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こぼれ話
大人の本気ってこわい
しおりを挟む私の朝は転がり落ちることから始まる。
仰向けに寝るパパの胸筋の上で丸まって寝る私は起きる時に邪魔らしい。だけど強靭な肉体を持つパパは大体そのまま体を起こし、私を足元の方へ転がす。
なんでそんなところで寝てるかって?ぬくいからに決まってる。
もうちょっと体重が重くなったら横に寝る予定。
「ぺっひょん」
今日も今日とて掛け布団の上に転がり落ちた。
私と同じく寝起きのパパに頭を撫でられる。
「シロおはよう。朝だぞ」
「ぱぱおはよう」
寝起きなのにパパはイケメンさんだ。
目にかかる前髪をかきあげる動作とか、もはや絵になるどころか絵にしかならない。額縁つけたらみんなきっと分かんないね。
ちなみに、前に真似して髪をかきあげてみたら「頭かゆいのか?」って言われた。シロにはまだ早かったんだね。
悲しい。
朝起きると、パパは髭を剃る。
私は割とジョリジョリする感触が好きだからちょっと残念。いつかお髭がもさもさのパパも見てみたいな。
パパは自分の髭を剃り終わると私の髪をとかしてくれる。
私はこの時間は毛繕いだと思っている。絶妙な力加減でブラシを通してもらうのはとても気持ちいい。私が猫なら喉をごろごろと鳴らしていることだろう。
今日は雨が降っていた。
私がここに来てから初めての雨だ。訓練はどうするんだろう。
そんなことを考えながら牛乳をコクコクと飲む。
「パパー、今日は何するの?」
「ん?そうだなぁ、別に雨の日ようの訓練でもいいんだが、今日はシロのやりたいことをやろう。何でもいいぞ」
「ほんと!?じゃあねぇ~……」
床にシートを敷いてその上に私、パパ、アニ、エルヴィス、シリル、殿下が円になるように座っている。
私は高らかに宣言した。
「ちぇけちぇけ! 第一回カルタたいかーい!!ルールは簡単、ゲームが終わった後に一番多くカードを持ってた人が勝ちだよ!」
私達の目の前には、カルタがまんべんなく広げられている。
「ねぇ、めっちゃシロの前にカルタ寄ってない?」
私達の目の前には、カルタがまんべんなく広げられている。
「エルヴィスの気のせいだよ」
納得のいっていなさそうなエルヴィスには幼女の純真無垢なスマイルを向けておいた。
ちなみに読み手はそこら辺にいた暇そうな隊員さんにお願いした。
そしてギャラリーが多い。みんな誰が勝つかで賭けをしているようだ。ちょくちょく話してる内容が聞こえてくる。
「俺隊長」
「やっぱり俺はアニかなぁ~」
「え~誰か大穴のシロちゃんに賭けるやついないのかよ」
「ねえっ!今言ったのだれ!?」
私は立ち上がって周りを見回したが全員そっぽ向きやがる。
くっそ~!絶対勝ってやる。
「シロ、本当にパパと一緒にやらないのか?」
「うん、シロ一人でやるの」
「……そうか、じゃあパパに助けて欲しかったらいつでも言うんだぞ」
「? うん」
パパに意味深な顔で頭を撫でられた。
パパは私が助けを求めるまでは不参加らしい。
そしてカルタ大会が始まった。
「じゃあ読みますよ~。『憎らしい、あの子は既に……』」
「このカルタを考えた人に何があったの!?」
シュッ
バシン!!
エルヴィスのツッコミよりも速く何枚もの手が一斉に一枚のカードの上に重なった。
その一番下にあったのは……。
「え?」
「ははは、この手のカードなら任せろ」
殿下が笑顔で宣わった。
てか内容で反応スピードって変わるものなの?
「……えっと、じゃあ次、『ああ、ロリよ……』」
バシン!!!
光の速さでアニがカードを取っていった。
「ロリ系は全部俺が取る!!」
「たぶんロリ系って数枚だぞ!?」
エルヴィスは今日はずっとツッコんでるんだろうな~。
そして大人達の目がガチだ。
これちっちゃい子に気を使って手を抜いてくれるカルタじゃない!!
「『火薬かな……』」
バッシィィン!!
