97 / 117
三章
魔道具を持つことにします
しおりを挟む私は自分でリードを持ってくる犬のごとく同じ魔道具を三つ用意し、目の前の三人に差し出した。三人とはもちろん、両親とヴォルフス様だ。
この魔道具の効果を考えると、リードという例えはあながち間違っていないような気がする。行ってしまえばちょっと大雑把でかなり遠くまで届くリードですからね。
机の上でスッと三つのブレスレットを滑らせる。
「どうぞお受け取りください」
ブレスレットを差し出した私の手首にもかわいらしいデザインの方のブレスレットがついている。ちなみに、お母さんに用意したのは私とおそろいのデザインのもので、お父さんとヴォルフス様にはシンプルなデザインのものを用意した。
もちろんこの魔道具のことを知っていた三人は快く受け取ってくれる。
「ありがとうリア。これかわいいわね。こっちが位置が分かる方なの?」
「はい。私の付けているブレスレットの位置が三人のブレスレットで分かるようにしました」
販売されているものは一対一でしか使えない設定なので、それをそのまま使おうとすると私は三つのブレスレットをジャラジャラ付けないといけないことになる。ブレスレットとアンクレットに分けても流石に三つは邪魔だ。なので、少し魔法陣を弄って私が持つブレスレット型魔法陣は一つで済むようにしたのだ。
三人はそれぞれの手首にブレスレットを付けると、偉いワンちゃんを褒めるように私の頭を撫で、褒めちぎってくれた。
「よ~しよし、リアは天才だな」
「ええ、うちの子は天才ね。ねぇあなた?」
「うん、何よりも子どもが作ってくれたものを身に付けられるのが嬉しいねぇ」
頭をなでなで、抱き締められてギュウギュウ、ほっぺにチュッチュとされてみんなに大袈裟なくらい褒められる。
ちょっと照れ臭いけど嬉しい。心がほんわかします。
されるがままになっていると、お母さんが私の顔を覗き込んできた。
「あら、リアが嬉しそう。かわいいわ。お母さんもっと褒めちゃう」
そう言ってお母さんはむぎゅむぎゅと私を抱きしめ、頬ずりしてくる。お母さんのほっぺたスベスベです。
そんな私達をお父さんとヴォルフス様は微笑まし気に眺めている。
「うちの奥さんと娘がかわいすぎる……。陛下もそう思いません?」
「はい、この世の幸せがここに詰まってますね」
そんな会話に耳を傾けていると、テンションの上がったお母さんがついに私を高い高いしてきた。この細腕のどこにそんな力があるのか、軽々と私を持ち上げるお母さん。やっぱり生粋の竜は違いますね。
そんな私達を見てお父さんとヴォルフス様はなぜか拍手をしている。みんないつになくご機嫌だ。お酒でも飲んでるんでしょうか?
クンクンと鼻をひくつかせてみるけれどアルコールの匂いはしない。素面でこの状態のようだ。
中身が空になった私のお腹がきゅ~とかわらしい音を響かせるまで、その異様な興奮状態は続いた。
夕食の席で、袖の隙間から銀色のブレスレットを覗かせたヴォルフス様が口を開く。
「そういえば、この魔道具は意外なところでも導入が検討されてるぞ」
「意外なところ? どこでですか?」
「運送業者だ」
「へぇ」
確かに、それは全く予想していなかった。元々は小さなお子様のいる方々のリクエストでできた魔道具ですからね。
「どんな感じで使われる予定なんですか?」
「荷物の輸送状況の確認だな。今までは一々連絡をして確認していたが、これがあれば連絡をしなくても逐一荷物の場所が確認できるだろ?」
「あ、確かに」
考えもしなかった使い道です。でもたしかに、詳細な場所が分からない代わりにかなり範囲を広く設定したので、荷物の運送状況の確認にも十分使える。
「王城の重要な荷物の確認にも有用だから国としても支援に前向きだ。実験的に導入した後、別の形状のものを頼むかもしれない。運送状況の確認ならブレスレット型の必要はないからな」
「たしかに、ブレスレット型だと逆に不便ですね。アクセサリーとして使うのに邪魔にならないくらい石板は小さくしましたし。荷物の運搬確認用に少し魔法陣も弄りますか?」
そう言うと、ヴォルフス様は少し目を見開いた。
「どうしました?」
「いや、少しびっくりしただけだ。魔法陣は本来そんなポンポン作り変えられるものじゃないからな」
そう言ってヴォルフス様が私の頭を撫でる。
「まだ導入するかは確定してないから、正式に決定したら改めて魔道具作成課に注文をさせてもらう」
「はい、お待ちしてます」
ふふっと笑ってそう言う。
今のやり取り、私もちゃんと魔道具作成課の一員になった感じがしてちょっと嬉しかった。
ヴォルフス様と微笑み合っていると、ボーっと私達を見詰めるお母さんの目線に気付く。
「お母さん? どうしました?」
「! あ、いえ、仲良しの二人を見てたらちょっとボーっとしちゃってたわ。私も年かしら」
そうおどけるお母さんはどう頑張っても二十代にしか見えない。しかもこの世で最も美しい二十代だ。
この発言にはヴォルフス様も本気で首を傾げていたし、お父さんも「オリビアはまだまだ若いよ」とお母さんに言っていた。お母さんもまんざらでもなさそうにお父さんに向けて微笑む。
両親の仲がよくて何よりです。
*******<お知らせ>*******
書籍発売しました!
既にご購入いただいた方がいましたらありがとうございます!
レジーナブックスのホームページでアンケートに答えると読める特別番外編小説も掲載していますのでお気になる方はどうぞ!!
20
お気に入りに追加
5,212
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
魅了が解けた元王太子と結婚させられてしまいました。 なんで私なの!? 勘弁してほしいわ!
金峯蓮華
恋愛
*第16回恋愛小説大賞で優秀賞をいただきました。
これも皆様の応援のお陰だと感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
ありがとうございました。
昔、私がまだ子供だった頃、我が国では国家を揺るがす大事件があったそうだ。
王太子や側近達が魅了の魔法にかかり、おかしくなってしまった。
悪事は暴かれ、魅了の魔法は解かれたが、王太子も側近たちも約束されていた輝かしい未来を失った。
「なんで、私がそんな人と結婚しなきゃならないのですか?」
「仕方ないのだ。国王に頭を下げられたら断れない」
気の弱い父のせいで年の離れた元王太子に嫁がされることになった。
も〜、勘弁してほしいわ。
私の未来はどうなるのよ〜
*ざまぁのあとの緩いご都合主義なお話です*

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。