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三章

褒められてご満悦

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 魔法陣を描き上げたノヴァは、先生によちよちと大袈裟なくらい褒められてご満悦だ。
 自分を抱き上げる先生をきゅるきゅるとまあるい目で見上げ、もっと撫でてとおねだりしている。先生もノヴァにメロメロで、おねだりされるがままに小さな頭を撫でいる。
 片や学園長さんはノヴァの描いた魔法陣に夢中で、魔法陣を記録するための手配に奔走している。

 リューンとカノンは飽きてしまったのか、重なり合うようにして机の上に寝転がっている。ぽてんと寝転がるリューンの上に頭を乗せるカノン。二頭ともとってもかわいいです。

 生徒さん達も目の前で子竜が魔法陣を作り上げていく様を見て興奮気味に周りの人と話している。

「ヴォルフス様……私達、お邪魔しちゃいましたか……?」

 さすがに不安になり、後ろにいたヴォルフス様を見上げて尋ねる。

「ん? まあ本来の授業の内容とは大分変ってしまったが、魔法陣を描き上げていくのを見るのはとてもいい勉強だ。本当にダメだったら俺や学園長が止めるし。……今は学園長が一番興奮しちゃってるな」

 そう言ってヴォルフス様が苦笑いする。

「授業時間にはまだ余裕があるが……先生たちは暫く使い物にならなそうだな」

 片や子竜にメロメロで、片や魔法陣にメロメロだ。

「どうする? 少し同年代の生徒達と交流をしてみるか?」
「え? あぅ……」

 つい変な声が出ちゃいました。
 急に初対面の人とおしゃべり、緊張します……。

「グゥッ……かわいい……! 無理にとは言わないが、リアの周りにはあんまり同年代の者はいないだろう?」
「はい。……じゃあ、少し話し掛けてみます」
「ああ。……皆も準備万端のようだしな」
「へ?」

 前を向くと、それまで話していた生徒さん達が姿勢を正して前を向いていた。
 これは……話し掛けられる準備万端ってことなんですかね?

「リューン、カノン、一緒に来てくれますか?」
「きゅ?」
「きゅ!」

 一人じゃ怖いので、リューンのカノンにも一緒に来てもらおう。
 私には高めの椅子からぴょこんと下り、二頭に向けて手を広げて見せる。すると二頭は私の腕の中に飛び込み、自分でしがみついてくれた。
 安心毛布がごとく二頭を抱きしめ、一番近くにいた女の子のところへと向かう。

「あの……」
「ぎゃあかわいい!!」
「!?」

 おおよそ目の前のかわいらしい女の子から飛び出したとは思えない声にびっくりする。

「ああ、いえ、急に大きな声を出してしまってすみません。話し掛けていただけて光栄です」
「いえ、こちらこそ。その、授業の邪魔をしてしまってすみません」
「そんな! 邪魔だなんて!! 子竜が魔法陣を描くところなんて普通の授業では見られませんから貴重な経験でした。子竜自体、普通に生活していてもお目にかかれるものではありませんし。ほら見て下さい、先生なんて子竜ちゃんにメロメロですよ」

 黒板の方を見ると、先生はまだノヴァの頭をなでなでしていた。ノヴァも満更でもなさそう。

「ほんとですね。でも、子竜はかわいいから先生がああなってしまうのも分かる気がします。ね~?」

 腕の中のリューンとカノンに聞くと、二頭とも「きゅ~!!」と答えてくれた。自分達がかわいいって自覚あるんですかね?

「ぐっ! こんなかわいいが目の前で見られるなんて、何たる幸せ……!」

 「三つのかわいいが目の前に……!」と呟き、女の子は天を仰いでしまった。

 どうしましょう、なにやら様子がおかしいです……。

 助けを求めてヴォルフス様の方を見ると、ヴォルフス様は苦笑いして「やっぱこうなるか。俺も最初の頃はずっとあんな感じだったな……」と呟いている。
 そういえば、竜人さんはかわいいものにはめっぽう弱かったですね。これも普通の反応なのかもしれません。

 私は目の前の生徒さんに向き直った。

「頭を撫でてみますか?」
「いいんですか!? じゃあ遠慮なく……」

 そうは言いつつも生徒さんの手が遠慮がちに伸びてきて―――私の頭に乗った。
 そしてそのまま硝子細工を触るかのような繊細さで私の頭を撫でる。

「あぁ……! 頭小さい! 髪の毛もサラサラ……」

 うっとりとした様子で私の頭を撫で続ける女子生徒さん。
 リューンとカノンの頭を撫でてみますか? って意味だったんですけど、どうやら言葉が足りなかったみたいだ。
 どうしましょう。

 だけどこの生徒さん、中々に頭を撫でるのが上手い。
 思わずうっとりと目を細めてしまう。私が子竜の姿だったら尻尾をフリフリして気持ちよさげな鳴き声を漏らしていただろう。

 目を細めてなでなでを受け入れる体勢に入ると、教室の端々から黄色い声が上がった。
 なんだなんだと目をぱっちり開く。
 すると、みんなが一斉に何かを話し始めたから全ては聞き取れなかったけど、断片的に「かわいい」とか「羨ましい」という声が聞き取れる。

「きゅ~」
「ん?」

 鳴き声のした方を見ると、腕の中にいるリューンとノヴァが何やら私の体をよじ登りたそうにしていた。なので腕の力を緩めてあげる。
 すると、リューンのカノンが私の肩までよじ登ってきた。

 二頭は後ろ足二本で私の肩に立つと、その小さな前脚で私の頭をなでなでしてくる。二頭揃ってだ。

「か、かわいすぎます……」

 胸がキュンキュンします。
 思わず動いてしまいそうになるけど両肩に二頭が乗っているから動けない。

 うぅ、でも幸せです……。

 胸を押さえながら視線だけで慎重に周囲を見渡すと、周りのみなさんは私以上に悶え狂っていた。














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