上 下
32 / 36

キティは鈍感キャラじゃないのです!!

しおりを挟む

 ある日を境に、ジークの私に対する対応が今までとは違った種類の甘さを含んだものになった。

「キティ」
「なあにジーク」

 呼ばれたのでなんの用か聞き返したけど、ジークは無言で私を抱き上げるだけだった。あれか、呼んでみただけってやつ。
 ジークに頬同士を擦り付けられ、むぎゅむぎゅされる。

「キティは可愛い、可愛いな」
「うん、ありがとう」
「昼食のデザートは俺の分もいるか?」
「うん」
「午後は叔父上の所に行くのか?」
「うん」
「結婚式は来年でいいか?」
「う……いやいやいや、どさくさに紛れて重大な決断させないでよジークぅ」

 流れでうんって答えちゃうところだったじゃん。養子の時はハメられた感満載だったからね。同じ轍は二度も踏みませんよ。

「キティ好きだ」
「うみゅ」

 再び頬をスリスリされる。
 最近ほんとにジークの甘さ増したなぁ。

 私は鈍感系ヒロインではないのでさすがに気付く。
 ふむ、ジークってば私のこと好きだな、と。
 もちろん恋愛的な意味で。
 そのことに気付いた私がジークとすぐに恋人になるかといったらそうでもない。

 ありがちかもしれないけど、私は人に恋をする気持ちというのがよく分からない。ジークのことは大好きだし愛してるけど、それが家族じゃなくて恋人に向ける種類の愛なのかが分からない。
 最近まで引きこもっててほとんど他人との関りがなかったので他の魔族が当然にしている経験を私はしていないからかもしれない。ちょっと頭はいいけど精神が子どもっぽい自覚はある。
 ジークに甘えたい気持ちはあるけど、それは多分兄のように思ってるからだ。

「よ~しよ~し、キティはかわいいな」
「……」

 そんな私の内心を知ってか知らずか、ジークは赤ちゃんをあやすように私を揺する。
 ……とても想い人に対する行動とは思えないよジーク。
 私が恋愛感情が分からない理由の一端は絶対ジークにもあると思う。

「そうだキティ、キティは成長したいか?」
「? それは暗にキティの精神が未熟だと……」
「違う。キティの性格は可愛いからそのままでいい。身体的に成長したいかしたくないかということだ」

 ジークの言葉に私は首を傾げる。
 身元も血の繋がった家族も分からない私が成長できる筈ないのに……。

「叔父上とキティの魔力の質と波長が偶然にも一致した。叔父上に魔力をもらえばキティも成長できるぞ」
「……」
「キティ? ……固まってるな」

 キティが、成長……?

「ぼんきゅっぼんの夢が叶う!? 色っぽい大人のおんなになれるの!?」
「あ……ああ、まあこれからの成長次第でなれるんじゃないか?」

 ジークが目をそらしてそう言う。
 絶対思ってないな。

「ジークは私に成長してほしい?」
「ん? キティの愛らしさは外見が多少成長したくらいでは変わらないからな。変わるとすれば俺が周囲からロリコンと見られるかそうじゃないかだ」
「キティ成長しようと思う」
「キティがしたいならそれでいいんじゃないか?」

 ジークがロリコン扱いされるのはダメ……ダメだよ。魔王様の威厳がなくなっちゃう。

「キティ急いで大きくなるね……」
「フッ、慌てずゆっくり成長しろ。あと、俺の気持ちに対する答えも急がなくていいからゆっくり考えてくれ」

 付け足された言葉に私は内心ドキッとした。

「『キティ』の時間はまだ動き始めたばかりなんだ。いつか、答えが出たら教えてくれ。幸い俺達の寿命は長いからな、いくらでも待つ」
「ジーク……」
「もしキティの答えが否でも構わない。キティの気持ちが定まった時、俺からちゃんと気持ちを告げさせてくれ。いいな?」
「う、うん」

 ちょっと気恥ずかしい気持ちを抱えつつもコクリと頷く。
 すると、フワッと花が開くようにジークが微笑んだ。

「ありがとう、キティ」

「……!」

 
 その微笑みはあまりにもきれいで、優しくて―――。

 ドクンと、私の中に何かが芽吹く気配がした。




しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。 ちょっと、聞いてないんですけど。 ※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。 ※不定期更新 ※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...