上 下
56 / 104
二章

名前の由来

しおりを挟む



 初めてあの子を抱いた時、その小ささに驚いた。

「う~、あう~!」
「ちっちぇ~」

 顔も体も手も小さい。それにとても軽い。

「どうだ24番、かわいいだろう」
「……すぐに死んじゃいそうだ」

 赤ん坊のしろはどこもかしこも柔らかくてすぐに死んじゃいそうだった。怖くなったのでしろを9番に返す。
 9番はもうしろにメロメロですでに父親の風格が出始めていた。

 それから、俺は騎士団から帰ってくるとすぐにしろの所に行くようになった。
 しろの寝るベッドまで来ると、先に9番など何人かの仲間達がいた。

「お~24番、今しろにミルクやるところなんだが、お前やってみるか」
「……うん、やる」

 俺は9番からしろとミルクの入った哺乳瓶を受け取った。
 哺乳瓶を口に近付けてあげるとしろが吸い付く。そしてんくんくと喉を鳴らしながらミルクを飲んでいく。

「飲んだ……」
「そりゃ飲むだろ」

 ははっと9番に笑われる。
 ミルクを飲ませ終わったら四苦八苦してげっぷさせた。

「う~、あ~」

 再びしろをベッドに寝かせてあげると、しろはニコニコ笑いながら手を伸ばしてきた。

「しろは賢い子だからな、お礼を言ってるんだろう」
「う~!」

 その通り! とでも言いたげにしろは声を上げた。

「どういたしまして」
「だぁ!」

 そう言ってしろの頭を撫でると、しろは二パッと笑った。かわいい。




 そうして、しろはどんどん俺の……いや、俺達の癒しになっていった。

「しろちゃ~ん、かわいいかわいいね~」
「だ~う」

 しろちゃんのプニプニな頬をつつく。ああ、癒される。
 最近はこの組織を潰すために色々暗躍してるから余計に体が癒しを求めているのだ。

「ちょっと24番、しろを独り占めしないでくれる?」
「そーだぞ」

 しろちゃんは大人気なのでこうしてよく争奪戦が起こる。もちろんしろちゃんが怖がるといけないから今までみたいに殴り合ったりはしない。俺達は更生したのだ。

「おらお前らしろの前で喧嘩すんじゃねぇ」

 大体しろをめぐった争いを終結させるのは9番だ。9番は俺達にとってリーダー的存在だし、しろちゃんが一番懐いている。俺達の中で誰かが父親になるとすればまず間違いなく9番だろう。9番もしろに自分を父親だと刷り込もうとしている。

「しろ~、パパだぞ。ぱ~ぱ~」
「あ~、あ~」

 しろちゃんは成長が早いから直ぐにパパって言えちゃいそう……。しろちゃんの成長は嬉しいけどもうちょっと赤ちゃんでいてほしいと思うな。

「ぱ~ぱ」
「ぱ~あ」
「ぱ~ぱ」
「ぱぁ~ぱぁ」
「「「!!!」」」

 しろちゃん……成長が早すぎるよ。9番なんて感動に顔が追い付かなくて真顔で涙流してるよ。てか9番の泣くとこなんて初めて見た。






 そして、ある日俺らが戻ってくると、そこにしろちゃんはいなかった。
 残っていたのはまだ働きには出されていない子ども達だけだった。子ども達も俺らが出ている間しろちゃんのお世話をしてくれていた。

 俺達だけが組織から解放された……。

 しろちゃん、ごめん。ごめんな。
 あんな世界に君だけ残していってしまった。

 普段は飄々としている9番もこの時ばかりは絶望した様子を隠せていなかった。

 そして俺はもちろん希望して特殊部隊に入った。
 今まで外では組織に与えられた名前で過ごしていたので、これを機にみんな名前を変えることになった。これからも組織で過ごした過去―――しろちゃんを背負っていくという意味を込めて組織にいた頃の番号などを名前に残す者が多い中、俺は全く別の名前にした。


 しろちゃんのお父さんはきっと9番……いや、ブレイク隊長だ。
 だから、俺はしろちゃんのお兄ちゃんになろう。








 ―――アニ、それが俺の新しい名だ。




しおりを挟む
感想 355

あなたにおすすめの小説

生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~

雪野ゆきの
恋愛
叔父一家に虐げられていた少女リアはついに竜王陛下への生贄として差し出されてしまう。どんな酷い扱いをされるかと思えば、体が小さかったことが幸いして竜王陛下からは小動物のように溺愛される。そして生贄として差し出されたはずが、リアにとっては怠惰で幸福な日々が始まった―――。 感想、誤字脱字報告、エール等ありがとうございます! 【書籍化しました!】 お祝いコメントありがとうございます!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。~ざまぁ? 没落? 私には関係ないことです~

鏑木 うりこ
恋愛
旧題:地味薬師令嬢はもう契約更新致しません。先に破ったのはそちらです、ざまぁ?没落?私には関係ない事です。  家族の中で一人だけはしばみ色の髪と緑の瞳の冴えない色合いで地味なマーガレッタは婚約者であったはずの王子に婚約破棄されてしまう。 「お前は地味な上に姉で聖女のロゼラインに嫌がらせばかりして、もう我慢ならん」 「もうこの国から出て行って!」  姉や兄、そして実の両親にまで冷たくあしらわれ、マーガレッタは泣く泣く国を離れることになる。しかし、マーガレッタと結んでいた契約が切れ、彼女を冷遇していた者達は思い出すのだった。  そしてマーガレッタは隣国で暮らし始める。    ★隣国ヘーラクレール編  アーサーの兄であるイグリス王太子が体調を崩した。 「私が母上の大好物のシュー・ア・ラ・クレームを食べてしまったから……シューの呪いを受けている」 そんな訳の分からない妄言まで出るようになってしまい心配するマーガレッタとアーサー。しかしどうやらその理由は「みなさま」が知っているらしいーー。    ちょっぴり強くなったマーガレッタを見ていただけると嬉しいです!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。