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魔王一家のピクニック

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 今日はピクニックの日なのです。
 楽しみ過ぎてそわそわしちゃう。抱っこしたモフ丸を左右に揺らして準備が整うのを待つ。手伝おうとしたら遠回しにミィがいると余計に手間がかかると言われた。しょぼんなのです。

「ミィ~、準備ができたよ~。モフ丸を下ろしてあげな~」
「はいです」
 もふんとモフ丸を床に下ろす。
「ほい、帽子かぶれよ」
「む」
 イルフェ兄さまに乱暴に麦わら帽子を被せられる。そしてヒョイっと抱き上げられた。わたしと反対側の腕にはモフ丸が抱かれている。
「せっかくだから今日は転移じゃなくてチャッピーに乗って行くぞ」
「おお、チャッピーですか」
「チャッピー?」
 モフ丸が首を傾げている。
 チャッピーは家が飼っている黒竜だ。飼ってるって言っても普段は好きな所に勝手に遊びに行ってるんだけど。呼べば来てくれる。
 チャッピーはとっても大きいので、わたし達一家が乗っても大丈夫なのです。
 せっかくなので、なんにも言わずにモフ丸をチャッピーに会わせてみよ。きっと驚くだろうなぁ。




「グルルルルル」
「チャッピーひさしぶりなのです!」
 久々に会って興奮してるチャッピーの鼻先を撫でてあげる。
 モフ丸のリアクションはどうかな?
「……」
「モフ丸? ……固まってる」
 あんまり驚かなかったのかな……いや、尻尾が股の下に入り込んでますね……。九本もあるから半分くらいは股の下に入りきってない。混雑してるのです。

「モフ丸びっくりしました?」
「ビックリしたわ!! 誰が『チャッピー』と聞いて黒竜を思い浮かべるのだ!! こやつは我を食らったりしないだろうな!?」
 わお。予想以上にビックリしてる。というか怯えさせちゃったのです……。ちょっと可哀想なことしちゃいました。
「チャッピーはいい子だからミィの家族を食べたりしないのです」
「竜族の王と言われる最強の黒竜をいい子だと? さてはチャッピーと名付けたのはお主だろう」
「おお、あたりです。かわいいでしょ」
「お主のネーミングセンスはどうなっておるのだ。モフ丸といいチャッピーといい」
 おっと、ミィがディスられる流れです? 別にふざけてるわけじゃないんですけど……。

「おらー二人ともさっさとチャッピーに乗れー。おいてくぞ~」
 チャッピーの背中の上にいるイルフェ兄さまに呼ばれた。わたしとモフ丸以外はもうみんな乗ってるっぽいです。
「は~い。ほらモフ丸、乗りますよ」
「うむ……」
 モフ丸は恐る恐るチャッピーの尻尾から背中に登っていった。

「ミィ、モフ丸を抱っこしてくれ」
「はい」
 わたしはモフ丸を落とさないようににギュッと胴体に腕を回す。そしてそのわたしをオルフェ兄さまが膝にのせて抱っこしてくれる。
「これで全員そろったな。チャッピー、飛んでくれ」
「グルウウウウウウウウウウウ!」
 父さまの合図でチャッピーを翼をはためかせ、一気に上空に飛び上がった。
「キュイイイイイイイイイイ!!!」
 わたし達の周りに結界を張っていても結構な風を感じるので、結界の外は暴風に襲われてるんだろう。結界の中にいてもモフ丸は恐怖で叫んでるし。
「モフ丸、どうどうなのです」
「ひぇぇぇぇ、怖いのじゃ……」
 耳も尻尾もぺしょんってなっちゃってる……。上空からの景色をモフ丸にも見せてあげたかったけどこれじゃあ下を見るのは無理そうです。
 狐はそもそもそも空飛ばないしね。
 わたしはモフ丸を向かい合わせてギュッと体に引き寄せ視界を塞いであげました。
 まだ見えない方がマシでしょう。





 怯えるモフ丸を宥めてるうちに目的地に到着した。
 モフ丸が可哀想なので帰りは転移で帰ることになった。なのでチャッピーはここで解放する。
「チャッピーありがとー」
「グルウウウウウウ!」
 お肉をあげたら喜んで食べてくれた。ペロリとお肉を食べ終わってしまってもここにいるので今日は一緒にピクニックしてくれるのかもしれない。

 意識を飛ばしたモフ丸を軽く揺する。
「モフ丸~おきてくださ~い」
「ん……んん? おお、ここは地上か」
 しなっとしていたモフ丸の耳がピンと立った。
 地上に帰ってきたことを確かめるように地面をふみふみするモフ丸。そしてキョロキョロと周りを見渡す。

「おお、綺麗な湖だのう」
「この前はミィもモフ丸も水遊びできなかったでしょ? だから今日は存分に遊んでいいよ」
 リーフェ兄さまにポンポンと頭を撫でられる。
 この間とははじめてのおつかいで水のダンジョンに行った時のことだろう。

「……ところで、オルフェとイルフェは何を作っておるのだ?」
「ん? 簡易ログハウスだよ」
 モフ丸の質問にリーフェ兄さまがなんでもないことのように答える。うんうん、ピクニックの定番ですね。簡易ログハウスは帰る時にはちゃんと壊しますよ。
「我の知ってるピクニックとは地べたにシートを敷いてそこに座るものなのだが……」
「え? 地べたに座るの?」
「そういえばお主らは一応王族だったのだな……」
 一応ってなんだ一応って。れっきとしたロイヤルファミリーだよ。
 

