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三章
わくわく体験授業!
しおりを挟む私には少々大きい椅子にちょこんと腰掛ける。
竜人用の大きさに作られている机と椅子なのでもちろん座ると床に足はつかない。座る時もニコニコとしたヴォルフス様が持ち上げて座らせてくれた。
足をぷらぷらさせるのはちょっと行儀は悪いと思うので、きちっと足を揃え、膝の上で手をちょこんと合わせる。
すると、足を伸ばしてちょこんと座っている子竜達も私の真似をし、お腹の前で行儀よく前脚を合わせた。子竜達は座高が足りないので私の椅子とセットになっている机の上に三頭揃って座っている。
みんな前を向いているので、私の方からはまあるい後頭部が等間隔に並んで見える状態だ。
そんな私達を見てか、背後から堪えるような笑い声が聞こえてくる。
「か……かわいすぎる……っ……」
「この光景が見られただけでも付いて来た甲斐がありました……」
「ひ……姫様方、楽な姿勢をされて構いませんよ」
順にヴォルフス様、シアラさん、学園長さんの発言だ。
「そ、そうですか?」
三人の話を聞くために後ろを振り返っていた状態から、顔を黒板の方に戻す。すると、教室にいた生徒全員が悶えて机の上に突っ伏していた。
そこまでおかしなことをしてしまったんでしょうか……?
首を傾げつつ、私は足の力を抜いた。床に届かない状態で足を揃えるのって結構疲れるんですよね。
楽な姿勢でいいというなら私もその方がありがたい。
足をぷらーんとさせて後ろを振り返ると、学園長さんが微笑んで一つ頷いてくれた。どうやらこれでいいらしい。
そこで、学園長さんがパンパンと手を二回叩いた。
「さあ、みんな前を向いて、後ろを見たいのは分かりますが授業を始めますよ。先生、お願いします」
「はい」
学園長さんに言われ、黒板の前にいる先生が授業を開始しようとする。
学園長さんやヴォルフス様、シアラさんは立ったまま後ろで授業を見るらしい。座らなくていいのかと思ったら、保護者がそうやって授業を見に来る行事があるそうだ。
生徒さんの誰かが「授業参観じゃん」と呟いていた。
先生が「授業を始めるぞ」というと、次第に教室内のざわめきも収まっていく。
先生は三十代くらいの男性で、こんな状況でも割と落ち着いていた。
そして、いよいよ授業が始まった。
未だにお行儀よく座っている子竜ズがワクワクと瞳を輝かせているのが後ろ姿からも窺える。
かわいい後頭部を見ていると、ついつい撫でたくなっちゃうけど今は我慢です。
子竜ズの後頭部から黒板に視線を戻すと、先生が黒板に文字を書き始めていた。
今の時間は丁度魔術の授業らしい。よかった、魔術の授業なら私でも分かりそう。
子竜の姿なら嬉しくて尻尾を振っているところだ。
先生が黒板に魔法陣の条件を箇条書きで書き、こちらを振り向いた。
「それじゃあ、この条件の魔法陣を―――」
「きゅ!!」
先生の言葉の途中で、ノヴァが勢いよく手を挙げる。
「へ? まだ問題の途中だけど……まあいいか、子竜ちゃん!」
優しい先生はノヴァを指名してくれた。
ノヴァは「きゅっ!」と元気に鳴き、黒板の方へと飛んでいく。
「ん? チョークが欲しいのか?」
「きゅっ」
ノヴァがコクリと頷くと、先生は持っていた白いチョークをノヴァに手渡す。
ノヴァは初めて持つチョークに少し感激した後、そのチョークを黒板に滑らせていった。
小さい羽をパタパタしながらやりづらそうにチョークを動かすノヴァを見て、先生はハッとしたようにノヴァのお尻に手を添えた。自分で飛びながらだと書きづらそうなノヴァを支えてあげたのだ。
ノヴァもそれに気付いたのか、先生を見上げてにぱっと笑い、一鳴きした。お礼を言ったのだろう。
「うっ! かわいい……!!」
ノヴァの笑顔に心を打ちぬかれたらしい先生だけど、ノヴァを支えるその手がブレることはなかった。
最初はみんな頭の上にクエスチョンマークを浮かべてノヴァの行動を見守っていたけれど、次第にノヴァが何をしようとしているのかが見えてくる。
「きゅ~!!」
目的を遂げたノヴァがチョークを置き、粉が付いた手をパンパン払う。そして、見直すように直前まで向き合っていた黒板を見上げた。
その視線の先には、見事に描かれた魔法陣。
そう、ノヴァは黒板に書かれた条件を組み込んだ魔法陣を描いたのだ。
魔法陣が完成すると、それまで固唾を飲んで見守っていた生徒達が口々に話し出す。そのせいで教室内は俄かにざわつき始めた。
黒板に描かれた複雑な魔法陣を見て、先生が力なく言う。
「あはは、黒板の条件が組み込まれた魔法陣を手元の資料から選んでって言おうとしたんだけど、見事な魔法陣を作ってくれたねぇ……」
竜ってやっぱり規格外だ。
先生はそう言って感嘆の吐息を洩らした。
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