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三章
一人でお出かけ、できるかな?
しおりを挟む魔道具の開発やらなにやらでそこそこお金が貯まったリアです。
お金も貯まったのでそろそろ何か買おうかなと思った時、私はハタと気付いた。
――あれ? 私、もしかして一人で出かけたことないです……?
竜王国に来てからそこそこの月日が経ったけれど、一人で街に出かけたことはない気がする。前に出かけたのもヴォルフス様と一緒でしたし。
生活必需品もお父さんが定期便を頼んでいるのでわざわざ街に買いに行く必要はない。必然的に私達家族は街から遠ざかる生活を送っているのだ。
でも、私ももう大人。一人で買い物に出かけたことがないというのは流石にやばいんじゃないですかね?
人王国にいたころもなんだかんだ一人で外に出たことはないんですよね。あれは過保護というより監視的な意味合いが強かったですけど。
うん、思い立ったが吉日です。一人で出かけてみましょう。
そう思って保護者達に一人で出かけようと思う旨を伝えると、早々に保護者会が開かれた。参加者は両親、ヴォルフス様、そしてエルゼリアだ。
四角いテーブルをみんなで囲むように椅子に座る。議題が私のことということもあって私はお誕生日席だ。
最初に口を開いたのはヴォルフス様だった。
「リアに初めてのおつかいはまだ早いんじゃないだろうか」
あれ? なんか妙な変換されてますね。私はお出かけって言ったはずなんですけど。
ヴォルフス様の言葉に両親がうんうんと同調する。
「そうよね、心配だわ。だってこんなにかわいいんだし」
美の化身みたいなお母さんには言われたくありません。
「うん、成長したとはいえリアはこの国ではまだまだ小さいし、誘拐されたらひとたまりもないよね」
「魔術で抵抗しますよ!」
これでも半分は竜なので並の竜人よりは魔術が得意だとお父さんにアピールする。
「でもリア、いざという時に躊躇いなく人に向かって魔術を使えるかい?」
「うっ……」
自信がない。というか多分できません。
宰相さんの補佐官をしているだけあってお父さんの反論は的確だった。
一人でお出かけは厳しいかもしれませんね……、と私が諦めかけた時、意外にも助け船を出してくれたのはエルゼリアだった。
「あら、いいじゃない。リアにもそのくらいの経験は必要だと思うわ」
「エルゼリア!」
「リアの着けている魔道具もそのためにあるのでしょう? とりあえず近場のお店まで一人で行かせてげたらいいのではなくて?」
「うんうん!」
エルゼリアの言葉に私は大きく頷く。そしてキョロキョロと両親、そしてヴォルフス様の顔を見ていると、三人は苦虫を嚙み潰したような顔になった。
だけど、三人もエルゼリアの言葉には思うところがあったようで、渋々だけれど私が一人で出かけるのを許可してくれた。
みんなの気持ちが変わらないうちに出かける準備を整えると、エルゼリアがズイっと近付いてきて私に念押しする。
「リア、いくつか約束をするわよ」
「はい!」
じゃあはい、とエルゼリアに地図を渡される。
「一つ、地図のここにある雑貨屋に行ったら他には寄り道せずまっすぐ家に帰ってくること」
「はい!」
「一つ、もし身の危険を感じたら迷わず魔術を行使すること」
「う……」
「いいこと、この国の人の大半は小動物に異様に優しいわ。常識の違いで怯えさせることはあれど、うっかりで身の危険を感じさせるようなことはありえなくてよ。少しでも危険を感じたらすぐに魔術を使いなさい。大丈夫、万が一勘違いでも陛下がなんとかしてくれるわ」
「任せろ」
ヴォルフス様が私を安心させるように自分の胸を拳で叩く。
「わ、分かりました」
私が頷くのを確認するとエルゼリアが笑顔になる。
「うんよろしい。それじゃあ行ってらっしゃい」
「はい、いってきます!」
なるべく目立たない服をと言われたので、地味で装飾のないコートを羽織って靴を履き、玄関を出る。
さあ行こうと思ったところで後ろから声が聞こえてきた。
「――さあ伯父様伯母様陛下、リアの後をつけましょうか」
「エルゼリア聞こえてますよ!!」
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