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1巻

1-3

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「何、この今生の別れみたいな雰囲気」

 感動の別れに水を差すエルヴィスの呟きは無視する。パパも聞いていない。

「行ってくるよシロ」
「ん。いってらっしゃい」

 最後に、私のおでこにちゅってしたパパは何度も振り返りながら出かけて行った。
 パパの姿が見えなくなるとやっぱり寂しい。パパがいなくなって閉められた扉を見つめているとエルヴィスが私の肩を叩いた。

「シロ、お昼まで何かしたいことある?」
「ん~……ボール!」
「ボール遊びかな?」
「うん。一緒にボール遊びしよ」
「いいぞ。じゃあ庭に行こうか」
「うん」

 なんだかんだ言っていても優しい。わざと明るい声をかけてくれたエルヴィスに私は大きく頷いた。



   ***エルヴィス視点***


「エルヴィス、ボール持ってきたよ」

 シロが持ってきたのはボールとは呼べないボロボロの布で出来た球だった。

「シロ、そのボールはなんでそんなことに?」
「パパと遊んでたらどっか破れちゃうから、毎回って使ってるの」

 確かにシロが手にしている布製のボールはいびつい目が目立っている。だが確かに使えないほどの破損ではないようだ。

「買い替えればいいのに」
「ううん、これがいいの」

 シロは腕の中のボールをギュッと抱きしめた。初めて隊長におねだりして買ってもらったものなので本格的にダメになるまでは大事に使いたい、というシロの意をんで隊長も新しいものは買わないでいるらしい。
 俺達は適当な距離を取り向き合った。シロがボールを構える。

「それじゃあいくよー」
「よし来い」

 かわいらしい声とともに、小さな体躯からボールが投げられた。
 ビュンッ!

「え?」

 ボールは俺の頬をチリッと掠り、到底ボールとは思えない音を立てて、通り過ぎていった。
 恐る恐る背後を確認すると、ボールが衝突したと思われる木がえぐれている。
 俺の背中を冷や汗が伝う。確かに我らが隊長ならばボールで木を倒すなどあくびをしながらでも可能だが、シロもそれに近いことをやってのけるとは思ってもみなかった。
 ニコニコ笑っているシロはこれでも軽く投げたつもりなのだろう、まだまだ余力がありそうだ。

「今度はまっすぐ投げれるように頑張る!」

 表情はかわいいが実質死刑宣告だ。
 控えめに言って生命の危機を感じる。
 死因が幼女の投げたボールに当たったからなんて嫌すぎる! そんなので喜ぶのはウチの弟だけだ‼
 このままキャッチボールを続けたら間違いなく怪我をする。
 ボールを破壊してしまえば続けなくて済むが、シロが大切にしているボールを故意に壊すことなどできない。
 そして約三秒思考を巡らせた俺の決断は……

「――――シロ、俺ちょっと体調悪いからやっぱり中で遊ばない?」

 俺は常識のある立派な大人だ。
 こんな時、良識のある大人は子供を傷つけないように平然と嘘を吐くのである。


 なんとか生命の危機を回避し、無事に昼食の時間になった。俺はシロと手を繋いで食堂に向かう。

「シロは何が好きなんだ?」
「おにく!」

 初めて食べた時からシロは肉のとりこになっているらしい。

「じゃあ今日もお肉にしようか」
「うん」

 食堂では肉か魚のどちらかを自分で選べるようになっている。シロはもっぱら肉ばかり食べているらしい。

「はいシロちゃん。いっぱい食べて大きくなるんだよ」
「ありがとう!」

 まだ分厚い肉が噛みきれないシロのために、薄くスライスされた専用メニューをシロは料理人から受けとる。
 しかし、確かに肉自体は薄いが、その量は異常だった。

「シロ……それ全部食べるのか?」
「もちろん!」

 シロのおぼんに載った皿の上には、シロの顔が隠れそうな程山盛りになった肉。
 肉以外は俺の半分以下だが、五歳にしては明らかに大食いだ。普段あまり食事の時間がかぶらない俺は知らなかったが、この山盛りの肉と愛らしい少女のギャップが食堂の名物となっているらしい。周りの人間は驚くことなくシロの姿を見守っている。
 シロは作ってもらった自分専用の椅子を引っ張ってくるとその上に座り、手を合わせた。

