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三章

サプライズ!

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 魔道具の在庫がなくなった後もちらほらとお客さんが来ては、「売り切れ」の張り紙を見て残念そうに帰っていく。
 そしてお客さんが帰っていく度にミカエルさんが何かを書いていた。

「ミカエルさん何してるんですか?」
「買えなかったお客さんの数を数えてるんだ。次に増産する魔道具の数の目安になるからね」
「なるほど」

 そこまで気が回りませんでした。
 私はカウンターの裏に隠れるように座ってるから、今はお客さんが来ても見えないんですけどね。
 なんで隠れているかというと、かわいいもの好きの竜人さんが集まってしまうからとのことだ。
 実際、第一陣から少し遅れて来た人は張り紙を見てガッカリした後、こちらを見てぽかんと顔を上げた。

「ひ、姫様がいる……」
「おはようございます」

 にこっと笑って挨拶をする。
 
「すみません、さっき睡眠の魔道具は全部売り切れちゃったんです」
「い、いえっ! それはいいんです! うわぁ、ちっちゃい、かわいい、きれい……」

 とても背の高い男性だけど両手を口に当てて乙女のような反応をしている。なんかかわいいです。
 そして、男性は意を決したように言った。

「あの、握手してもらえますか!?」
「え、ええ、いいですよ」

 手を差し出すと、おずおずと両手で握られた。まるで綿あめを触るかのようにそっと手を握られる。

「ふわぁ、手ぇ小っちゃい、ほっそい、しっろい……すぐに折れちゃいそう……」
「……」

 すごく褒めてくれます。すぐに折れちゃいそうはよく分からないですけど。生まれてこの方骨を折ったことはないので。

「一生分のかわいいを摂取できた気がします。ありがとうございました」

 そう言って男性は帰って行った。
 なんとなく、ちょこちょこと手を振って男性を見送る。出口に差し掛かったところでこちらを振り返った男性は、こちらを見ると「グゥッ!」と胸を押さえ、去って行った。

「一体なんだったんでしょう……」
「……」

 ミカエルさんの方を見たけど、ソッと目を逸らされた。
 それから遅れてやってきたお客さんも、なぜか握手を求めてくる人が多発した。
 疑問に思いつつもそれに答えていると、ついにミカエルさんのストップが入り、こうしてカウンターの裏に隠されたというわけだ。

「ごめんね、このまま話が広がったら今度は姫様に会いたい人が殺到しちゃうから」
「……そうですかね? 朝一で来た方々は大してなんのリアクションもありませんでしたけど」
「ああ、あの人達はそれどころじゃない人達だからね。でも内心は姫様に会えて感激してたはずだよ」

 そうですかね? でも、ミカエルさんが「それどころじゃない人達」と言う意味はよくわかる。だって、朝一で来た人達はみんなおそろいの濃い隈を目の下にこしらえてましたから。
 切羽詰まってる人ほど早く来たのだろう、魔道具が売り切れた後にのんびりきた人はそこまで急を要する感じでもなかった。

「まあ、私と会えて嬉しかったかどうかはさておき、大丈夫なんでしょうか……」
「大丈夫って? あの寝不足集団がってこと?」
「はい。子育て家庭の方はあの魔道具があれば状況は多少マシになると思いますし、赤ちゃんが大きくなっていけば夜泣きとかも減って睡眠時間は確保できるようになると思います。でも、ハルトさんみたいな研究者の方々とあの魔道具はその、相性が良すぎるというか悪すぎるというか……」
「ああ、ますます研究バカワーカーホリックが助長されそうだよね」
「はい……」

 私はまさにそれを心配しているところだった。
 あの方々は睡眠の質を高めるあの魔道具があるからと、さらに睡眠時間を削って研究に打ち込む気がする。いえ、ほぼほぼそうするだろうという確信があります。
 誰かに不健康になってほしくて作った魔道具じゃないので、なんだか複雑な気分です。

「まあ、予想で落ち込んでてもしょうがないよ。もしかしたらいい方向に行くかもだし。もしそれで彼らの健康状態が悪い方向に向かうようだったらその時に対策を考えよう。陛下にも助力をいただいて」
「はい……」

 確かに、まだ起こってもないことですしね。とりあえず今は魔道具が完売したことを喜びましょう。

「ミカエルさん、この魔道具はまた作り足しますか? このまま今日一日ずっと隠れていてもしょうがないので魔法陣を作り足してきてもいいですか?」
「そうだね、まだまだ欲しい人はたくさんいるみたいだし、是非お願いしたいよ。じゃあ魔道具作成課の部屋まで送っていくね」
「いえ、お手間なので大丈夫です。私一人で帰れますので」
「いやいや、そういうわけにはいかないでしょ」
「どうしてですか? 魔道具作成課までの経路はちゃんと分かりますよ?」

 そう言うとミカエルさんがハァ、と残念な子を見る目をしながらため息を吐いた。

「そういうことじゃなくて、もし姫様を一人にして何かあったらと思うと心配なんだよ。陛下にも合わせる顔がないし」

 大袈裟ですね、と思っていると私の顔に影が差した。

「――ミカエル、リアが心配をかけてすまいないな。だが今は俺が送っていくから心配しないでくれ」
「ヴォルフス様!」

 ヴォルフス様がカウンターに頬杖をついて上から私を覗き込んでいた。

「リア、魔道具完売おめでとう」
「ありがとうございます!」

 お礼を言えば、よしよしと頭を撫でられる。えへへ、やっぱり嬉しいです。

「ミカエル、心配をかけるな」
「いえいえ、陛下が来てくれて安心しました。俺がボディーガードするよりもよっぽど安全ですしね」

 一体お城の中でどんな危険が私を待ち受けているんですか……。ミカエルさんとヴォルフス様が過保護ってだけですかね……? ……なんだかそんな気がしてきました。

 その後、ヴォルフス様は私を魔道具作成課まで送り届けてくれた。
 そして魔法陣を作り足し、終業時間になると再びヴォルフス様が迎えに来てくれる。

「――リア、今日は少し遠回りをして帰ろうか」
「? はい」

 ヴォルフス様の提案で、綺麗な花壇のある公園を散歩してから帰った。
 その後家に帰り、玄関のドアを開ける。

「リア! 魔道具完売おめでとう!」
「今日はパーティだぞ~!」

 玄関を開けると、両親が私を出迎えてくれた。

 リビングの机の上には、私の好物料理ばかりが用意されている。そして、そのど真ん中には大きなホールケーキ。
 お母さんがにこやかに微笑んで言う。

「娘が初めて発売した魔道具が売り切れたんだもの。親として何かお祝いしてあげたいと思って」

 うんうん、とお母さんの隣でお父さんも頷いている。

 ――もしかして、帰りに遠回りをしたのってこの用意のための時間稼ぎだったんですかね?
 無粋な気がするから聞きはしなかったけど、ヴォルフス様を見上げると軽くウインクをされた。

 ――ああ、こんなことでも心を尽くして祝ってくれる人達がいるって幸せだなぁ……。

 嬉しくて、心が温かくなって、少し目から雫が零れそうになったけど、湿っぽい空気になるのは嫌だから必死に押しとどめた。

 ――なんとなく、三人にはバレてる気がしますけどね。










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