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こぼれ話
スカートor着ぐるみっておかしくない?
しおりを挟む〈簡単な人物紹介〉
主人公 シロ…五歳の少女。これまでの記憶を失っている。
主人公を引き取った父 ブレイク…王城で働く特殊部隊の隊長。美青年。
その他の愉快な仲間達 アニ…特殊部隊の隊員でシロことを異様に可愛がっている。
シリル…特殊部隊の隊員で爆弾魔。
エルヴィス…特殊部隊の隊員で、唯一の常識人。
クロ…特殊部隊の隊員で、無口なワンコキャラ。
エンペラー…シロのペットの狼。
*********
私はクローゼットの中を覗き込んで呟いた。
「……まともな服がない……」
いや、正確に言うとまとも過ぎる服しかないのだ。クローゼットの中身はどれもこれもフリフリしたワンピースとかばかりで運動する服ではない。
かわいい洋服は好きだけど、なにせ動きにくいのだ。
なぜかパパとの訓練が日課になっちゃったんだけど、その時私が着ているのはパパチョイスのフリフリワンピース。いやおかしいよね? 完全に場にそぐわないし、なにより動きにくい。
私は机を両手でバンと叩いた。
「これはゆゆしき問題ですパパ!!」
「よく由々しきなんて言葉知ってたな。さすが俺の子。賢いな」
パパに頭を撫でられる。
悪い気はしないけど、今はそれどころじゃない。
「動きやすいズボンの服を要求します!」
「却下」
即座に却下された。
しかもパパは真顔だ。
「なんでズボンだめなの!?」
「何でだと!?」
ガタッ!
パパが勢いよく立ち上がるのでビクッとなった。
「女の子はスカートに決まってるだろうが!!!」
言い切った。パパは言い切ったよ。
その場がシーンとなる。
「でも、動きにくいもん! それにきれいな服は汚しそうで怖いし」
「それでもパパは愛娘を着飾りたい! 服なんて汚しても洗えばいいし、いくらでも新しいのは買えんだよ! お前のパパはお金持ちだ! たがな、5歳のかわいいシロを着飾れるのは今だけなんだぞ!? 将来いくら払っても5歳のシロは戻って来ないんだ!」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「まあまあ二人共、一旦落ち着きましょうよ」
私達のやり取りを見かねたエルヴィスが止めに入ってくる。
「「エルヴィスうるさい!」」
パパと息がピッタリ合った。
エルヴィスがしょぼんとなるけど今は構ってる暇がない。謝るのは後だ。
「パパがそう言うならっ、シロもういっしょに訓練してあげないよ!?」
「ああ? シロがそう言うならパパはシロと一緒に寝てやらないぞ?」
「え、それは困る」
一人じゃまだ寝られないもん。それを引き合いに出してくるなんてずるい。
下がっちゃった眉をがんばって引き上げてむむむっと睨むと、ようやくパパが折れてくれた。
パパは一つ大きなため息を吐く。
「ハァー、仕方ない。まあスカートは大人になっても着られるからな。シロには別の選択肢をやろう」
「おお!」
やったぁ! あの動きにくい生活におさらばだ!
嬉しくなってパパに抱き付いていた私は気付かなかった。パパが私に見えないところでニヤリと笑ったのを。
***
次の日、特殊部隊の面々は訓練場で自分の目を疑った。
デレデレに蕩けた笑顔の隊長の腕には、全身繋がった真っ黒い服を纏ったロリコン垂涎の幼女がいたからだ。
そのフードからは三角形の耳が生え、お尻の辺りからは細長い尻尾が伸びている。
シロの本日の衣装は黒猫の着ぐるみだった。
それを見たある者は頬を綻ばせ、
ある者は写真を撮った。
そして、あるアニは鼻血を吹いてブッ倒れた。
「シロかわいいなぁ。食べちゃいたいくらい可愛い」
黒いふさふさのフードの下から覗く顔の至るところにブレイクはキスをしまくる。
「パパくすぐったいよ」
そう言ってブレイクの首筋に頬擦りするシロは本物の猫の様で、さらに周囲の者達を悶えさせた。
その後の訓練で、シロはそれまでの倍のスピードで動き回った。
***
キャッキャと他の隊員と走り回るシロを愛おしげに見守るブレイクに、エルヴィスは声を掛けた。
「上手くシロを誘導しましたね」
「ああ、思った以上に簡単だった。あの子にはもう少し人を疑うことを教えねば」
ブレイクは笑って答える。
スカートを履くか着ぐるみを着るか、考えようによっては着ぐるみの方が嫌だろう。
ブレイクはシロに着ぐるみを着せたいが為に、反抗心の芽生えやすい子供にあえて真っ向から反対してみせたのだ。そしてシロはスカートよりは着ぐるみの方がマシという結論に至り、ブレイクのもくろみ通りにすんなりと着ぐるみを着た。
「シロに似合いそうな着ぐるみを買い込んでいた甲斐があったな。やっぱりよく似合う」
ブレイクはこれからシロに着せる着ぐるみを上機嫌で考え始めた。
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