「いただきまーす」
「めしあがれ」

 一生懸命もっきゅもっきゅと肉を咀嚼そしゃくするシロは肉食動物ののようでかわいい。それは俺含め、見ている者全員の意見だろう。

「――ふう、おなかいっぱい」

 ほのぼのとした気持ちで眺めていると、肉との格闘を終えて、シロが満足そうに椅子にもたれかかった。
 腹がいっぱいになったからか、トロンと眠そうな目になっている。

「眠いのか? お昼寝するか」
「ん……」

 一応返事は帰ってきたが、シロの意識の半分はもう夢の中に旅立っているようだ。
 シロを抱っこして部屋まで運び、ベッドに寝かせる。するとすぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。
 スヤスヤと寝息を立てるシロを確認し、俺はある人物を呼び出した。


     * * *


 エルヴィスとご飯を食べてから、いつの間にか眠ってしまったみたいだ。ふわ、とあくびをして目蓋まぶたを開ける。エルヴィスおはよう、と言おうとしたのだけど、なんとそこにいたのはエルヴィスではなくアニだった。

「……ん? なんでアニがいるの?」

 目をこすりながら聞く。アニはいつも通り全力の笑顔でこちらに手を振る。

「寝起きのシロちゃんかわいい‼ 兄さんにシロちゃんといてやってって言われたんだよ」
「そうなの……?」

 パパから私を任されたエルヴィスが、私の側を離れるなんて、もしかして何かあったのかな? そう思うけど目の前のアニはニコニコしていて一切そんな気配を気取らせない。

「じゃあシロちゃんこれからどうする? お外で俺と遊ぶ?」
「遊ぶ!」

 でもこの人たちならきっと大丈夫だろう。うん、と体を伸ばしたら眠ったせいかすっきりしていた。まだまだ遊べそう! アニに向かって元気よく手を挙げたら、でれっとアニの顔が緩んだ。

「何して遊びたい?」
「んとね、鬼ごっこ!」
「チョイスがかわいい‼」

 この会話を繰り返していたら日が暮れることが分かっているので、私はベッドを降りて、アニの手を引いて庭へ向かった。

「じゃあシロちゃんは十数えたら俺を追いかけてね」
「うん分かった。い~ち、に~い……」

 目を閉じて、ゆっくり十数える。

「――じゅうっ!」

 数え終わって振り向くと、まだアニは私から少しだけ離れたところで手を振っていた。む、完全に子供扱いだけど……
 ぽんっ。

「たっち」

 近づいたら逃げられるし、アニの足の長さと私の足の長さでは追いつけないのは分かりきっている。――それなら、分からないように近づけばいいよね!
 抜き足差し足でアニの所に近づき、背伸びして、アニの背中をタッチする。
 すると、アニが目を見開いた。

「あ……」

 シロの勝ち! 呆然とした顔ににこっと笑って手を振った。


「じゃあ次はアニが鬼ね!」
「あ、うん、分かった。じゃあ十秒数えるね」
「うん!」

 よーし、今度こそスピード勝負だから出来るだけ遠くまで離れないとね!


「ゼー、ゼー……」

 結局日が暮れるまで走り回って、私は一度も捕まらないまま鬼ごっこは終了した。手加減されたのかな? とも思うけど、当のアニはぐったりとベンチに横になっている。私はそんなアニの体の上に座っている。

