天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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こぼれ話

みんな世間知らず

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 きっかけは殿下の発案だった。

「シロ、今度の休みにどこかへ遊びに行かないか?」
「う?」

 殿下のお膝でお菓子を食べていた私は殿下の言葉にすぐには反応できなかった。
 口にカップケーキを詰め込み、キョトンとしている私を殿下が撫でる。
 殿下は高貴な人のはずなのに洋服に食べカスをこぼしても怒らない。優しい。

 私が殿下を見上げると、微笑んで私の口の周りを払ってくれた。まだついてたか。

「はぁ、シロは可愛いなぁ。いつ養子に来るんだ?」
「そんな日は永遠にこないよ」

 王族はめんどくさそう。

「殿下、くだらんこと言ってないで話を進めろ。あとウチの子を返せ」
「あ」
「うぉ」

 私はヒョイっと殿下の膝からパパの腕の中に移された。
 両手で支えられ、上向きに抱き上げられる。
 だが、これは断じてお姫様抱っことかいうシャレオツな抱き方ではない。これは赤ちゃん抱っこだ。

「パパ、シロ赤ちゃんじゃない」
「何歳になってもシロはパパの可愛い子どもだ」
「ブレイクも脱線してるぞ」

 殿下がパパに呆れた眼差しを送っている。

「そんなに言うなら話を戻してやろう。ほら殿下、話していいぞ」
「何でお前が偉そうなんだ……。まあいい、シロと遊びに出掛けようと思ってな」
「デートの誘いか、お父さんは許しません」
「ブレイクも来ればいいだろう……」

 再び殿下の呆れた眼差し。

「シロがいくら出来た子と言っても、まだたったの五歳だろう。遊びに行くのも大事な仕事だ」
「そうだな」

 パパがウンウン頷いている。
 割と毎日遊んで暮らしてる気もするけど。

「だからシロ、次の休みにボクと動物園に遊びに行くぞ」
「は~い!」

 私は元気良く返事をする。


「ん……」


「あ、クロおはよ~」

 その辺の床で寝ていたクロが起き上がった。

「……なに?しろ、どこか行くの?ならおれも行く……」
「行くのはいいけど暴れんなよ」

 パパがクロに忠告をすると、アニ達が騒ぎ始める。

「え!?クロも行っていいのかよ!じゃあ俺だってシロちゃんと遊びに行きたいんだけど!!なあ兄さん?」
「勿論だ!!」
「僕達も動物園とか行ったことないしね~」

 アニ、エルヴィス、シリルの順番で続く。

「何ぃ!?兄上とお出掛けだと!?抜け駆けか幼女!!オレもご一緒したいです兄上!!」
「ウィリアム様が行かれるのならば私もお供します……あ、勤務時間過ぎてたわ。俺もいくいく~!」
「僕も行きたいです!」
「ガウッ!!」


「え?じゃあ俺も行くッス!」
「オレも」
「俺も~」

 こうして、特殊部隊の隊員達が次々と手を挙げ、動物園に行くメンバーは大所帯になっていった。


















 そして当日。

 皆を代表してエルヴィスがチケットを買いに行った。

「すいませーん、チケットを大人20枚子ども1枚、あと狼1枚下さい」
「はい、かしこまれません」
「ちょっと大人数過ぎましたかね。全員あの子の保護者なんで他のお客さんの邪魔にならないようにしますんで。あ、あと狼の入場料が書いてなかったんですけど幾らですかね?」
「申し訳ありません。生憎、当園では狼のお客様は初めてなもので料金設定をしておりません」
「え、じゃあタダですか?」
「いえ、できれば同行はお控え願えればと……」


 その会話を私達は少し離れた所から聞いていた。
 そして殿下がボソリと呟く。

「ああいうのを見るとエルヴィスも特殊部隊の隊員だなって思うな」
「オレ達王族よりも世間知らずってどういうことなんでしょう兄上」
「ボクも知らん。お前とセバス以外の特殊部隊のメンバーは総じて世間知らずだぞ」

 常識人エルヴィスもお外に出たら立派な問題児なんだね。

「ねえ殿下」
「なんだ?」
「エンペラーだって狼なのにさあ、動物園って動物立ち入り禁止なの?」
「……」
「……」

 黙ってしまった。

「……そう聞かれるとなんだか変な感じがするな。……まあ、そこはエルヴィスが上手くやったみたいだぞ」

 殿下の言葉でエルヴィスの方に向き直った私。そこには、大量のチケットと共に笑顔で戻ってくるエルヴィスがいた。

 そして、なぜかエルヴィスの後ろに並んでいたエスが受付のおねーさんに話しかけている。

「幾ら積んだら変異種のライオンがいる檻にぶちこんで貰えますかね」
「当園ではそのようなサービスは行っておりません」

 おねーさんは完璧な営業スマイルでエスに返していた。流石プロ。

「おーいエス、戻ってこーい!!今日は性癖は封印しなきゃいけない日だぞ~!」

 エルヴィスが暴走しかけのエスを呼び戻す。

「はっ、そうでした!」

 我に帰ったエスは謝罪をしてからこちらに戻ってくる。
 出来れば他人のフリをしたいけどもう無理だろう。

「ほらシロ、もうすぐ中に入れるぞ」

 パパに声を掛けられる。今日のパパは娘とのお出掛けが嬉しいのかとても上機嫌だ。朝からそのイケメンスマイルを振り撒いている。大セールだ。

「はぐれないようにお手々つないでような」
「あい」

 私は素直に手を差し出した。そして、反対の手は自然に殿下とつながれる。これが両手に花か。
 ちなみに、エンペラーは仔犬サイズになって私のリュックに入り、顔だけ出している。

 ……そして、クロはなぜかずっと私の真後ろにいる。
 これで周りが暗かったらちょっとしたホラーだ。

「クロはそこでいいの?」
「ん……」

 コクリと頷きが返ってきたから、まあいいのだろう。

 ついに入場だ。



 動物園に入ると、さっきから見あたらなかったメンバーが急いで戻ってきた。

 最初に帰ってきたアニに、モフモフをムギュッと押し付けられる。

「はい、シロちゃん。トラさんのぬいぐるみだよ。可愛いでしょ~」
「シロ、俺もクマのぬいぐるみ買ってきたぞ」
「オレも~」
「俺はクッキー!」

 どうやらもうお土産屋さんに行ってきたようだ。
 わらわらとぬいぐるみや食べ物を差し出される。嬉しいけど持ちきれない……。

「ねえみんな!俺土産屋は最後って言ったよな!!」

 セバスが大声を出すが誰も聞いちゃいない。











 偶然その場を通り掛かった子が、特殊部隊の集団を指差す。


「ねーママ見てー、ちっちゃい女の子におじさんたちが群がってるー」
「シッ!見ちゃいけません!!」

 母親は慌てて娘の目を覆い、その場を去った。











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