94 / 117
三章
本配属です! 名もなき文官視点
しおりを挟む俺はしがない文官だ。だが、中々に仕事はできる。
戦闘面ではあまり恵まれなかった代わりに机仕事の適正は抜群だった。その甲斐あって陛下の近くで仕事をさせてもらっている。
陛下の執務室の近くに俺の仕事場があるので、いつも通り書類を持って仕事場に向かっていた。
歩いていると、ふと、キラキラとしたものが視界に入る。
(――姫様だ!!)
姫様がサラサラとした白銀の髪をなびかせ、ちょこちょこと一生懸命歩いていた。なんであんなほっそい体で動けているのか未だに分からない。筋肉なんてどこにも見当たらないのに。人体の神秘だと思う。
姫様は意外とお目にかかることが少ない。あまりお出かけにならない上に、基本的な生息地が関係者以外立ち入り禁止の場所だからだ。
というか、基本陛下と一緒に移動しているから一人で歩いているのはかなりレアだ。
姫様はこの前やっと成長期がきたらしく、美人だけど超絶かわいいとんでも生物へと進化した。普通は美人とかわいいは共存できないと思うが、姫様は美人でもありかわいらしいという不思議生物だ。人間はみんなそうなんだろうか……いや、さすがに姫様が特別に違いない。
一人で移動する姫様は心なしか心細そうだ。それが庇護欲をそそるのか、姫様から見える位置、見えない位置両方から竜人達が見守っている。男女問わずに。むしろ女の方が多いかもしれない。背が伸びたとはいえ、俺達からすればまだまだ小さいから母性が擽られるんだろうな。見守っているやつらの表情から、今すぐにでも抱っこして陛下の元に送り届けてあげたいという気持ちがありありと伝わってくる。
いや、ほんと同意だわ。
ハの字になった眉毛がかわいくてかわいそうだ。
俺も迷いなく見守り隊の中に紛れ込んだ。さり気なく姫様を見守る。
不安そうな姫様もぎゃんかわいい。
一人で不安なのか、姫様の足取りが徐々にゆっくりになっていった。
可哀想な姿が涙を誘う。
女達は何人か既に目元をハンカチで拭っていた。
「うぅ、かわいさできゅんとするのと不安げなのがお可哀想なので情緒がぐちゃぐちゃですわ……」
同意でしかない。
姫様はどうやらノックをするのを躊躇っているようだった。
そうだよな、いくら仲がいいっていっても国王陛下の執務室に一人で行くのは心細いよな。
俺もごくたまに行くことがあるけど未だに緊張する。
そして、姫様はついに意を決して扉をノックした。
か弱い、虫が鳴くようなノックだ。
それでも俺達は姫様の手が痛んだんじゃないかとハラハラと見守っていた。陛下の執務室だけあってかなり頑丈な扉だ。ノックをして姫様の手が腫れたりしてないだろうか。
幸いにも、姫様が痛がっている様子はなかった。
だが、あまりにも弱いノックだったし、陛下の執務室は防音になっているからきっと陛下はノックに気付かないだろう。
そう思った瞬間、陛下が部屋から出てきた。
「この弱々しいノックはリアだな!?」
すごい陛下。あの小さな音を聞き取るなんて。愛の為せる業ですね。
陛下が流れるような手つきで姫様を高い高いする。
絵になる二人だなぁ。二人ともとても顔が整っているから一枚の絵画のようだ。
姫様は陛下に会えて安心したのか、とても愛らしい笑顔を陛下に向けている。俺達も一安心だ。
陛下も姫様といるときにしか見せない微笑みを浮かべている。どれだけ姫様にデレデレしても威厳が失われないのがすげぇよな。さすが竜人が皆尊敬する竜王陛下だ。
陛下と一緒にいると姫様がさらに小さく見えてかわいい。
おでこを合わせて微笑み合っている二人の様子はとても微笑ましかった。そんな二人の様子に、見守り隊の中には感極まってぽろぽろと涙をこぼす者もいるほど。
感動系の物語を一冊読み終わった時のような気持ちだ。
うん、この後の仕事も頑張ろう。姫様が住みよい国を作らないと。
姫様達が陛下の執務室に入っていくのを見守り、俺も自分の仕事場へと戻った。
部屋の中にいた上司が俺に気付く。
「ん? お前、やけにすっきりした顔してるな」
「はい、実は――」
つい先ほどの出来事を上司に話すと、それはもう羨ましがられた。
30
お気に入りに追加
5,209
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。