107 / 117
三章
褒められてご満悦
しおりを挟む魔法陣を描き上げたノヴァは、先生によちよちと大袈裟なくらい褒められてご満悦だ。
自分を抱き上げる先生をきゅるきゅるとまあるい目で見上げ、もっと撫でてとおねだりしている。先生もノヴァにメロメロで、おねだりされるがままに小さな頭を撫でいる。
片や学園長さんはノヴァの描いた魔法陣に夢中で、魔法陣を記録するための手配に奔走している。
リューンとカノンは飽きてしまったのか、重なり合うようにして机の上に寝転がっている。ぽてんと寝転がるリューンの上に頭を乗せるカノン。二頭ともとってもかわいいです。
生徒さん達も目の前で子竜が魔法陣を作り上げていく様を見て興奮気味に周りの人と話している。
「ヴォルフス様……私達、お邪魔しちゃいましたか……?」
さすがに不安になり、後ろにいたヴォルフス様を見上げて尋ねる。
「ん? まあ本来の授業の内容とは大分変ってしまったが、魔法陣を描き上げていくのを見るのはとてもいい勉強だ。本当にダメだったら俺や学園長が止めるし。……今は学園長が一番興奮しちゃってるな」
そう言ってヴォルフス様が苦笑いする。
「授業時間にはまだ余裕があるが……先生たちは暫く使い物にならなそうだな」
片や子竜にメロメロで、片や魔法陣にメロメロだ。
「どうする? 少し同年代の生徒達と交流をしてみるか?」
「え? あぅ……」
つい変な声が出ちゃいました。
急に初対面の人とおしゃべり、緊張します……。
「グゥッ……かわいい……! 無理にとは言わないが、リアの周りにはあんまり同年代の者はいないだろう?」
「はい。……じゃあ、少し話し掛けてみます」
「ああ。……皆も準備万端のようだしな」
「へ?」
前を向くと、それまで話していた生徒さん達が姿勢を正して前を向いていた。
これは……話し掛けられる準備万端ってことなんですかね?
「リューン、カノン、一緒に来てくれますか?」
「きゅ?」
「きゅ!」
一人じゃ怖いので、リューンのカノンにも一緒に来てもらおう。
私には高めの椅子からぴょこんと下り、二頭に向けて手を広げて見せる。すると二頭は私の腕の中に飛び込み、自分でしがみついてくれた。
安心毛布がごとく二頭を抱きしめ、一番近くにいた女の子のところへと向かう。
「あの……」
「ぎゃあかわいい!!」
「!?」
おおよそ目の前のかわいらしい女の子から飛び出したとは思えない声にびっくりする。
「ああ、いえ、急に大きな声を出してしまってすみません。話し掛けていただけて光栄です」
「いえ、こちらこそ。その、授業の邪魔をしてしまってすみません」
「そんな! 邪魔だなんて!! 子竜が魔法陣を描くところなんて普通の授業では見られませんから貴重な経験でした。子竜自体、普通に生活していてもお目にかかれるものではありませんし。ほら見て下さい、先生なんて子竜ちゃんにメロメロですよ」
黒板の方を見ると、先生はまだノヴァの頭をなでなでしていた。ノヴァも満更でもなさそう。
「ほんとですね。でも、子竜はかわいいから先生がああなってしまうのも分かる気がします。ね~?」
腕の中のリューンとカノンに聞くと、二頭とも「きゅ~!!」と答えてくれた。自分達がかわいいって自覚あるんですかね?
「ぐっ! こんなかわいいが目の前で見られるなんて、何たる幸せ……!」
「三つのかわいいが目の前に……!」と呟き、女の子は天を仰いでしまった。
どうしましょう、なにやら様子がおかしいです……。
助けを求めてヴォルフス様の方を見ると、ヴォルフス様は苦笑いして「やっぱこうなるか。俺も最初の頃はずっとあんな感じだったな……」と呟いている。
そういえば、竜人さんはかわいいものにはめっぽう弱かったですね。これも普通の反応なのかもしれません。
私は目の前の生徒さんに向き直った。
「頭を撫でてみますか?」
「いいんですか!? じゃあ遠慮なく……」
そうは言いつつも生徒さんの手が遠慮がちに伸びてきて―――私の頭に乗った。
そしてそのまま硝子細工を触るかのような繊細さで私の頭を撫でる。
「あぁ……! 頭小さい! 髪の毛もサラサラ……」
うっとりとした様子で私の頭を撫で続ける女子生徒さん。
リューンとカノンの頭を撫でてみますか? って意味だったんですけど、どうやら言葉が足りなかったみたいだ。
どうしましょう。
だけどこの生徒さん、中々に頭を撫でるのが上手い。
思わずうっとりと目を細めてしまう。私が子竜の姿だったら尻尾をフリフリして気持ちよさげな鳴き声を漏らしていただろう。
目を細めてなでなでを受け入れる体勢に入ると、教室の端々から黄色い声が上がった。
なんだなんだと目をぱっちり開く。
すると、みんなが一斉に何かを話し始めたから全ては聞き取れなかったけど、断片的に「かわいい」とか「羨ましい」という声が聞き取れる。
「きゅ~」
「ん?」
鳴き声のした方を見ると、腕の中にいるリューンとノヴァが何やら私の体をよじ登りたそうにしていた。なので腕の力を緩めてあげる。
すると、リューンのカノンが私の肩までよじ登ってきた。
二頭は後ろ足二本で私の肩に立つと、その小さな前脚で私の頭をなでなでしてくる。二頭揃ってだ。
「か、かわいすぎます……」
胸がキュンキュンします。
思わず動いてしまいそうになるけど両肩に二頭が乗っているから動けない。
うぅ、でも幸せです……。
胸を押さえながら視線だけで慎重に周囲を見渡すと、周りのみなさんは私以上に悶え狂っていた。
30
お気に入りに追加
5,188
あなたにおすすめの小説
天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される
雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。
スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。
※誤字報告、感想などありがとうございます!
書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました!
電子書籍も出ました。
文庫版が2024年7月5日に発売されました!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。