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懐でぬくぬく
しおりを挟むぎゅううううううううう。
「……あー、ジークハルト?そんなに密着しなくてもキティちゃんはどこにもいかないよ?」
「……」
リンドヴルムの問いかけにジークハルトは無言で返す。
その腕が抱き締めているのは、自身の上着の中に押し込んだ白髪の幼女。
リンドヴルムはその光景にニヤつきが止まらない。
「いや~まさかジークハルトのこんな姿が見られるなんてねぇ。たまには下界に降りてみるもんだね」
麗しい魔族は洗練された動作でカップの紅茶に口を付ける。その向かいでは魔王に包み込まれた幼女がホットミルクをちびちびとなめている。どうやらまだ熱いらしい。
ホットミルクをフーフーと冷ますキティをジークハルトはガン見する。
無表情ではあるが、内心はウチのキティめっちゃ可愛いと思っているに違いない。
前よりも考えていることが分かりやすくなったな、とリンドヴルムは微笑ましく思う。
「ふふっ……」
リンドヴルムが軽く声を出して笑うと、ジークハルトの締め付けが一層強くなる。キティはまだ寝惚けているのか無抵抗でされるがままだ。
「……叔父上、キティは可愛いからずっと見張っていないとすぐに浚われてしまう。叔父上の様にキティの魅力に惑わされるんだ」
「え?僕の犯行動機キティちゃんの魅力ってことにされちゃったの?甥を思う叔父の気持ちは?」
「キティの可憐さは息を吸ったら吐くのと同じ位当たり前のことだからな。自覚していなくても仕方がない」
「あれ?おかしいな。急に甥と言葉が通じなくなった」
リンドヴルムはジークハルトの変わり様に初めて驚いた。どう考えてもペットを溺愛する飼い主や子供を溺愛する親バカの反応といっしょだ。……いや、それ以上か。
「キティ、あーん」
「あーん」
キティはジークハルトが口元に差し出したクッキーに無防備に食い付く。
モグモグと頬を膨らませて咀嚼している様子にジークハルトの口元がほんの少し緩む。
(ジークハルトがこんな風に喜んでることなんて今まで……いや、一度だけあったか)
もう大分前のことだ。
リンドヴルムは初めて魔王が感情をあらわにした出来事に思いを馳せる。
それまでのジークハルトは冷徹無表情の代名詞で、あの時は城の全員が戦慄した。
叔父の内心など微塵も興味のないジークハルトは、キティの若干ポッコリしたお腹を撫でながら言い聞かせる。
「キティ、キティは可愛いのだからもう一人で散歩するのは止めろ。変態魔族が寄ってくる。それとお菓子につられてついて行ってもいけない」
「あいあい」
「……分かっているのか?いくら可愛くても俺は誤魔化されんぞ」
簡単に誤魔化されているジークハルトは長い人差し指でキティの頬をつつく。すると、まだ寝惚けているキティはジークハルトの指をぱくりとくわえた。
「っ……キティ、おいしいのか?」
「んむんむ……ほんのりくっきーあじ……」
完全に悶えている甥をリンドヴルムは生暖かい目で見守る。
(完全に諦めてたけど、これはもしかするかもなぁ。案外道のりは長そうだけど……)
ジークハルトはマヌケな顔をしているキティをジッと見詰める。
「……もう首輪にリードを着けて持ち歩くか…………」
「だからそれは止めなさいって」
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