「これは僕のカードだっ!!」
「シリル! 僕のカードってなんだよ!!!」
こうして、大人気ない大人達の本気の勝負が続いた。
私の手には誰の専門分野でもなかった数枚のカードがある。
こカルタ大会を通して分かったことは、カルタを作った人頭おかしいってことだ。
そして、カルタの数が残り3分の1を切ったところで大人達の猛攻が始まった。
エルヴィスが一枚のカードをとろうと手を伸ばした。
「よしっ、取った……」
「ちょっと邪魔」
殿下がエルヴィスの手をパシンと叩いてカードを奪っていった。
エルヴィスが驚きに目を見張る。
「殿下、それ俺がとったやつで……」
「え?何?聞こえなかった。もう一回言ってくれる?」
「どうぞお納め下さい」
エルヴィスは殿下の笑顔の圧に負け、あっさりと定置に戻っていった。エルヴィスは権力には逆らわないタイプだね。
今度は私が近くにあったカードをとろうとすると……。
「はーいシロちゃんストーップ」
「あ、」
アニに脇を掴まれてヒョイッと持ち上げられた。
カードはそのままアニがタッチして持っていく。
「あー!!大人気ない!子供の妨害してまで勝ちたいのかー!」
「「「勝ちたい」」」
声を揃えたのはアニ、殿下、シリルの三人。
ダメだ。ここには負けず嫌いの大人しかいないみたいだ。
エルヴィスが本当に常識人に見える。
こうなったら、こっちもズルしてやるっ。
「パパたすけてええええええ!!」
「おっし任せろシロ」
ここで最終兵器の投入だ。
それからは一方的な勝負だった。
というかパパが一人でゲームしてた。
なるほど、これ最初からやられてたら全然楽しくなかったわ。だからパパは途中参加にしたんだね。
他の容赦ない大人達にはない気遣いにときめいた。
パパに抱き付く。
「パパだいすき~」
「パパもシロ大好きだぞ~」
「ぐぬぬ」
殿下達はそんな悔しそうな顔してても抱き付いてあげない。
まあ当然だけどそこから先のカードは全部パパが取った。
そして残るは最後の一枚。
これを取らなくても私とパパの勝ちは決まっている。
「ふっ、ふふふははっははははは」
シリルが急に笑い出した。
「ルールはゲームが終わった後に一番多くカードを持ってた人が勝ち。ならば、
他人のカードを全部燃やしてしまえばいいんだ!」
そう言うとシリルは素早く爆弾を取りだし、ピンを抜いた。
「そこまでして勝ちたいか!?」
エルヴィスのツッコミに超同意。
ドオオオオオオン!!と爆発音がして辺りが煙に包まれた。
煙が引いていくと、カードや床が黒く焦げているのが分かる。
爆発からはパパが守ってくれたので私は無事だ。そして他の面々もみな無傷だった。
みんなそんなんでくたばるように見えないもんね。
最後の一枚は燃えてしまったのでゲームは終了だ。
でも何枚かのカードは無事だった。
結果は、エルヴィス1枚、アニ4枚、殿下4枚、シリル4枚、そして私が20枚だった。
「俺がシリルの行動を予想出来ない訳ねぇだろ」
やだパパイケメン。
「優勝は、隊長とシロちゃん~!」
「イエーイ!」
「いや、ちょっと待て、優勝はシロだ。俺はあくまで付き添いだからな。皆もそれでいいな?」
パパの言葉に周囲が頷いた。
そして読み手の人が言い直す。
「優勝はシロちゃん~!」
言い終わると同時に、パパがニヤリと笑った。
「それじゃあ、シロ以外が優勝するに賭けてた奴等の金、全部寄越せ」
「「「はあああああああああ!?」」」
「俺も賭けてたんだよ。どうせウチの子に賭けてたのなんて俺くらいだろ?ほら、さっさと寄越せ」
パパはそう言ってお金の入った袋を隊員の一人から受け取った。
せこいぞー!とか言われてもパパはどこ吹く風だ。
上機嫌のパパにニッと笑いかけられる。
「シロ、この金で今度の休みにどこか上手いもんでも食べに行くか」
「いく!」
「じゃあ今度の休み期待してろよ」
「うんっ」
こうして、私の初めての外出が決まった。
それから、本気で競うゲームは特殊部隊で禁止になったのだった。
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