天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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二章

結局ろくに桜を見てない

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 満腹になり、私はレジャーシートの上に横になった。

「おなかいっぱい……」
「こらシロ、食後すぐに横になるのは止めような」
「は~い」

 パパに言われ、私は素直に起き上がった。すかさずエンペラーが私の背凭れになりに駆けつけてくれる。私はモフンとエンペラーに寄り掛かった。そしてオレンジジュースをちびちび飲む。私が飲んでるのはジュースだけど、みんなはお酒を飲んでるので、そろそろアルコールが回ってきたようだ。いつもよりさらに陽気な集団が出来上がっている。
 あ、クロもお酒じゃなくてジュースだよ。


 休んでいると、トランプ持ったエスがやってきた。

「みなさん、トランプでもしませんか?」
「え~花見でトランプ~?」
「また今度でいいんじゃない?」
「……よう……ち……」

 え、なんかトランプをやらない流れになってる?
 私はバッと手を挙げた。

「トランプやりたいです!!」

 トランプって意外とやる機会がなくて、まだあんまりやったことがないのだ。
 上げた私の手をエスが掴んだ。

「じゃあ一緒にやりましょう。アニとシリル、クロはやらないそうですから向こうに移動しましょうか」
「はぁ!? トランプやりたいって言っただろ!!」
「一言も言ってねぇよ」

 ころっと手のひらを返したアニに、エスがいつもより乱暴な言葉を返した。だけどアニはそんなことじゃ動じない。

「はぁ? ちゃんと言ってたし。なあ?」
「うん。ついでに言えば僕も大賛成してたよ」
「おれ……も……」

 手のひらころころな三人衆にエスが冷たい視線を向けた。そんな視線などどこ吹く風でアニは私に笑いかけてくる。

「シロちゃんトランプしようね~」
「うん」

 みんな揉めてないで早くトランプしようよ。





 大半の大人にお酒が回ってるから、頭を使わなくてもできるゲームということでババ抜きをすることになった。
 手札が配られる。

「……むぅ」
「シロ、ババ抜きはジョーカーを持ってるって顔に出しちゃいけないんだぞ。ポーカーフェイスだ」
「わかった」

 私は表情をスンッと真顔に戻した。
 じゃんけんで私が勝ったので、まず私のカードをクロが引く。

「しろ……どれひいてほしい……?」
「おいクロ、堂々と不正すんな。接待ババ抜きしたってシロは楽しくないだろ」

 私からババを引こうとしたクロをパパが注意する。うんうん、こういうゲームって真剣にやらないと楽しくないよね。

「好きなの選んでいいよ」
「わかった……」

 クロが私の手札から一枚カードを引いた。ババではない。

「―――あ、そうだ、言い忘れてましたけど、最後にババを持ってた人には罰ゲームがあります」
「「はぁ!?」」
「言うのがおせーんだよ!!」
「詐欺だ!!」

 エスの後出しに非難轟々だ。
 これだけ周りで騒いでるのに、涼しい顔したエスはクロからカードを一枚引いた。

「あ、ちなみに最初に上がった人の言うことを聞くのが罰ゲームです」
「聞いてねぇよ」

 エルヴィスが突っ込む。そしてエルヴィスはエスに疑惑の目を向ける。

「おい、このトランプ持ってきたのエスだったよな。まさかイカサマしてないだろうな……?」
「してませんよ。失礼な。何かを賭けてるわけでもないし、そんなんで勝ったって嬉しくないでしょう」
「お前の場合負けるためのイカサマを心配してんだよ」
「……」
「おい、なんか言えよ」

 おすまし顔で黙るエスに胡乱な目を向けるエルヴィス。明らかにイカサマを疑ってる顔だ。


 そしてババ抜きは進んでいき―――。

「うわあああああああああ!!!」
「ふっふっふ、騙されたねアニ」

 シリルが揃ったエースのカード二枚をアニに見せつける。
 最後に残った二人の激闘の末、勝ったのはシリルだった。シリルの目配せに騙されてババを引いたアニはレジャーシートの上に這いつくばる。
 最初は乗り気じゃなかったみたいだけど、随分楽しめたようでよかった。

「なんで俺が負けてるんだ……。ドエム野郎がイカサマして負ける筈じゃなかったのか……」

 そんなアニを冷ややかな目で見るエス。名前に恥じない冷たい視線だ。

「ゲームでそんな冷めることしませんよ。そんなことしたら面白くないでしょう」
「正論!! だけどお前に言われるとなんかムカつく!!!」

 ガルガルとエンペラーのように歯茎剥き出しで怒るアニ。さっきからちょっと情緒がおかしい。ババ抜きで負けたのがそんなに悔しかったのかな……?
 エルヴィスがパンパンと二回手を叩く。

「もうさっさと罰ゲームを済ませちゃおうぜ。一抜けは隊長でしたよね?」
「ああ」
「じゃあアニに何か指令を――」
「あ、ちょっと待ってください」

 エルヴィスの言葉をエスが遮った。すると何か嫌な予感がしたのかエルヴィスが顔を歪める。

「なんだよエス。罰ゲームを受けるのはお前じゃねーだろ?」
「いえいえ。僕、ルール説明の時に負けた人じゃなくて最後にババを持ってた人が罰ゲームって言いましたよね」

 そう言ったエルヴィスの手の中では、ジョーカーと書かれたカードがしっかりと存在感を示していた。アニが最後に引いたジョーカーはその辺に落ちている。

「これはゲームで使わなかった方のジョーカーです。つまり、ゲーム終了の時点でババを持っていたので僕も罰ゲームですね!!」

 目を輝かせ、鼻息荒くパパに迫るエス。罰ゲームにこんな前向きなのって、古今東西探してもエスだけなんじゃないかと思うよ。

 そしてパパが決めた罰ゲームは―――。

「……ふふ、悪くないです」
「この疎外感、地味に嫌すぎる……」

 正反対の表情をしたアニとエスは直立不動でレジャーシートの外に立っている。
 そしてレジャーシートの中では七並べが開催中だ。
 そう、パパが決めた罰ゲームは次のゲームに参加せず、ただ立ってみんなが遊んでる様子を見てることだった。さすがパパ、絶妙に嫌なラインを攻めてくるね。
 このゲームが終わったら罰ゲームも終わりだから、アニにはちょっとの間だけ辛抱してもらおう。エスは嬉しそうだから気にしない。
 



「―――へっくし!!」

 ちょうどいい頃合いで花見を切り上げ、みんなで片付けをしているとアニがくしゃみをした。

「ちょっと冷えてきたね。シロ寒くない?」

 うん、とシリルの問い掛けに答えようとした時、突如突風が吹いた。
 突風に吹かれて桜の花びらがブワッと舞い上がった。桜吹雪だ。
 舞い上がるピンク色を見て、そういえばお花見だったんだと思い出す。

「……結局、ろくに桜見てないね」
「花見なんてそんなもんだ」

 身もふたもない、と思っていると、はらはらと落ちてきた桜の花びらが私の鼻の上にちょこんと乗った。

「……ふっ、かわいいなシロ」

 それを見たパパが、それこそ花も恥じらうような微笑みを見せる。そして私の鼻の上に乗った花びらを摘まみ取った。

「俺の花見はこれで一枚で十分だな。冷えてきたし、風邪を引くといけないからもう中に入るぞ」
「は~い」

 パパに抱っこされると、はしゃぎ過ぎたのか心地よい疲労感に身を包まれた。
 今日も楽しかったなぁ……。
 こうしてみんなと楽しく過ごせる幸せを噛み締めているうちに、私はコテンと眠りに落ちてしまった。





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