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こぼれ話
無人島の正体
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そして次の日。
「くあ~」
「お、シロおはよう」
「おはようお兄ちゃん」
シロがあくびをしていると、シオも支度を整えてテントから出てきた。寝ぐせがついて後頭部の毛がぴょこんとハネている。
ブレイクはシロの顔をさっと洗うと、優しくタオルで顔を拭いてやった。
娘の顔から水滴がなくなると、ブレイクはシオに顔を向けた。
「シオ、今日は父親と待ち合わせだろう」
「ああ」
「送ってってやる」
「へ……」
シオはブレイクの申し出に意外そうな顔をした。
「お前も一応まだ子どもだからな。送ってくのは当然だろう」
「お、おう……」
「パパいっけめ~ん」
「そうだろシロ~」
一瞬照れたような顔をしたシオだったが、シロの言葉に相好を崩したブレイクを見て真顔に戻った。
「親バカが……」
「ハッ、褒め言葉にしか聞こえねぇな」
「……」
シオの呟きにブレイクはドヤ顔で返す。冗談ではなく本気でそう思っているようだ。
エルヴィスがシオの肩にポンッと手を置いた。
「諦めろシオ」
「……前より溺愛具合が悪化してんな……」
***
「ここで待ち合わせなのか?」
「ああ」
シロ達は自分達拠点とは反対側の砂浜まで来ていた。
シロはここまでキングに乗せてもらって大変ご機嫌だ。小さな手で金色の毛皮を撫でる。
「キングふかふかだね~」
「がふっ!」
「ウー……」
「こらシロ。エンペラーが嫉妬して唸ってるぞ」
ブレイクはキングに乗っているシロをヒョイっと持ち上げるとエンペラーの背中に乗せた。
「ガウ!」
エンペラーが満足そうに鳴く。そしてキングはそんなエンペラーに嫉妬することはなく、シオに頭を撫でてもらっていた。
「にしても、どうして殿下までついてきたんだ? バカンスを楽しんでいればいいのに」
ブレイクがなぜかついてきた殿下に話かける。
「ん? シオ君の父君はボクの知り合いでもあるからな。この島に危険な動物がいなかったかどうかは博士が調べただろう。ボク達が調査するよりも博士に聞いた方が早い」
「調査するのは殿下じゃなくて俺らだけどな」
「細かいことは気にしない」
ジャリッと足音がして、一同は一斉に音の発生源を見た。
「……もじゃもじゃ……」
シロが呟く。
こちらに歩いてきたのは髪はボサボサでふっさりとした髭の生えた男性だった。
「あれ? なんか人がいっぱいいるな。―――あ、シオ……」
男性はシオを見つけると右手を小さく上げた。
「父さあああああああああああああああん!!!」
「「「!?」」」
シオが光の速さで父親に飛びついていった。
父親はシオの勢いに負けてあっけなく尻餅をつく。
「し、シオ、苦しいよ」
「へへっ」
父親がギュウギュウと締め付けてくるシオの背中をポンポンと叩くと、シオは抱き着く力を緩めた。だが、シオはそのまま自分の頭を父親にグリグリと擦り付ける。
「……ファザコン?」
エルヴィスの声がぽつんと響いた。
「あ! 殿下!? シオ、殿下にご挨拶するから一回離してくれ」
「は~い」
シオは父親の首に回していた腕を素直に解く。
「コホン、お久しぶりですね殿下」
「ああ、博士も元気そうでなによりだ。ところで、博士はどうしてこんなところにいるんだ?」
「もちろん生物の調査ですよ」
穏やかに話す二人の傍らではシオが再び父親に抱き着く機会を狙っている。
「それにしても、自力でよくこの場所に辿り着いたな。ここは新しく見つかった無人島だと聞いたが」
「無人島? まあ無人島と言えば無人島かもしれませんね。ここは……」
「わっ!!」
「シロ!」
その瞬間、地面がぐらりと揺れた。
エンペラーから落ちそうになったシロをブレイクが素早く抱きとめる。
「ふふっ、どうやら起きたようですね」
「起きた?」
博士の言葉に殿下が首を傾げる。
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
水しぶきを上げて、何かが水中から出てきた。
「……かめ?」
シロがポツリと呟く。
水中から現れたのは巨大な亀の頭だった。亀の頭は明らかにこの島の下から出ている。
「ふふっ、私達が今いるのは亀さんの甲羅の上なんですよ」
博士がシロに優しく語り掛ける。
「かめ……」
「そう、これは変異種の亀さんでね、とっても長生きなんですよ。背中に島ができちゃうほどに」
「すごいねぇ」
「そうだね」
シオは傍から可愛い妹と父の会話を眺めて和んでいた。
「なるほど、島が動いていたらそりゃ今まで見つからなかったわけだな。博士はこの亀の調査できていたのか?」
「はい。目印を付けて定期的に調査にきてます」
「ふむ。その目印を教えてもらえるか? 動く島なら観光地にも向かないだろうし、いっそのこと上陸禁止にしてしまおう」
「そうしていただけると生物学者的にも助かりますね。この亀は存在自体が貴重なので」
殿下と博士はそのまま細かいことを話し合っている。ついに我慢ができなくなったのか、シオは父親の背中にべったりと張り付いていた。
「パパ、調査はもうおしまい? もう帰っちゃう?」
「そうだな。もう調査はしなくてよさそうだし、明日一日たっぷり遊んでから帰るか」
「うん!」
