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こぼれ話
にゅーお兄ちゃん
しおりを挟む昼寝から目覚めると、我が物顔でテントに居座っているシオをシロは不思議そうな目で見た。
寝ぼけ目で首を傾げるシロを見て、シオはふにゃりと表情筋を緩める。
「ん~?」
「シロ、俺のことは『お兄ちゃん』って呼ぶんだぞ?」
「……おにいちゃん?」
「ん~!! かわいいなぁ!!」
シオは未だ寝ぼけているシロをムギュッと抱きしめた。
シロはくぁ~と大きなあくびをする。
ブレイクは優しくシロの頭を撫でた。
「シロ、おやつ食べられるか?」
「うん」
おやつという言葉にピクリと反応するシロ。
「今日のおやつはなに?」
「今日は美味しいマンゴーだぞ。外でアニが切ってるから早くおいで」
「あい」
シロは冷たいタオルで顔を拭いてもらい、目を覚ました。
「シロちゃあああああん! 俺、シロちゃんのために頑張ってマンゴー切ったよ!!」
「アニありがとう!」
シロはアニからさいの目状に切られたマンゴーを受け取った。
「食べてもいい?」
「もちろん!」
「いただきます!」
シロはマンゴーに思いっきりかぶりついた。
「んん~! おいしいっ!」
シロは二パッと笑う。
「シロちゃんかわいいねぇ!」
「むぐむぐ」
シロは口周りに果汁をつけながらマンゴーを食べ続ける。アニはそんなシロをデレデレと眺め続ける。
そして、シロは夢中で口を動かし続け、あっという間にマンゴーを一つ食べきってしまった。
「シロおいしかったか?」
「おいしかった!」
「そうか、お口拭くぞ」
「あい」
ブレイクはハンカチで汚れたシロの口周りを優しく拭いていく。
そして、そんなブレイクをシオはまじまじと見つめる。
エルヴィスがシオに小声で話し掛けた。
「シオ、どうした?」
「……いや、本物の父親みたいだなと思って。昔もだったが、さらに父親っぽくなった」
「そうか。後で隊長に直接言ってやってくれ。きっと喜ぶ」
「ああ」
シオの返答を聞いて、エルヴィスはニカッと笑った。
「じゃあこの後はシロと遊んでやりな。もう今日の予定はないから」
「お、いいのか? シロ~! 兄ちゃんと海で遊ぶぞ~!!」
「あい!」
シロは海水に苦手意識を感じていたことなどすっかり忘れ、水着に着替えるためにテントに走った。
「あ! 今日は俺もシロちゃんと遊ぶよ!! 着替えてこなきゃ!!」
そう言ってアニも水着に着替えに行った。
***
「ほらシロ、俺のゴーグルやるよ。これなら目痛くないから」
「ありがとうお兄ちゃん」
シロは早速受け取ったゴーグルを装着した。
そして、シオと手を繋いで海に入って行く。
「―――和みますねぇ隊長」
「そうだなぁ」
大人達は浜から子どもの戯れを眺めている。
ブレイクもシロが溺れた時にはすぐに動けるようにしているが、今は見守る構えだ。
「シロちゃん! 俺の手も握ってていいからね!」
「アニありがとう」
「……和みませんねぇ隊長」
「綺麗な夏の思い出にロリコンが投下されたな」
大人達の視線の先では、シロが初めて海面に顔をつけようとしていた。
「シロ、せーので顔をつけるぞ」
「あい!」
「せーのっ!」
シロは思い切って海水に顔を突っ込んだ。
そして、ゴーグルの中で瞑ってしまっていた目をゆっくりと開ける。
「―――っ!!!」
シロはあまりにクリアな視界に驚いた。
どこまでも澄み切った水は、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
「ぷはぁ!」
シロは一度水中から顔を出し、思いっきり空気を吸い込んだ。
「お水の中きれいだねぇ!」
「シロちゃんの方がきれいだよ!!」
「今そういうのいらねぇんだよロリコン!」
シオがアニの背中を叩く。
「じゃあシロ、今度は泳いでみるか」
「あい!」
シロは元気良く片手を上げて答えた。
海水に対する苦手意識が大分なくなったシロは、すぐに潜って泳ぐことができるようになった。
海の中でシロは、無邪気に魚に手を伸ばしては逃げられるを繰り返している。それも楽しいらしく、シロの瞳はこの海に負けないくらい輝いている。
(……ん?)
海中深く潜っていたシロは、なにやら変なものを見つけた。
(なんだろうあれ……変な岩)
シロは、上下できれいに色が分かれている大きな岩のようなものを見た。その岩には直線状の模様が見てとれ、ここからは終わりが見えないくらい大きい。
どうやら、この岩の上に無人島があるようだ。
「ぷはぁっ!」
シロが海面に顔を出すと、すかさずシオが抱きとめて浮き輪に掴まらせた。シロはまだ立ち泳ぎを習得していないので、足のつかない所だと沈んでいってしまう。
「シロ、楽しかったか?」
「うん!」
シロは二パッと輝くような笑顔を見せる。
「はぁ……尊い…………」
アニはシロの様子を眺めた後、両手で顔を覆った。
「おいアニ、きれいな海を赤色に染めんなよ?」
シオの警告がきいたのか、アニは鼻血を出さずに済んだ。
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