天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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二章

シリルには師匠がいるらしい

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「シリル、そろそろ師匠に挨拶しに行った方がいいんじゃないか?」

 不意にパパがそんなことを言った。
 シリルに師匠なんていたんだ。なんの師匠なんだろう……。そもそも、シリルが大人しく師事するとは思えないけど。
 パパに話を振られたシリルは露骨に嫌そうな顔をした。

「え~、あんまり気が向かないんだよねぇ。師匠、毎回僕のこと怒るんだもん」
「怒ってるんじゃなくて叱ってるんだろ。翁はかなりまともな人だからな。俺も娘ができてから、前よりも翁の気持ちが分かるようになった」

 パパが私の頭を撫でる。

「ねえねえ、シリルの師匠ってなに? 何の師匠なの?」
「ああそうか、シロは知らなかったな。翁はシリルに火薬の扱い方や爆弾の作り方を教えてくれた人だ」
「へぇ、独学じゃなかったんだ」

 勝手に独学だと思ってた。シリルが大人しく人に習うとは思えないし。

「そう思うだろ? でもな、爆弾を作ったりするのにはちゃんとした師のところに弟子入りして資格を取らないといけないんだ」
「そうなんだ。勝手に無免許だと思い込んでた」
「分かるぞ。資格持ちだとは思えない言動だもんな」

 うんうんとパパが頷く。
 若干貶されてるけど、シリルは気付いてないのか気にしてないのか涼しい顔だ。多分後者だね。
 シリルが私のことを後ろから抱き込み、上から顔を覗き込んできた。

「シロ、僕のことただの爆弾魔だと思ってたの?」
「うん。違うの?」
「ううん。違わない」

 違わないんじゃん。免許持ってるだけの爆弾魔だよ。

「でも、よくシリル免許取れたね。人格的なので弾かれそうだけど」
「あっはっは、爆弾への愛に目覚めたのは免許取った後だったからね。いや~、運がよかったよ」
「生まれつきの爆弾魔じゃなかったんだ」
「シロの中での僕の印象ってどれだけ酷いんだろうね」
「……」

 シリルがジーっと見てくるけどシロはお口チャックする。沈黙は金だ。

「まあいいや。シロのかわいさに免じて追及は許してあげましょー。じゃあもうこの話は終わりってことで……」
「シリル、俺は流してやらんぞ」

 シリルがジトリとパパを見遣る。

「……隊長、空気読んでくださいよ。今完全にその話題終わったでしょ」
「お前、『空気読む』なんて概念知ってたんだな」
「父娘揃って僕のこと馬鹿にしすぎじゃない?」

 アニじゃあるまいし、それくらい知ってるよ、とシリルが呟く。シリルもアニのことバカにしてるじゃん。

「はぁ~、分かったよ。今度の休みには師匠に会いに行ってきます」
「そうしろ。シロも連れて行ったらどうだ?」
「え、連れて行っていいんですか?」
「いいぞ」
「?」

 シロもシリルのお師匠様に会いに行くの?
 思わぬ展開にきょとんと二人を見る。

「やった~! あのジジイ子ども好きだからシロがいれば怒られないよ~。シロ、お菓子かってあげるから僕と一緒にジジイに会いに行こうね」
「いいよ」

 ぎゅうううとシリルに抱き締められる。シリル、子どもみたい。
 そんなシリルを見てパパが一つ溜息を吐いた。そしてボソリと呟く。

「遅れてきた反抗期だな……」
「隊長なんか言った?」

 シリルがジトリとパパを睨むけどパパは平然としている。

「遅れてきた反抗期だなって言った」
「復唱してほしいわけじゃないよ!」

 「全く、隊長は人の心の機微が分からないんだから」とシリル。

 いや、パパもシリルには言われたくないと思うよ?














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