 そしてあっという間にログハウスが出来上がった。テーブルの置いてあるテラス付きだ。
「ミィ水着に着替えてこい」
「はーい」
 半袖短パンサングラスのイルフェにいさまに水着を渡される。その肩には既に膨らまされた浮き輪がぶら下がっていた。
 楽しんでますね兄さま。



***




「おお、ミィ似合ってるぞ」
「父さまありがとです」
 わたしが着ているのは水色のワンピースタイプの水着だ。首の後ろにリボンが付いててかわいい。今回はイルフェ兄さまがチョイスして買ってきてくれたらしい。
 兄さま達も水着に着替えてる。どうやらわたしと遊んでくれるらしい。
 でもなぜか父さまだけは普段着のままだ。
「父さまは着替えないんですか? 一緒に水遊びしましょ~」
「……」
 あれ?
 父さまはしかめっ面でなにか葛藤しているような顔になる。
「……ミィ」
「は、はい」

「我は……泳げんのだ……」

 父さまはとっても不服そうに弱点を打ち明けた。
「……えっと、父さま? この湖はそんなに深くないので足つくと思いますよ?」
「……」
「もしかして水も苦手なんですか?」
 父さまはコクリと頷いた。
 この魔王様かわいいぞ。

「逆になぜミィは水が苦手じゃないのだ。元猫なら苦手であるべきだろう。大人しく父さまと陸で遊ぼう」
「わたしはお風呂好きなタイプのねこちゃんだったのです。……あ、そうだ! 父さま、ミィと一緒に泳ぎの練習しましょ~?」
「……」
 うわぁ、すっごい嫌そうな顔してる。今日の父さまの表情筋はよく働くなぁ。明日筋肉痛になんないといいんですけど。
「はい父さま着替えてきてください」
 父さまに水着を押し付ける。
「ぅ……」
「着替えてきてください」
「……分かった」
 父さまはとっても不服そうに簡易ログハウスの中に入っていった。





 父さまと手を繋いで湖の前に立つ。
「いいですか父さま、お水に入りますよ」
「う、うむ」
 せーの、の合図でちゃぷんと水に足を浸けていく。
「ミィ、水が冷たい」
「水は冷たいものです」

 父さまはゆっくり時間をかけてようやく胸の辺りまで水の中に入った。
 わたしは足がつかなかったので浮き輪の上に座らされた。
「魔王の意外な弱点だのう」
「モフ丸犬かき上手いですね」
「だろう」
 モフ丸は犬かきで水の中をスイスイ移動していく。水をかきかきしてる足がかわわわわです。

「さあ父さま、まずは水に顔をつける特訓ですよ!」
「うむ。それはできるぞ。毎日顔を洗ってるからな」
 そう言うと父さまは難なく水に顔をつけて見せた。
「ぷはぁ、どうだミィ」

 それでドヤ顔しちゃう魔王様が他にいる? こんなにかわいい魔王はうちの父さまだけだと思う。
「じゃあ次はさっそく泳ぐ特訓なのです!」
「うむ」
「じゃあ父さま、ひとまず泳いでみてください」
「分かった」


 ブクブクブクブク
「……」
「「「……」」」
 スイっと水面にうつ伏せで横になった父さまはバタ足などのあがきもせず、すんなりと水の中に沈んでいった。それはもう潔い沈みっぷりだった。

 ザバァと音を立てて父さまが立ち上がった。
「……」
「……」
 ズブ濡れになった父さまに無言で抱き締められた。
「……沈んだぞ」
「……もう泳ぐのは諦めましょうか」
 そう言うと父さまはコクリと頷いた。
 せっかくピクニックに来たんだから楽しいのが一番だよね。

 父さまはわたしをお腹に乗せて浮き輪でプカプカしてる。
「……うむ、なかなか悪くないな」
 どうやら浮き輪はお気に召したみたい。

「グルウウウウウウ」
 日向ぼっこをしていたチャッピーが急に長い首をグイーッと伸ばした。そしておもむろに起き上がるとわたし達のいる湖にのっしのっしと近付いてきた。

 バッシャアアアン!!

「うわっぷ」
 結構激しい波が襲ってきた。頭から水をかぶる。
 父さまがいたからいいものを、危うく浮き輪から落ちそうになったよ。
「グルウウウウウ♪」
 冷たい水に浸かったチャッピーはご機嫌そうに喉を鳴らす。
 チャッピーも水遊びしたくなっちゃったんですね……。水に濡れてツヤツヤと輝く鱗がかっこいいです。
 


***



 水遊びをした後はご飯を食べて、少しだけお昼寝をしたら帰る時間になった。楽しい時間は早く過ぎちゃうものなのです。
 チャッピーはお昼寝をしてる間にどっかに飛んで行っちゃいました。

「じゃあ帰るか」
「はいです」
 父さまに抱き上げられた。
「ミィ、楽しかったか?」
「はい、とぉ~っても楽しかったですよ。連れて行ってくれてありがとなのです」
 父さまにギュッと抱き着く。


 帰りは転移で帰りました。モフ丸が大層喜んでたのです。







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