シロは二パッと笑ってブレイクに抱き着いた。
こうして、無人島の調査は幕を閉じたのである。
「くあ~」
「お、シロおはよう」
「おはようお兄ちゃん」
シロがあくびをしていると、シオも支度を整えてテントから出てきた。寝ぐせがついて後頭部の毛がぴょこんとハネている。
ブレイクはシロの顔をさっと洗うと、優しくタオルで顔を拭いてやった。
娘の顔から水滴がなくなると、ブレイクはシオに顔を向けた。
「シオ、今日は父親と待ち合わせだろう」
「ああ」
「送ってってやる」
「へ……」
シオはブレイクの申し出に意外そうな顔をした。
「お前も一応まだ子どもだからな。送ってくのは当然だろう」
「お、おう……」
「パパいっけめ~ん」
「そうだろシロ~」
一瞬照れたような顔をしたシオだったが、シロの言葉に相好を崩したブレイクを見て真顔に戻った。
「親バカが……」
「ハッ、褒め言葉にしか聞こえねぇな」
「……」
シオの呟きにブレイクはドヤ顔で返す。冗談ではなく本気でそう思っているようだ。
エルヴィスがシオの肩にポンッと手を置いた。
「諦めろシオ」
「……前より溺愛具合が悪化してんな……」
***
「ここで待ち合わせなのか?」
「ああ」
シロ達は自分達拠点とは反対側の砂浜まで来ていた。
シロはここまでキングに乗せてもらって大変ご機嫌だ。小さな手で金色の毛皮を撫でる。
「キングふかふかだね~」
「がふっ!」
「ウー……」
「こらシロ。エンペラーが嫉妬して唸ってるぞ」
ブレイクはキングに乗っているシロをヒョイっと持ち上げるとエンペラーの背中に乗せた。
「ガウ!」
エンペラーが満足そうに鳴く。そしてキングはそんなエンペラーに嫉妬することはなく、シオに頭を撫でてもらっていた。
「にしても、どうして殿下までついてきたんだ? バカンスを楽しんでいればいいのに」
ブレイクがなぜかついてきた殿下に話かける。
「ん? シオ君の父君はボクの知り合いでもあるからな。この島に危険な動物がいなかったかどうかは博士が調べただろう。ボク達が調査するよりも博士に聞いた方が早い」
「調査するのは殿下じゃなくて俺らだけどな」
「細かいことは気にしない」
ジャリッと足音がして、一同は一斉に音の発生源を見た。
「……もじゃもじゃ……」
シロが呟く。
こちらに歩いてきたのは髪はボサボサでふっさりとした髭の生えた男性だった。
「あれ? なんか人がいっぱいいるな。―――あ、シオ……」
男性はシオを見つけると右手を小さく上げた。
「父さあああああああああああああああん!!!」
「「「!?」」」
シオが光の速さで父親に飛びついていった。
父親はシオの勢いに負けてあっけなく尻餅をつく。
「し、シオ、苦しいよ」
「へへっ」
父親がギュウギュウと締め付けてくるシオの背中をポンポンと叩くと、シオは抱き着く力を緩めた。だが、シオはそのまま自分の頭を父親にグリグリと擦り付ける。
「……ファザコン?」
エルヴィスの声がぽつんと響いた。
「あ! 殿下!? シオ、殿下にご挨拶するから一回離してくれ」
「は~い」
シオは父親の首に回していた腕を素直に解く。
「コホン、お久しぶりですね殿下」
「ああ、博士も元気そうでなによりだ。ところで、博士はどうしてこんなところにいるんだ?」
「もちろん生物の調査ですよ」
穏やかに話す二人の傍らではシオが再び父親に抱き着く機会を狙っている。
「それにしても、自力でよくこの場所に辿り着いたな。ここは新しく見つかった無人島だと聞いたが」
「無人島? まあ無人島と言えば無人島かもしれませんね。ここは……」
「わっ!!」
「シロ!」
その瞬間、地面がぐらりと揺れた。
エンペラーから落ちそうになったシロをブレイクが素早く抱きとめる。
「ふふっ、どうやら起きたようですね」
「起きた?」
博士の言葉に殿下が首を傾げる。
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
水しぶきを上げて、何かが水中から出てきた。
「……かめ?」
シロがポツリと呟く。
水中から現れたのは巨大な亀の頭だった。亀の頭は明らかにこの島の下から出ている。
「ふふっ、私達が今いるのは亀さんの甲羅の上なんですよ」
博士がシロに優しく語り掛ける。
「かめ……」
「そう、これは変異種の亀さんでね、とっても長生きなんですよ。背中に島ができちゃうほどに」
「すごいねぇ」
「そうだね」
シオは傍から可愛い妹と父の会話を眺めて和んでいた。
「なるほど、島が動いていたらそりゃ今まで見つからなかったわけだな。博士はこの亀の調査できていたのか?」
「はい。目印を付けて定期的に調査にきてます」
「ふむ。その目印を教えてもらえるか? 動く島なら観光地にも向かないだろうし、いっそのこと上陸禁止にしてしまおう」
「そうしていただけると生物学者的にも助かりますね。この亀は存在自体が貴重なので」
殿下と博士はそのまま細かいことを話し合っている。ついに我慢ができなくなったのか、シオは父親の背中にべったりと張り付いていた。
「パパ、調査はもうおしまい? もう帰っちゃう?」
「そうだな。もう調査はしなくてよさそうだし、明日一日たっぷり遊んでから帰るか」
「うん!」
シロは二パッと笑ってブレイクに抱き着いた。
こうして、無人島の調査は幕を閉じたのである。
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