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別れの時
しおりを挟む「ちぇるちぇるううう行かないでええええ」
「レイチェルですわ!変な名前で呼ばないで下さる!?」
勢いをつけてイブはレイチェルの腰に抱きついた。
昨日とはうってかわって随分懐いている。
どういうことだ、とランはその光景をいっしょに見ていたソルに目配せした。ソルは苦々しい顔で口を開く。
「……イブが餌付けされた」
「餌付け?」
「高飛車女にカニとフグで懐柔された」
「それで急に態度が変わったのか……。簡単に人から物を貰っちゃいけませんって教えなかったのかよ。てかそんなに悔しそうにする位ならソルの兄さんが食わせてやれば良かったのに」
「言った。だが、『何言ってんの!?奢ってくれるんだよ!?』って」
「普段割と財布の紐が固いのが仇になったんだ。あと地味にモノマネ上手いな」
「イブへの愛があれば造作もないことだ。……まあ、奴等は今日で国に帰るらしからな。少しは目を瞑る」
ソルは女子二人の内の一人に熱い視線を送る。
フリッツも距離の縮まった二人を羨ましそうに見詰めながら荷物を運んでいた。
「また私に食べ物をたかる気ですの!?」
「持ってるもん全部出せぇぇぇぇい!!」
イブは遠慮も何もなくレイチェルの体をまさぐっている。
ランは被害者と加害者の二人を遠い目をして見詰める。
「……羨ましい?あれ」
「イブが密着してるだけで妬ましい」
「更に上の感情だった」
妬ましいまでいったのか。
暫くすると準備が整ったとフリッツがレイチェルを呼びに来た。
「イブ、戻って来い」
「はーい」
ソルが声を掛けるとイブは素直に寄ってくる。結局何か貰ったのか口をモグモグさせている。
ソルはイブを後ろから抱き込むとその右手を取って手を振らせた。
「イブ、バイバイしろ」
「二人ともばいばーい」
「ええ、またどこかで会えることを楽しみにしてますわ」
「マスター、行きましょう」
男性陣は何とも薄情である。
呆気ない別れだった。
三人は遠ざかっていく馬車を見送る。
「……行っちゃったねぇ」
「逝ったな」
「ソルの兄さん変換に悪意ない?」
「気のせいだ」
「あ、ところでランは私達より前に二人と面識あったの?」
「何で?」
「なんとなく」
「面識って程でもないけどね。ちょっと頼み事を断られただけだよ」
「ふーん、フラれたんだ」
「決め付けないでくれる!?フラれてないから!!」
「何?悪巧み?」
ランを見上げるイブの瞳は好奇心に爛々と輝いている。だが、ランはにこりと笑って否定した。
「そんなんじゃないよ」
「胡散臭いなぁ。報酬次第では私が女王様の代わりにランの頼み事を聞いてあげないこともないよ?」
その言葉にランの体がピクリと動いた。
イブは続ける。
「女王様に頼んだってことは私でも事足りる用件んだと思うんだよねぇ」
イブはニッコリ無邪気な笑みを浮かべた。
「さあ、どうする?ディラン第二王子殿下?」
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