である事になる。
思い返せば、始まりの街に竜が現れた時もタローがその場にいたと聞いている。そして今回エミルが同行した時も、朝なのにも関わらず夜に活動する筈のアンデッドが道を塞いできた。
(この事は……言っておいた方がいいんですの……?)
もしこの事が本当ならば最悪この街が破壊される危険性がある。だがタローは、この事は他の人に言って欲しく無さそうな話し方をしていた。
「不思議な事もあるんですわね……」
「本当にね。マイやエミルさんが居て本当に助かってるよ」
「……そうですの」
本当は話した方が良いのだろう。だがエミルは、これに関してはなるべくタローの気持ちを尊重したかった。
街の安全を守る為にはタローが街を出ていくしかない。そんな事はあってはならないと、エミルは自らの過去を思い返しながら心に刻みこむ。
「それで、洞窟で一体何があったか教えてくれる? 純粋くんがこんなになるなんて、初めて見たよ」
「純粋くん……?」
「あぁごめんごめん。この口調で話すとつい言っちゃうんだ。タロー君のことね」
ナズナが訂正すると、あぁ、とエミルは納得したのか頷いた。
「純粋くん……たしかにそうかもしれないですわね」
エミルは軽く笑うと、これまであったことをすべて説明した。もちろんタローに関することは除いて、だ。
ナズナはその黒髪を揺らして首を傾げて見せた。
「魔王軍幹部アーケイン……純粋くんはそれにやられたんだね」
「えぇ、そうですわ」
「でも久しぶりに聞いた気がするよ魔王軍なんて名前」
「知っているんですの?」
「まぁね。一〇年位前にマイから聞いただけだけど」
「お姉さまから?」エミルはナズナが放った言葉に聞き返すと、ナズナは、確か……、と顎に手を当てた。
「あーそうそう、マイが冒険者になる理由に関係してるんだよ。マイが元々村人だって事は知ってるよね?」
「当たり前ですわ!」
「なら、その村が魔物によって壊されたのも知ってるよね」
「えっ……!?」
サラリととんでもない事を言ってみせるナズナ。あのマイのストーカーであるエミルでさえその事実を知らなかったが、エミルはここで知らないと答えると何か負けた様な気がして、つい頷いてしまう。
ナズナはそれを確認すると、流石だねと薄く笑ってみせた。
「魔物に村が潰されるなんて特に珍しい事でもないけど、マイは魔王軍の仕業とか言ってたよ。元々マイは勇者とかそういう昔話が好きみたいだから、勘違いかも知れないけどね」
「そうですの……」
ナズナは冗談半分に話しているが、エミルにはそれが到底嘘だとは思えなかった。
魔王軍は確かに存在している。それはこの目で確かに見た。そして、その魔王軍にタローが関わっていることも。
もしかしたら、という嫌な思考がエミルの脳裏によぎる。
タローはマイには自分の事を話せないとエミルに話した。それは、マイの過去が関係しているからではないか。
つまり、マイの村を破壊した犯人は──
エミルは首を振る。
(そんな事があるわけ無いのですわ)
魔王軍を抜けたとタローは言っていた。つまり、タローは少なからず魔王軍のやり方に反対しているという事になる。そんなタローが村を破壊するなんて事をする筈がない。
「ん……うぅ……」
タローが寝返りを打とうとして、椅子から転げ落ちる。
するとタローはパチリと目を開け、身体を起こした。
「いてて……アレっ、ここは……」
タローは辺りを見渡し、ナズナを発見すると首を傾げた。
「えっと……なんで僕はギルドに……?」
「それはエミルさんに聞いてください。私は話を聞いただけなので」
ナズナは無愛想に、だが笑みを浮かべながらそう言った。そんなナズナの変わりようにエミルは驚きを隠せず口を開けていたが、ハッとしてタローを見た。
「まぁ……その……目を覚まして良かったですわ。帰っている最中にいきなり倒れたんですの」
エミルは気恥ずかしくなったのかドリル状になった髪を弄り、視線を逸しながらタローに説明をした。
だが肝心のタローは首を傾げたままである。状況がまだ理解出来ていないのだろうか。
「えっ……と……ありがとうございます……?」
その言葉に、エミルは引っ掛かりを覚えた。というのも、まるで初めて出会った❘他人《ひと》の様な接し方であったのだ。エミルは何故かそう感じた。
エミルの額から冷や汗が流れ、頬を伝う。
「もしかして……貴方……」
タローは未だ首を傾げたままである。それは今の状況に対してか、それとも目の前に存在するエミルに対してか。
タローは困惑気味に頬を掻いた。
「すいません……何処かでお会いしましたか……?」
▽
「──どうしたアーケイン。アイツは? まさか、手ぶらで帰ってきた訳ではなかろうな」
「いえ、いえいえいえ。もちろん収穫はありましたとも。それは僕の手では無く、頭の中に」
「早く説明しろ。貴様と話していると殺したくなる」
「そうですねぇ。少しだけ彼に細工を……おや、そんなに殺気立ってどうしたんですかねぇ? 僕と殺し合う気ですか? えぇ、えぇ、貴方が一生立てない身になっても良いなら受けますよ」
「……これだから貴様が嫌いなんだ」
「それはお互い様でしょうねぇ」
「とにかく、はやくアイツを取り戻してこい。世界平和の為にはアイツの能力が必要だ──」
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