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温泉に行こう!

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「イブ、いーぶ。起きろ」
「……むにゃ………」

 ソルは自分に寄り掛かって気持ち良さそうに眠るイブを揺さぶる。足湯に浸かっていたらうとうとしてそのまま寝てしまったのだ。
 ソルはそんなイブの寝顔をずっと見つめていたわけだが、そろそろ辺りが暗くなり始めたので幸福な時間を中断させることにした。

「イブ」

 そうソルが肩にもたれ掛かる少女を呼ぶ声はどこまでも優しい。その左手は自然と少女の頭を撫でている。

 すると、イブが少し身動ぐ。

「ん……あとちょっと………」

 イブは寝惚けたまま、ソルの胴にぎゅう~っと抱きつく。そんなイブにソルが抗えるはずもない。

「…………仕方ないな。もう少しだぞ」
「はい、甘やかさなーい」

 ピンクの空気が充満しそうになったのをランがぶった切った。ソルにジロリと睨まれるがランはまったく気に留めない。

「寝るなら宿に着いてからの方がいいでしょ?温泉付きの所案内してあげるよ」
「温泉?」

 イブがぴくりと反応した。

「露天風呂は?」
「勿論ございますよ」

 イブの問い掛けにランはクスクス笑いながら茶化して答える。

 ガバッ

 イブは勢い良く立ち上がり、湯から出て足をさらっと乾かした。神力を使えば一秒もかからない。

 眠気は一瞬で吹っ飛んだようだ。

 手早く身支度を整えるとソルの服をぐいぐい引っ張る。

「ほらっ、ソル行くよ!!早くしないと持ち上げてっちゃうんだからね!」
「はいはい、イブに運ばれるのも悪くないがちょっと待て」
「置いてくって言わない辺りがこの二人だよね……」

 ランは最早このあまあまのやり取りには慣れた。
 ソルは銀髪の頭をぽんぽんっと撫でると自分もさくっと用意する。



「それじゃあ行こっか」

 そうして再びランの後に付いて歩き出す。

「おい、あんまり料金の高い所はやめろよ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。金はそんなにかかんないよ」
「ならいいが……」

 ソルは一応念を押しておく。

「ソルはしっかりしてるねえ」
「下手に貯蓄を減らしてイブに苦労させるわけにはいかないからな」
「わー頼もしい」
「俺の聖女のためならば」
「うふふ~さすが私の相棒」

 見詰め合う二人。

「二人の世界に入らないでくださーい。入場規制かけますよー」
「んなもんイブの愛らしさで強行突破してやるよ」
「かわいさが強靭っ」
「私の外見破壊力高いね~」
「イブは世界一の美人さんだからな」

 ソルは真顔で言い切った。

「ふふっ、ありがと。ソルも私の好みドンピシャの美形さんだよ?」
「イブ……」
「僕はもう何も言わなーい」

 感激しているソルを余所にランはズンズンと歩を進めるが、器用にもイブをきつく抱き締めたソルははぐれることなく付いて行く。



 少し歩くと、三人はその宿に着いた。

 イブは宿の外観を見て一言。


「ランの嘘つき………」



 その建物は城にしか見えなかった。






「え?泊まるとこって大体どこもこんな感じでしょ?」

 ランはあっけらかんと言い放った。そんなランにソルは怪訝な眼差しを送る。

「どこのボンボンだよお前」
「はははは。大丈夫だよ、聖女って言ったら結構割り引きしてもらえるから」
「ごまかすな」
「ラン様やばーい。美しすぎる美形だわー。お金下さい」
「掌返しがえげつないねぇ、イブ」

「えへへ」

「イブ照れるな。可愛いから。そんな表情を世間知らずの坊っちゃんに見せる必要なんてない。金だけ貰っとけ」
「突っ込むとこそこっすかソルの兄さん!!てかあんた金持ちに何か恨みでもあるの!?」
「特には」
「ないのかよ!!」


 結局イブとソル、あとなぜかランもそこに泊まることになった。

「イブとソルの兄さんの部屋は隣にしとく?」
「二部屋も要ると思ってんのか?」
「すいませーんダブル一部屋とシングル一部屋でー」
「かしこまりました」

「てか、お前は家に帰れよ」
「まあまあ、いいじゃん。僕もたまには羽を伸ばしたいし。温泉はこっちだよー」
「おっふろ!おっふろ!」
「イブ走るな。転ぶぞ」

 角を曲がるとソル達とイブは入り口で別れた。

「じゃああとでねー」

 イブは手を振るとさっさと中に入って行った。ソルは黙ってその背中を見送る。


「……」
「ソルの兄さん一緒に入りたかったとか思ってる?」
「……………」
「ごめんやっぱ何でもないや」


 聞くまでもないだろう。



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