「アニ大丈夫? これ痛くないの……?」
「大丈夫。かなり疲れただけだから。シロちゃんが俺の上に座ってるのは疲労回復のためだから」

 心配してくれるシロちゃんマジで天使。そう言って、いい笑顔でサムズアップされると、多分大丈夫なんだろうなって感じがする。

「……痛くないの?」
「シロちゃん、羽のように軽いからね」

 改めて聞くと、また素敵な笑顔が返ってきた。

「――うわぁ~、アニ顔がにやけてるよ?」
「シリル!」

 そんなアニに苦笑していると、偶然通りかかったシリルが声をかけてきた。
 するとアニがちょっとごめんね、と私の体を持ち上げてから、シリルの肩を叩く。

「タッチ」
「え?」
「誠に遺憾だが体力が底をついてしばらく動けそうにない。だからシリル、隊長が戻ってくるまでシロちゃんの面倒見て」
「はぁ、別にいいけど。アニがバテてるの珍しいね」
「色々あったんだよ……」
「ふーん。まあ良いや。シロおいで~」
「はーい」

 あ、本当に体力の限界だったみたい。私はシリルにそのまま抱っこされる。
 それから笑顔を向けてくれたアニに手を振った。

「アニばいばい」
「うん、またあとでね~……」

 手を振り返した後、アニが力尽きてベンチに突っ伏したのが見えた。
 し、心配……! と思ったのだけどシリルはあっさりと歩き出してしまう。

「今から僕の試作品を爆破させようと思ってたんだけど、シロ見学する?」

 穏やかな顔なのに、吐き出す言葉は誰よりも物騒だ。アニは大丈夫? と聞いたら大丈夫なんじゃない? と言われた。アニが大丈夫なら……

「見学する!」
「ふふっ、シロはかわいいねぇ。爆弾の次にかわいい」
「え、私、無機物に負けたの?」
「でもほぼ同率一位だよ」
「それは素直に喜べないかな」

 自分がなんとも言えない顔になったのが分かる。シリルはにこにこ微笑んでそれ以上のことは言わない。
 不思議な空気のままシリル専用の爆破場に到着した。広くて周りは石の壁で囲まれている。何やら奥の方には機械も積んであるようだ。

「爆破場って何? 前に言ってた工房とは違うの?」
「ここが出来る前はね、そこかしこで爆発させて備品とか建物を壊しまくってたから、爆弾を試すならここでやりなさいって偉い人が作ってくれたんだ。爆弾を作る工房はまた別の所にあるよ」
「よくクビにならなかったね」
「特殊部隊はみんな似たようなものだからね。いちいち目くじら立ててたら今頃全員クビになってるよ」
「あ、だから特殊部隊だけ別にやたらと広い訓練場があるの?」

 私の問いにシリルはニッコリと微笑んで答えた。それだけで私は察する。
 シリルは私を降ろすと、今から試すという爆弾の準備をし始めた。危なそうなので端の方にちょこんと座って待機する。

「シロ、準備できたからこっちおいで」

 しばらくしてシリルにちょいちょいと手招きされたので寄っていく。そこには沢山のスイッチが置いてあった。

「地面の中に爆弾を仕掛けておいたから、今から順に爆破させてくよ」
「ほうほう」

 シリルはまず一番左のボタンを押した。
 ドオオオオオオオオオオオン‼
 ボタンを押すと同時に、爆音が響き渡り、遠くの地面が吹っ飛んだ。予想以上の威力に驚く。

「……シリルはどんな兵器を開発したいの?」

 私の呟きはシリルに届かず、爆弾魔は高笑いしながら次々とボタンを押していく。

「ははははっ‼ あっははははははは‼ ふはははははははははははは‼ ね、綺麗だろうシロ!」

 いつもは穏やかな笑みの人間が目をギラギラさせて高笑いしているのはかなり怖い。どうすればいいか分からないまま座っていると、爆弾の威力がどんどん大きくなっていく。最後の爆風と共に飛んできた砂が不運にも私の目に入った。

「いてっ」

 目に砂が入ったことに驚き、私はギュッと目をつぶる。

「いたい……」

 痛みにもだえていると、何か温かいものに抱き上げられた。

「シリル、止めろ」

 低い声が発されたのと同時に爆発音が止んだ。慣れ親しんだ声に私は目をつぶったまま顔を上げる。

「パパ!」
「ただいま、シロ。すぐに目を洗いに行こうな」

 目元にキスを落とされる。そこでようやくシリルは私がいたことを思い出したようだ。

「ああっ! シロごめんね。すっかり忘れてたよ……」
「ん、大丈夫。パパが止めてくれたから」
「シロ、当分ここに来るのは禁止だ。シリルも、もうシロを連れ込むなよ」
「分かった」
「分かりました」

