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ミィ、出荷される
しおりを挟むもふっ、もふっ。
「人界から侵入者?」
「うん、昨日の夜に入ってきたけどまだ捕まってないみたい」
「今日は人界からの使者も来るし……なんかきな臭いな」
もふん、ごろりん、もふん。
「ミィとモフ丸も普段よりは身の周りに警戒して生活するのだぞ…………聞いているか?」
「う?」
オルフェ兄さまに話しかけられて、わたしはモフ丸のお腹から顔を上げる。
なんの話? モフ丸と戯れてて全然聞いてなかった。
「うむ、分かったぞ」
「……はい」
まあモフ丸が分かってるなら平気かな。後で聞こ。
「よいしょっと、じゃあミィはモフ丸とお昼寝してきます」
浮遊魔法で箱ごとわたしとモフ丸を浮かせる。
「ミィお勉強は?」
「来世でします」
リーフェ兄さまの「勉強しよっか」という視線が飛んできたので慌てて廊下に出る。こういう天気のいい日はお外でお昼寝に限ります。
お庭に出てわたしの畑の隣の芝生に箱を着地させる。
そしてモフ丸のお腹に寄り掛かればお昼寝準備完了だ。ぽかぽかと日差しも丁度よく当たってるし、絶好のお昼寝タイム―――……すやぁ。
わたしはすんなりと夢の世界に旅立った。
パタン
***
ゴツッ
「いたっ」
手を動かしたら箱のフタに当たった。痛い。木箱じゃなくて段ボールにしておけばよかった……。
……あれ? わたしフタ閉めたっけ?
目を開けるけどしっかりとフタが閉まっているので暗闇しか見えない。
「モフ丸、モフ丸!」
「キュウ……?」
体を揺すってモフ丸を起こす。
「なんだミィ……? われはまだねむ……」
「このフタ開けて」
「? 開かぬのか?」
モフ丸が前脚でフタを押すけどびくともしない。
「……どうやら外から固定されてるみたいだのう。ミィ、お主のお友達を壊すがいいか?」
「うん」
さらばミィのお友達。友情はいつか壊れるものだよね。
バアンッ
モフ丸が箱を壊し、わたし達は外に出た。振ってきた木くずはモフ丸が尻尾で防いでくれた。紳士なお狐さんです。
「……ここ、どこ……?」
わたし達がいたのはどこかの建物の中で、周りにはいろんな箱や包みが積んである。たくさんの箱にミィの猫心がうずうずしちゃう。誰もいないからちょっと登ったりして遊んでもよさそう……。
箱とかには宛先が書いてあるのでお届け物が一旦集まる場所なのかな。モフ丸が壊した木箱を見たらそこにも宛先の書いた紙が貼ってあった。
ちょっとシワのできた紙を拾いモフ丸に見せる。
「モフ丸この住所知ってる?」
ミィはここに輸送されてる途中だったのかな。
「ん?」
紙を見た瞬間モフ丸の顔色が変わった。
「ここは……」
「子ども!? おい君! どこから入ったんだ!!」
「「!?」」
急な人の声に心臓が縮み上がった。
びっくりしたぁ。
声のした方に顔を向けると、男の人がこっちに向かってきてるのが見えた。
「ミィ、とりあえず逃げるぞ」
「え!? はい……」
なんで逃げるんだろう。
よく分からないけど、わたしはモフ丸の後を追って開いていた窓から外に飛び出した。そしてトスンと着地する。
確認してなかったけど一階でよかった。
「ミィ走れ。とりあえずここから離れるぞ」
「あ、はい」
そう言うや否や駆け出したモフ丸の後を追ってわたしも走り出す。
「待て!」と叫ぶ声が後方で聞こえたが、それを振り切って走る。
モフ丸について行くと、なんだか賑やかな通りに出た。いろんな人の話し声が聞こえる。
「ハァ、ハァ……」
膝に手をついて肩で息をする。
「ここまで来ればいいかのう」
結構走ったのになんでモフ丸は涼しい顔してるの……? ミィはゼェゼェなのに……。
「この程度の距離で汗だくなのか……。ミィは本当に運動不足だのう」
「いいかえせない……」
というかここどこ……?
