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三章

エルゼリアとおでかけ

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 ある日、エルゼリアが突然家に来た。

「リア~」
「あ、エルゼリアいらっしゃい」

 どうぞどうぞとエルゼリアを家の中に招き入れる。

「ありがとうリア。リアは今日もかわいいわね」

 エルゼリアにぎゅ~っと抱きしめられる。これはいつものことだ。

「エルゼリアも綺麗ですよ。お仕事で疲れてるでしょうからゆっくりしていってくださいね」
「ああ、違うわ。今日はまったりしに来たわけじゃないの」
「違うんです?」

 エルゼリアが家に来る時は大抵癒しを求めてる時だから、今回もてっきりそうだと思ったのに……。
 そういえば、服装もいつもよりおしゃれな気がする。

「今日はリアとお買い物にいこうと思って。私、リアとお洋服を選んだりカフェで一緒にお茶をするのが夢だったのよ。だから今日は私とお出かけしましょう」
「はいっ!」

 エルゼリアに返事をし、私はバッと後ろを振り向いた。

「お母さん、エルゼリアとお出かけしてきてもいいですか?」
「ええ、いいわよ。エルゼリアがついてるなら安心だわ。最近街の警備も強化されたみたいだし」

 お母さんからの許可もあっさりと出たので、私はエルゼリアと出かけることになった。
 

 私もおめかしをし、エルゼリアと横並びで家を出発する。
 洋服は私のクローゼットの中からエルゼリアが選んだ菫色のワンピースだ。エルゼリアが私の洋服を選んでいる最中、まさかエルゼリアと二人で出かける日が来るなんてと、少し不思議な気分でその後ろ姿を眺めていた。

 エルゼリアと近況などを話しながらまったり歩いていると、あっという間に街に到着した。そして、エルゼリアは私を伴い、慣れた様子で目的地の洋服屋さんへと向かって行く。私とは大違いの慣れた足取りです。
 もちろん私には土地勘なんてものはないので、ただエルゼリアの後をついて行った。

 到着したのは品の良さげな洋服屋だった。エルゼリアが好むだけあってちょっとお高そうなお店だ。

「エルゼリア、このお店ちょっとお高めですか?」
「ええ、そうだけど今日は私が払うからリアは気にしないで。誘ったのは私だし、私はリアに貢ぐのが生きがいなんだから」

 ガシッと私の肩を掴んでそう言うエルゼリアの目が真剣すぎて固辞をすることなんてできなかった。それに、エルゼリアに関してはプレゼントを遠慮して断るといつの間にか当初の倍の量になって贈られるのでほどほどに甘えておくのが吉だと最近気付いた。

「じゃあ一着お願いします」
「オッケー、三着くらいは買いましょうね」
「!?」

 何がオッケーなのか。
 私はクワッと目を見開き宇宙を見た猫のような顔をしてしまった。
 まだまだ完全にエルゼリアを理解した気になるのは早かったようです。

 そしてエルゼリアがお店の扉の取っ手に手を掛けた瞬間、内側から扉が開かれた。

「あら」
「あ、すみません」

 中から出てきた人とぶつからないようにスッと後ずさるエルゼリア。そんなエルゼリアにペコリと頭を下げた女性の顔には、見覚えがあった。
 確か、学園見学に行った時に学園長室にいたメイラーと呼ばれた女性だ。
 向こうも私の顔を見て少し目を見開いた。その後、スッと目を細めて私を見てくる。
 あまり良い感情のこもった視線じゃなくて心臓がキュッとする。

「あなた……」

 メイラーさんが何か言おうとした瞬間、エルゼリアがスッと私の前に出た。

「ちょっとちょっと、私のかわいい宝物に怖い顔しないでくださる? こんなにかわいい天使ちゃんを睨み付けられるなんて正気なのかしら」

 おお……エルゼリアぶし全開です……。
 私の顔を両手で挟み、頬をむにむにしながらそんなことを言うエルゼリア。初対面の人はドン引き間違いなしです。

「別に怖い顔なんかしてませんよ。……いいですよね、何もしなくても守ってくれる人が回りにたくさんいて」

 それだけ言い残し、メイラーさんは去って行った。最後にちらりと私を睨み付けることを忘れずに。



 メイラーさんの姿が見えなくなるとエルゼリアが口を開く。

「何か、嫌な予感がするわね……。あの女、リアを害しそうな臭いがぷんぷんするわ。やけにリアに嫉妬しているようだし」

 そして何やら考え込むエルゼリア。だけど不意にパッと顔を上げた。

「せっかくのリアとのお出かけなのに水を差された気分ね。気晴らしにいっぱい洋服買っちゃいましょう」
「え、エルゼリア、浪費はほどほどにしましょうね」
「もちろん私は浪費なんてしないわよ。でもリアの洋服を買うのは無駄遣いじゃないから今日は奮発しても大丈夫ね」
「えぇ?」

 エルゼリアが強すぎます。

 つい先程とは一転、上機嫌になったエルゼリアに連行されて私はお店の中に入った。













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