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こぼれ話

癒すよ!

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「……シロ、なにをしてるんだ?」

 エルヴィスがそう聞くと、シロは元気良く答えた。

「まっさーじ!!」


***



「アイドルの一件が終わって疲れてる皆をシロがマッサージで癒して回ってるんだ。うちの子マジいい子」
「なるほど、どうりでみんなピンク色のオーラを纏ってると思いましたよ」

 エルヴィスは呆れたようにそう言った。ブレイクは優しい娘を持ったと自慢げだ。
 談話室では、床に敷いたマットの上にイオが寝転がってシロにふみふみされている。とても幸せそうだ。

「あれ~? エルヴィスはしぃちゃんにマッサージしてもらわなくていいの? ちょ~癒されるよ?」
「……シロ、俺も後で頼む」
「は~い」

 シロはマッサージを頼まれて嬉しいのかニコニコしている。







「ふぅ、しぃちゃんありがと~。お礼にチョコあげるね、はいあ~ん」
「あー」

 イオはシロの口にチョコレートを放り込んだ。

「え、なにそれ俺もあげる」
「俺も俺も~」
「たんとお食べ~」




「……お前ら、次々に菓子突っ込むからシロがリスみたいになってんじゃねーか」
「ふむっ、ふもっ!」
「しろ……」

 パンパンに頬を膨らませたシロにクロがお茶を差し出した。

「お~クロはいい子だなぁ。お前らもこのワンコ見習え~」

 クロの頭をガッシガッシと撫でるブレイク。

「……たいちょ、やめて……かみがみだれる……」
「お前毛並みなんて気にしてたのか」
「隊長、クロは一応人間です」

「ぷはぁ」
「お、シロがリスから人間に戻った」
「しろ……」

 クロは胡坐をかいた足の上にシロを抱き込み、シロの頭に頬をスリスリと擦り付けた。

「そだ、クロもまっさーじしてあげるね!」

 そう言ってシロはクロの腕を取りもにゅもにゅと指圧し始めた。

「クロきもちぃ~?」
「ん……」

 クロも嬉しそうに顔をほころばせている。


 イオとブレイクはそんな二人を見て視覚から癒される。

「ワンコと仔猫の戯れって和みますねぇ隊長」
「そうだな」




「あーーーーーー!!!! クロいいな!! 俺もシロちゃんにマッサージしてほしい!!!」

 やってきた嵐にエルヴィスが頭を抱えた。

「よおロリコン」
「おはようロリコン」
「今日も元気にロリってんな」

「あれ? 今日みんな当たり強くない?」
「癒しの空間にロリコンが入り込んできたんでな」

 なんで? と首を傾げるアニにブレイクが冷静な声音で答えた。

「俺割り込みなんてしないっすよ! シロちゃんのおにーちゃんなんで待てます!」
「いい心がけだ」


 そわそわ

 そわりそわり

 むずむず


「「「……」」」

 まだかな、まだかな、と瞳を輝かせて大人しく待つアニ。おもちゃを買ってもらう前の子どものようだ。
 ちなみにシロとクロはアニに背を向けている状態なので気付いていない。

「あれ? ちょっとうちの弟がかわいく見える……」
「奇遇だな、俺もだ。気付かないうちに疲れが溜まってたのか……」

 クシクシと目を擦るエルヴィスとブレイク。

「はいっクロおしまいっ! アニ~ねっころがって~」
「ヒャッホウッ! はい喜んで~!!」

 瞬時にアニはマットの上に飛び乗り、うつ伏せになった。

「あ、あいつがかわいく思えたの気のせいでしたわ」
「奇遇だな、俺も今そう思ったところだ。俺の目は正常だった」

 スンッと二人の表情が一気に消えた。


「アニ~乗るよ~」

 ちょいんとシロのつま先がアニの背中に触れた。

「グォハッ!」
「ふぇ?」

 歓喜のあまりアニはビクッと体を跳ねさせた後失神した。赤い液体がマットを汚す。

「さっきあいつをかわいいとか言った自分を今猛烈に恥じてます」
「俺もだ」

 二人は急激に穴に埋まってしまいたい気持ちに襲われた。
 

「あれ? アニ? アニ~」
「シロ!? 一応失神した人間の上でぴょんぴょんしないで!!」
「う?」
「きょとんとしないのかわいいな~! これが本物のかわいさだよね!!」
「おい弟乗り移ってんぞ」

 エルヴィスはシロを抱き上げてアニの上からどかした。




 アニの全力の懇願によって、シロのマッサージは後日に持ち越された。ただ、その後日がいつになるかは定かではない。





***




 夜、愛娘にマッサージをしてもらった後、ブレイクはシロを抱き上げてベッドに腰かけた。

「シロ、お返しにパパがマッサージしてやろう」

 ブレイクがシロのちっちゃい肩を揉む。

「ふにやはははははははは!! ぱぱくしゅぐったい!!!」

「お~五歳児にマッサージはまだ早かったか~」




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