息を整えて顔を上げると、レンガ造りの綺麗な街並みと行き交う人々が目に入ってきた。
……ん? なんか歩いてる人達に違和感が……。
「……もしかしてここ、人界……?」
わたしの呟きにモフ丸が首肯する。
歩いている人達には角も尻尾もない。
衝撃の事実にわたしは茫然としてしまう。
「あら? あの子角が生えてない?」
「!」
誰か、女の人の声でわたしはハッと我に返った。
「本当だ。もしかして魔族じゃないか?」
「確かに」
その男女の会話が聞こえたのか、その周りにいた人達の視線が徐々にわたしの方に集まる。
「ミィ、上着で頭を隠せ」
「わかりました」
人々の視線が好意的なものでないのはわたしも感じ取ったので、急いで上着を脱ぎ頭を隠す。
「また走るぞ。いいな」
「はい」
疲れたとか言ってられる雰囲気じゃないですね。
この場から離れるため、わたし達は再び走り出した。
人気のない方に向かってひたすら走る。
暫く走り、街の端の方まできた。
「ゼー、ゼー、疲れた。もう走れない」
「よく頑張って走ったのう」
モフ丸が尻尾でわたしの背中を撫で、ねぎらってくれる。
「……あれ? モフ丸の尻尾が一本になってます……」
それに大きさも小さくなってる。
「うむ、尻尾が九本ある狐など神獣である我くらいしかおらぬからな。普通の狐の姿に擬態した」
「尻尾減らせたのですか……」
「すごいだろう」
「うん」
ミィ角の出し入れは自分でできないもん。
周囲に誰もいないことを確認して頭を隠していた上着を取り払った。
「モフ丸、人界だと角は隠さないといけないんです?」
「うむ。人界と魔界はあまり仲が良くないからのう、隠しておいた方が余計な騒ぎにならんだろう」
「そうだったんだ」
人界と魔界が仲良くないなんて知らなかった。
「そういえばミィはあまり人間を嫌っておらんのう」
「だってイルフェ兄さまは元人間だもん」
「そうか……。え!?」
モフ丸が驚いてる。そりゃそうだよねぇ。
「イルフェ兄さまは元々はただの人間だったけど父さまと血の契約をしてミィの兄さまになったんです」
「じゃあミィとは血が繋がっておらんのか!?」
「今は兄さまの血が変性して繋がってますよ? でも元々は他人です」
「ほぉ……」
「ついでにリーフェ兄さまもそうです」
「!?」
驚くモフ丸かわいい。
「ただの幸せ家庭かと思ったら意外に複雑だったんだのう……」
「そうですか? 魔族だとちょいちょい行われることみたいですよ」
「文化の違いだな……」
これがかるちゃーしょっくですか。
「さてモフ丸、そろそろお家に帰りましょう」
「? どうやってだ?」
「? 転移でです」
「我は転移は使えぬぞ。そもそも瞬間移動系の魔法は教えられる者が少ない上に習得も難しいからな」
「……ミィも使えないです」
あら? すんなり帰れると思ってたけどこれは難しいパターンです?
「もしかして今すぐには帰れないパターンですか?」
「そうだな」
モフ丸にあっさりと首肯された。
「まあ自力で帰るかお主の家族が気付いて迎えにくるのを待つかだな」
「兄さまか父さまの迎えを待つ方が現実的ですね。ミィはどっちが魔界かもわかんないし」
人界に来たの自体初めてだし、普段もあんまり外でないから魔界の地理もよく分かってない。
「それじゃあミィの角を隠すためにローブでも買うか。上着で隠すのはあまりに不自然だろう。金は持っておるか?」
「お金……。生まれてこの方自分でお金を持ったことはありません」
「じゃあ……」
「もちろん今もお金は持ってません」
「……箱入りめ」
ミィは一応お姫様ですから。欲しいものは言えば誰かが持ってきてくれますし。危ないからって魔王城の敷地から外にはあんまり出してくれないんですよねぇ。
でも自分でお買い物をしてみたい気持ちもちょっとあります。
「……はっ! これは初めて自分でお買い物をするチャンスでは!?」
「だからその物を買う金がないのであろう」
「がーん、です」
じゃあ本当になにもできないじゃないですか。
父さまや兄さまはわたしを見つけてくれるでしょうか。
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