 それだけ言うと、パパは私の目を洗うために早足で爆破場を後にした。
 目の洗浄が終わると、パパにギュッと抱きしめられた。

「シロただいま」
「うん。パパおかえり」

 みんなと楽しく遊んでいたけど、やっぱりちょっと寂しかったから私はギュウウウとパパにしがみついた。

「シロ、今日は楽しかったか? パパがいなくて寂しくなかったか?」
「んとね、楽しかったけど、やっぱりパパと遊ぶのが一番楽しい!」

 そう言って私もぎゅっと抱きつく。

「っ、シロ~!」

 なにやら感激した様子のパパにぎゅむぎゅむ抱きしめられる。
 たくさん動いたし、砂も浴びていて埃っぽいのであまりおすすめしないんだけどな!

「パパ、お風呂入りたい」

 パパの胸を押してそう言うと、すぐに頷いてくれた。

「そうだな。汗を流しに行こう。あ、そうだ、今日は部屋風呂じゃなくて大浴場の方に行ってみるか。今なら誰もいないだろうから貸し切り状態だぞ」

 パパの言葉に思わず顔を上げる。

「大浴場ってとってもおっきいお風呂?」
「そうだぞ~。そんでもって何個も湯船がある」
「いく!」

 パパに連れて行ってもらった大浴場は本当に広くて驚いた。
 泳げるほどの広さだよ、と前にシリルから聞いていたけど本当だった。
 体を洗った後、思わず飛び込んでザブザブ泳いでしまった。


 お風呂から上がって、パパが用意してくれた着替えを手に取る。

「……なに? これ」

 上衣と下衣が一体になっていて、柔らかな生地は真っ黒だ。フードには三角形の耳を模した布が付いている。パパを見上げると説明してくれた。

「これは着ぐるみっていうんだ。他にも色んな動物のものがあるが、今回は猫さんだぞ」
「ねこ!」

 猫は知っている。たまに見かける野良猫を触りたいと思っていた。

「この腹の部分にボタンを外してから足を通すんだ」
「分かった!」

 パパが腹のボタンを留めて、猫耳付きのフードをかぶせてくれるけど自分ではどんな姿になっているか分からない。私はパパの前でくるんと回ってみせた。

「どう?」
「――ぐっ! かわいい‼」

 短いうめきと一緒にパパが私を持ち上げてぎゅうぎゅうと抱きしめる。聞きたかったのはそういうことじゃなかったんだけど。ちゃんと着られているならまあいいかな?

「似合いすぎる! やっぱり俺の見立ては間違ってなかったな!」

 フードの上から私の頭に頬をこすり付けるパパはまさに親バカそのものだろう。

「他のやつらにも見せてやろう。このシロを見ることができないのはさすがに可哀想だ」

 そんな言葉で持ち上げられて、どこかへ連れていかれる。親バカにしか思えない言葉だけど、パパは本気で言っているのだろう。あれよあれよと言う間に脱衣所を出る。
 脱衣所を出てすぐの所でシリルに遭遇した。
 廊下を歩いていたシリルもこちらに気付く。

「先ほどはすみませんでした……って隊長、風呂行ってきたんですか。ということはもしかして腕の中にいるのはシロ?」

 首を傾げたシリルがトコトコと歩いてくる。着慣れない服装なので、なんだか見られるのが恥ずかしくて、フードをかぶったままパパの首に抱き着いた。
 だけどやけにテンションの上がっているパパがとんとんと背中を叩く。

「ほらシロ、シリルの方を向いてやれ」
「……ん」

 顔だけシリルの方へクルリと向けた。

「‼」

 私の顔を見た瞬間、シリルはいつもの微笑みを浮かべたまま固まった。目を開いたまま微動だにしない。どうしたんだろう。急に固まったシリルに首を傾げる。

「シロがあんまりにもかわいいからシリルはびっくりしちゃったんだ」
「そんなまさか」

 大袈裟な……と呟くとパパが片眉を上げる。

「パパは何も大袈裟なことなんて言ってないんだがな。……まあいい。ほらシリル、今なら特別にシロを抱っこさせてやるぞ。俺は今気分がいいからな」
「え⁉ いいんですか! 抱っこします!」

