生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~

雪野ゆきの

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三章

本配属です! 名もなき文官視点

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 俺はしがない文官だ。だが、中々に仕事はできる。
 戦闘面ではあまり恵まれなかった代わりに机仕事の適正は抜群だった。その甲斐あって陛下の近くで仕事をさせてもらっている。

 陛下の執務室の近くに俺の仕事場があるので、いつも通り書類を持って仕事場に向かっていた。
 歩いていると、ふと、キラキラとしたものが視界に入る。

(――姫様だ!!)

 姫様がサラサラとした白銀の髪をなびかせ、ちょこちょこと一生懸命歩いていた。なんであんなほっそい体で動けているのか未だに分からない。筋肉なんてどこにも見当たらないのに。人体の神秘だと思う。
 姫様は意外とお目にかかることが少ない。あまりお出かけにならない上に、基本的な生息地が関係者以外立ち入り禁止の場所だからだ。
 というか、基本陛下と一緒に移動しているから一人で歩いているのはかなりレアだ。

 姫様はこの前やっと成長期がきたらしく、美人だけど超絶かわいいとんでも生物へと進化した。普通は美人とかわいいは共存できないと思うが、姫様は美人でもありかわいらしいという不思議生物だ。人間はみんなそうなんだろうか……いや、さすがに姫様が特別に違いない。

 一人で移動する姫様は心なしか心細そうだ。それが庇護欲をそそるのか、姫様から見える位置、見えない位置両方から竜人達が見守っている。男女問わずに。むしろ女の方が多いかもしれない。背が伸びたとはいえ、俺達からすればまだまだ小さいから母性が擽られるんだろうな。見守っているやつらの表情から、今すぐにでも抱っこして陛下の元に送り届けてあげたいという気持ちがありありと伝わってくる。
 いや、ほんと同意だわ。
 ハの字になった眉毛がかわいくてかわいそうだ。
 俺も迷いなく見守り隊の中に紛れ込んだ。さり気なく姫様を見守る。

 不安そうな姫様もぎゃんかわいい。


 一人で不安なのか、姫様の足取りが徐々にゆっくりになっていった。
 可哀想な姿が涙を誘う。
 女達は何人か既に目元をハンカチで拭っていた。

「うぅ、かわいさできゅんとするのと不安げなのがお可哀想なので情緒がぐちゃぐちゃですわ……」

 同意でしかない。

 姫様はどうやらノックをするのを躊躇っているようだった。
 そうだよな、いくら仲がいいっていっても国王陛下の執務室に一人で行くのは心細いよな。
 俺もごくたまに行くことがあるけど未だに緊張する。

 そして、姫様はついに意を決して扉をノックした。
 か弱い、虫が鳴くようなノックだ。
 それでも俺達は姫様の手が痛んだんじゃないかとハラハラと見守っていた。陛下の執務室だけあってかなり頑丈な扉だ。ノックをして姫様の手が腫れたりしてないだろうか。

 幸いにも、姫様が痛がっている様子はなかった。
 だが、あまりにも弱いノックだったし、陛下の執務室は防音になっているからきっと陛下はノックに気付かないだろう。
 そう思った瞬間、陛下が部屋から出てきた。

「この弱々しいノックはリアだな!?」

 すごい陛下。あの小さな音を聞き取るなんて。愛の為せる業ですね。
 陛下が流れるような手つきで姫様を高い高いする。
 絵になる二人だなぁ。二人ともとても顔が整っているから一枚の絵画のようだ。

 姫様は陛下に会えて安心したのか、とても愛らしい笑顔を陛下に向けている。俺達も一安心だ。
 陛下も姫様といるときにしか見せない微笑みを浮かべている。どれだけ姫様にデレデレしても威厳が失われないのがすげぇよな。さすが竜人が皆尊敬する竜王陛下だ。
 陛下と一緒にいると姫様がさらに小さく見えてかわいい。

 おでこを合わせて微笑み合っている二人の様子はとても微笑ましかった。そんな二人の様子に、見守り隊の中には感極まってぽろぽろと涙をこぼす者もいるほど。
 感動系の物語を一冊読み終わった時のような気持ちだ。

 うん、この後の仕事も頑張ろう。姫様が住みよい国を作らないと。

 姫様達が陛下の執務室に入っていくのを見守り、俺も自分の仕事場へと戻った。

 部屋の中にいた上司が俺に気付く。

「ん? お前、やけにすっきりした顔してるな」
「はい、実は――」

 つい先ほどの出来事を上司に話すと、それはもう羨ましがられた。


 








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