前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

文字の大きさ
上 下
13 / 49

我が名はモフ丸

しおりを挟む


 人界で我が邪魔になった神官共に襲撃され、我は深手を負った。完全に油断しておったわ。
 そしてなんとかやつらから逃げて辿り着いた魔界で、我はミィと出会った。

 我は魔界に来たのは初めてで、神獣である我に危害を加えるやもしれぬから残った力で結界を張り続けていた。どうやってかは分からぬが、その結界をあっさりとすり抜けてきたのがミィだ。
 ミィの癒しの手によって我の傷はみるみるうちに治っていった。そして、ミィの手は少しずつではあるが我の失った力も回復してくれた。
 おかげで話せはしないものの、すぐ普通に動くくらいはできるようになったのだ。

 「モフ丸」というバカげた名前を付けられたことには多少の腹は立ったが、我の命の恩人ミィに飼われてやることにした。その理由はミィが癒しの手を持っていることもそうだが、最大の理由はミィが可愛らしいことだ。
 この幼女は本当に可愛らしい。
 最初は変わった幼女だと警戒してたが、暫く一緒にいるとその可愛さが癖になった。今やミィと箱の中で一緒に寝ることは我の楽しみになりつつある。
 ただミィの寝床の棺桶は遠慮しているがな。あれはなかなか趣味が悪いと思う。あれの中で寝ることは我のポリシーに反する。

 ミィの力で育った野菜を食べているうちに、我の力はみるみるうちに全回復した。我のためにミィが畑を作ると言い出した時は柄にもなく涙が出そうになったのう。

 癒しの手といいミイは特別な子なのだろうな。本人は全く自覚してないが。厄介事に巻き込まれるやもしれぬから我が守ってやらねば。

 最近ではミィの面倒をみることが我の使命なのではないかと思い始めている。自慢の尻尾で顔を拭かれても、鼻水を拭かれても慈愛に満ちた眼差しで見守れるぞ。今やミィのことは孫のように思っている。
 モフ、モフ、と呟きながら我の後を追ってくるミィは地面に横たわって悶えたくなる程可愛い。事あるごとに我の尻尾に埋もれにくるのも庇護欲を刺激する。

 ミィと過ごすうちに、だんだんこのモフ丸という名前に愛着も湧いてきた。

「モフ丸」
「なんだ?」
「モフ丸、喋り方はかわいくないのです」
 ミィは木箱の中で我の胴体を背もたれに寛いでいる。九本ある尻尾のうち、一本は抱き枕にされた。残りはミィの腹の上に掛布団のように載せている。お腹を冷やすといけないからな。
「んにゃあ~」
 これ、尻尾を咥えようとするでない。我の尻尾はおいしくないぞ。
 尻尾を振ってミィの手から逃れる。

「モフ丸は神獣だから人界では偉いモフモフだったんです?」
「うむ、一部では信仰の対象になってたからの」
「すごいのです。ミィも教祖様になりたいのです」
「お主の家族が喜んで信者になるだろうな」
「モフ丸も?」
「?」
「モフ丸もミィの家族なのですよ?」
 そう言ってミィはコテンと首を傾げる。
 なんだこの可愛い生物は。ミィの頭に三角耳が見えてきたぞ。
 愛おしくてつい頬ずりしてしまった。ミィも進んで頬を押し付けてくるのでその柔らかい頬がもちもちと形を変える。愛いやつよのう。

「教祖になるのは色々大変だから止めておけ」
「モフ丸がそう言うならやめておきます。箱を愛でるボックス教を作ろうかと思ったんですけど……」
「それは止めておいた方が賢明だのう」
 大体ミィは箱を愛でたいのではなくて箱に入るのが好きなだけだろう。それにミィは愛でられる側だ。

 話しに飽きたのかくださミィは我の尻尾を振って遊び始めた。
「ぶんぶんぶん~」
「これ、止めぬか」
 ブンブンというかフリフリといった感じだが尻尾を弄ばれたので止めさせる。

「あ、モフ丸、今度家族でピクニック行くことになったのです」
 家族で、ということは先程の言葉から考えて我も入ってるのだろうな。なんだか少しこそばゆいのう。

「分かった。だがお主の兄達は全員休みが合うのか? 皆重要なポストにいるだろう」
「休みは合わせるものだってイルフェ兄さまが言ってた」
「そうか……。まあミィのためだったら奴らは意地でも休むだろうな」

 ミィの家族は皆重度のシスコンに親バカだ。
 どこかでミィが寝ていると必ず誰かしらが飛んでくる。位置を把握できる魔道具か監視できる魔道具でも仕込んでいるんじゃなかろうか。
 そしてお前達、仕事はどうしたと言いたくなる。
 初めてミィと昼寝をしていた時、ワラワラとミィの家族が寄ってきたので驚いた。そしてミィのかわいい寝顔を観賞するだけ観賞して仕事に戻っていくのだ。思わず不審者を見る目で見てしまった我を責められる者はいないだろう。
 おそらく今もどこかで我の尻尾で遊ぶミィを見て悶えてるのだろう。まあ最近ではそんな兄達の行動もミィが可愛いから仕方ないと思ってしまう自分がいるのだが……。

「モフ丸ぅ~かあいいねぇ」
 かわいいのはお前だ。
 ミィが我の首に抱き着いてくる。
 こやつ、さては前世は家猫だな? こんな人懐っこいのが野生で生きていけるとは到底思えん。すぐに自然淘汰されそうだ。
 今でも家族が過保護になり過ぎたのか、警戒心ゼロの無防備っ子に育っている。

「モフ丸すき~」
「うむ。我もミィが好きだぞ」

 仕方ない。ミィが立派な大人になるまでは我がお守りをしてやろう。




しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います

下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。 御都合主義のハッピーエンドです。 元鞘に戻ります。 ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...