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服装は規格外のようです。
しおりを挟む聖女。
多くの人はこの言葉を聞くと「高潔な女性」や「慈愛に満ちた女性」をイメージするだろう。
だが、この世界では神より授かった力を使う職業に就いている女性、という意味でも使われている。
つまり、何が言いたいのかと言うと、「聖女」と呼ばれる存在に一般的に考えられるイメージを持っていると痛い目に会うかもしれない、ということだ。
具体的にはこんな奴。
「こんにちは!あなたの聖女。イブです」
そう言って少女は樽の上でポーズを決めた。
周囲は突然出てきた少女に唖然としている。
「だから、初対面の人に会うときにその第一声は止めなさいって言ってるだろ。イブは俺の聖女だ」
低くて聞き心地が良い声がすると少女の両脇から手が生え、華奢な体が宙に浮いた。
「ソル!今絶対決まってたよね!!」
「可愛らしかったけどそれは俺に向けてやって欲しかった」
イブを樽から降ろすとソルと呼ばれた青年はどこか眠たげな瞳を向けてイブの頭を撫でる。
ヘンテコな会話を繰り広げる二人だが、その容姿には目を見張るものがあった。
イブと呼ばれた少女は腰まで届く珍しい銀髪を持っており、ストレートの艶やかな銀糸が動きと共に靡く。
また、その肌はキメ細かく、透き通るような白さを誇っている。
パッチリとした碧眼に赤い唇、筋の通った鼻梁は理想の配置を体現している。
ソルと呼ばれた青年は、名のある舞台俳優も裸足で逃げ出すような美丈夫だ。
深い青色の髪は邪魔にならない程度に切り揃えられており、清潔感を醸し出している。
長身で手足はスラリと長く、引き締まった体型は、小柄なイブと居ると尚更引き立つ。
この二人に共通する点は、ボロいマントの下の服装がとにかく派手ということだ。
イブの方は全てが純白の布地の服で、品が良くレースやフリルがあしらわれている。金の刺繍も細やかで、広がった袖にも金色が見受けられる。
他人が着るとただのコスプレだが、イブにはあつらえたかの様に良く似合っていた。
ソルの服装もおおよそ庶民が日常生活で着るようなものではなかった。
お前はどこの騎士だよ!と言いたくなる、ダークブルーを基調とした騎士服に似たものを着ている。
無愛想なソルの表情と相まって、本物の騎士よりも騎士らしい。
二人とも、この辺境の地の寂れた酒場ではゴミ箱に入っている宝石くらい浮いていた。
イブは、その澄んだ瞳でくたびれた店員を見やり口を開く。
「とりあえず生二つで」
「は?」
「だから、お酒を頼んでるの。持ってきてくれる?」
「は、はい」
その間にも異色の二人組は切り株の方がまだましなくらいの椅子に腰掛けていた。
背景と人物のミスマッチが半端じゃない。
「イブ、足ぶらぶらさせんな。生足が他人にみられる」
「は~い。ソルママは厳しいねぇ」
イブは素直に足を止めた。
「ど、どうぞ」
コトッ、と音を立ててジョッキが机に置かれる。
「ありがとう」
「……」
イブは礼を口にし、ソルは無言で店員を一瞥するのみに留めた。
イブは辺りをぐるりと見回す。
「ねぇソル、ここ田舎っていうのを差し引いてもみんな活気がなくない?やっぱり聖女的に当たりな予感」
「イブみたいに可愛い女の子が居ないからって理由かもしれないぞ」
「ソルは無愛想キャラのクセに割りと直ぐデレるよね」
「イブだけにはな」
ソルの返答にイブは軽く肩をすくめて返す。
バンッッ!!
二人が雑談に花を咲かせていると、酒場のドアが大きな音を立てて開かれた。
二人が視線を向けると、そこにはいかにも外見が『俺ワルです』と主張している三人組の男達。
緊迫していく空気の中でイブは一言。
「あ、ドア壊れた」
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