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水着の破壊力は規格外のようです。
しおりを挟む水の国、ヒュドール王国。
その国土の大半が海に面しており、観光資源となる美しい湖や滝などを多く有する水に恵まれた国。また、温泉も数多く存在するため療養地としても名を馳せている。
レンガ造りの道の両端には小さな溝があり、そこには常に透き通った水が流れていて、広場などには必ずと言っていい程噴水が設置されている。
初代の王族である水竜の力が王族に代々受け継がれているお蔭で晴れの日が多いにも関わらず水が干からびることはないのだとか。
そのため、世界で最も美しい国と言われており観光客が絶えないらしい。
さらに特徴として神、主に主神ユイスへの信仰が厚く王都には大きな神殿が存在する。
ヒュドール王国では神殿は神に祈りを捧げる場所でもあり、人に自分の隠し事を打ち明ける場所でもあるらしい。
「お嬢ちゃん、これも持っていきなよ!」
商人特有の良く通る声がイブに向けて投げ掛けられる。
「ふむ?はひはほう」
「イブ、飲み込んでから喋れ」
「ふぁい」
イブはおばちゃんから串焼きを受け取った。
イブの両手は様々な種類の食べ物で一杯になっている。先程からイブの可愛さにやられた人々が商品を次々に差し出して来るのだ。
(こんなことなら出店のある通りになんて来るんじゃなかった……)
ソルは内心嘆息する。
自分以外がイブに群がるのは非常に面白くない。
イブに人が寄ってくる光景を見ると自然と眉間にしわが寄る。
ソルも人外レベルの美形なので視線を集めるのだが、明らかに不機嫌な様子のため話し掛ける者は誰もいない。
ちなみに、男がイブに近付いてきた場合は殺気を放って追い払っている。
「うふふ~ソル怖い顔しないの~」
イブに人差し指で眉間をぐりぐりされる。
なぜかイブは上機嫌だ。
イブの頬はほんのり赤く色付いていてその碧眼は潤んでいる。
(かっ可愛い!!!!)
あまりの可愛さにソルは硬直した。
表情が固まったことで周りからはさらに不機嫌になったと思われたことだろう。
数秒が経って我に帰るとこのイブを他人に見せたくなくて思わず抱き締めてしまう。
「なぁに~?」
イブはケラケラと笑い声を漏らす。
(ん?)
スンスン
イブから香ってくる匂いに首をかしげる。
(この匂い……)
「イブ酒飲んでる?」
「うふふ~飲んでる~誰かがくれたから~」
イブの右手には確かにアルコールの匂いがする飲み物が握られている。
(誰だよイブにこんな強い酒渡したの!酔わせてお持ち帰りする気か?俺だったらするな)
「とりあえず酒は没収な」
「ああ~」
ソルはイブがこれ以上酔わないように酒を取り上げ飲み干す。
残念そうな顔をするイブの口に先程貰った串焼きを突っ込む。
もぐもぐもぐ。
美味しかったのか、目を細めて無言で食べ進める。
その姿も小動物的で愛らしく、ついつい給仕に夢中になってしまう。
「美味しいか?」
「美味しい」
「そうか」
ソルは軽く表情をゆるめ、柔らかな銀髪を撫でる。
その二人の仲睦まじい様子は周囲の人々を和ませる。
あらかた食べ終わるとイブは噴水のある広場へふらふらと歩き始めた。
「イブ?何をするんだ?」
「酔い醒ましに一発芸」
イブは噴水のフチに立つと右手をピンッと上に伸ばし声を張り上げた。
「さぁさぁ!お立ち会いの皆さま!あなたの聖女、イブです!!「俺のだ」今から催し物をするからお金を落としていくといいよ」
イブの容姿に惹かれてもう既にそこそこ人が集まっている。
言い終わるや否や、イブはマントを脱いで俺に投げて寄越した。マントの下に着ていた聖女らしい衣装が明るみになり、イブの銀髪を日射しが照らす。
そしてイブは神力を駆使する。
「はぁ!」
掛け声と共に噴水から吹き出していた水が大量に空高く舞い上がった。細かい水飛沫がソルが居る方へも飛んで来る。
「「「「「「おおっ!」」」」」」
観客が歓声を上げる。
イブは右手腕を自分の体の前で右から左に動かす。
すると、それに伴って筒状になった水もイブの周りを動く。
イブが舞うように動き始めると水も動き、次第に水は東方の蛇のような竜へと姿を変えていく。その頃にはなかなかの大きさになっていた。
それを見た観客達はさらに興奮し、イブの前の石畳にチップを投げる。
太陽の光が舞う水滴で反射してイブの周りがキラキラと光っているように見える。
完全に竜の形になると竜は噴水に巻き付く。
パチンッ
イブは指を鳴らした。
その音が鳴ると同時に竜がその形のまま凍りつく。
「「「「「「ワアアアアアアア!!!!」」」」」」
見物人達の大歓声が辺りに響き渡る。
イブはこれで終わりと言うように噴水の縁から下りた。
チップはだいぶ貯まっていた。これで今日の宿代は問題ないだろう。ソルとイブは二人でチップを集め始めた。
店をほったらかして見物していた人が大半だったので皆氷の竜を記録昌石におさめてから帰っていく。
その中で一人のおじさんが近寄って来た。
「いや~良いものを見せてもらったよ。ここまでできる程神力を持っている人はなかなか居ないからね。チップの代わりにこれをあげるよ」
そう言って差し出されたのは二枚のチケットだった。
イブは取り敢えず受け取る。
「すぐ近くのプールの入場券なんだ。良かったら行ってくれ。水着のレンタルもあるから」
それだけ言うとおじさんは店に戻って行ってしまった。
イブはソルを見上げて首をかしげる。
「どうする?折角だし行こっか」
「ああ、そうだな。まだ午前中だしな」
二人はプールに行ってみることにした。
石畳の道を歩いていくとすぐ近くにそこはあった。他の建物よりもだいぶ大きい。
「思ったよりも大きいねぇ」
「さすが水の国だな」
二人はさらっと受付を済ませるとそれぞれ更衣室に入って行った。
ソルは適当な水着を借りて着替え、プールの入口の壁にもたれ掛かってイブを待っていた。
ソルは何となくここまで来たので考えていなかったのだ。
プールに来るということがどういうことなのか………。
「ソルお待たせ~」
「ああ……」
ソルはイブの声がした方へ振り向いた。
「!?」
「ゴホッゴホッ」
むせた。激しくむせた。
イブの格好はソルには刺激が強すぎた。
後頭部の高いところで一つに括られた銀髪。その白い肌を惜しげなく晒した白ビキニ。
ソルは、鼻血を出さずに済んだのは奇跡だと思った。
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