 固まっていたシリルは一瞬で復活すると両手を突き出してきた。まるで新しいおもちゃをもらう子供のような反応だ。爆弾以外では見たことがないキラキラした表情にびっくりする。
 でもパパにはそれも予測の範疇だったらしく、にこにこ笑いながら私をシリルに渡した。

「ははっ。ほら、落とすなよ」
「は~い」

 シリルがそっと私の体を抱っこする。シリルは腕の位置を調整してから、ほおっと息を吐いた。

「うわぁ、あったかい……というか熱い? シロ、熱が出てるんじゃないんですか?」
「今は風呂上がりだからな。まあ普段も俺達よりは体温が高いぞ」
「へ~。それにすごく軽いですね。こんなに小さくて軽いのによく生きてるな……。ちゃんと内臓入ってる?」

 顔をほころばせていたシリルは一転して真面目な顔になり、私の胸に耳を当てて心臓の鼓動を確認しようとする。さすがにびっくりして両手を前に出してシリルを止めようとした時だった。

「あー‼ 何してんのさシリル‼」

 階段を上がってきたアニが大声を上げて、ズンズンと歩いてくる。

「何ってシロの生存確認だよ。てかアニがうるさくてシロの心臓の音が聞こえないんだけど」
「かわいいシロちゃんが死んでるわけないだろ……って着ぐるみ姿、かわいすぎっ⁉」
「今気付いたのかよ」

 私が着ぐるみを着ていると認識した瞬間、アニがそのまま後ろに倒れた。直立の姿勢からそのまま倒れたため床に頭を打ち付けていたけど痛みは感じていないようだ。さすがというかなんというか……私はアニが心配だよ……
 仰向けに寝転がったアニは宙を見つめながら呆然と呟く。

「ここは天国……? そしてシロちゃんは俺を迎えにきてくれた天使……?」
「シロが天使なのは事実だが、今はどっからどう見ても黒猫だろ」
「無駄ですよ隊長。今そいつなんも聞こえてないですから」
「そうみたいだな」

 シリルもアニも冷静なのが怖い。胸の前で手を組んでひたすら何かをブツブツと呟くアニはついにこの世界への感謝をも口にし始めていた。
 そろそろ起き上がったほうがいいのではと思ったが口にはしない。この状態になったアニは何も聞いていないからだ。
 それから何事か仕事の話をし始めたパパたちにエルヴィスが合流したところまでは覚えている。でもいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 眩しくて目が覚める。よく寝たからかスッキリと起きられた。上半身を起こして伸びをする。

「ふぁ~。おはよう……ん?」

 隣を見ても、一緒に寝ていたはずのパパがいない。起きた時にパパがいないのなんて初めてだ。
 トイレかな?

「パパどこ?」

 てててっと歩いていって確認するが、トイレのドアは開いていた。もちろん中には誰もいない。
 また王城に呼び出されたのかな……? いや、でもそれなら前日に何か言うはず……。朝から留守にするというようなことは聞いていない。

「パパ~?」

 廊下に出てみたけれど、パパどころか人一人いない。うーん、パジャマ代わりの着ぐるみのまんまだけど……いいか。
 私は誰かしらはいるであろう食堂に向かった。

「誰かいる?」

 声をかけると食堂にいたのはエルヴィスだった。昨日は置いていってごめん、と眉を下げて謝られてしまう。大丈夫、と言って挨拶したけど不安がじわっと胸に湧いた。
 もしかしてエルヴィスが昨日いなくなったことと今日パパがいないことは関係があるのだろうか?

「パパのこと見てない?」
「隊長なら来てないよ」
「……そっか」

 エルヴィスに返したのは我ながら力のない声だった。
 一体どこにいるんだろう。


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