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三章

大繁盛です

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 魔道具を体験してくれた四人は本当に気に入ってくれたらしく、口コミで私の魔道具のことは徐々に広まっていった。

 そして、今日はいよいよ発売当日だ。
 魔道具は高価なことに加え、一応取り扱い注意の品物でもある。なので、荷物検査などをして許可を得れば誰でも入ることのできるお城の一階部分にあるスペースで販売がされている。
 発売当日ということもあり、本当に売れるのか私も様子を見にきていた。もし来なくてもソワソワして何も手につかないだろうというのが想像に難くないですし。
 子竜の姿だったら落ち着かなさに尻尾がブンブン動き回っていそうな心境の私を見てミカエルさんが穏やかに笑った。

「ははは、落ち着かないね」
「はい、どうせならもう不安に思う暇もないくらいに忙しくしてたい気分です」
「ふふ、だからそんなに不安がることないって言ってるのに。あ、どうせなら売り子やってみる?」
「売り子……私に務まりますか?」
「よゆーよゆー。元々そんなに人来ないし、急かすような人もいないよ」
「じゃあ、やってみたいです」

 そう答えると、ミカエルさんはうんうんと頷いてその辺にあった箱を持ってきてくれた。

「姫様の身長だとカウンター越しにやり取りをするのは難しいから、これを足台にするといいよ」
「あ、ありがとうございます」

 確かに、ここのカウンターは高めで、カウンター越しに見ると丁度私の頭がひょっこり出るくらいの高さだ。これじゃあお金とか商品のやり取りはできませんね。
 木箱の上に乗ると、丁度カウンターが胸下くらいの高さにきた。
 うん、これならいけそうです。

 そのままカウンターにちょこんと手を置き、お客さんを待つ。
 そんな私をミカエルさんが微笑まし気に見つめてきた。

「はは、まだ城の一般開門前だからお客さんはそうそう来ないよ。開門後でも並ぶようなことなんて滅多にないし」
「……ほんとうにあんまりお客さん来ないんですね……」
「うん、そりゃあメインのお客は国とか施設だもん。まあ、割と好き勝手に発明させてもらってるけど」

 それはよく分かります。
 魔道具を作ってる時の皆さんの目はキラキラしてますし、全く押し付けられて作業をしているようには見えない。

 そんな話をしているうちに、一般の開門時間になったようだ。

 先日、お試しで魔道具を使ってくれた四人の反応が思いの他よかったので、魔道具はインテリア型とベッドメリー型のを半数づつ用意してある。
 よく眠れる魔道具という噂はちらほら広がってるみたいですけど、それで実際に買ってくれるかどうかはまた別ですよね……。
 そんなことを思い、カウンターにべしょりと顔を伏せる。
 すると、どこからかドドドドドドドドドっという音が聞こえてきた。
 その音に、私とミカエルさんは同時に顔を上げる。

「な、なんの音ですかね……?」
「さぁ……?」

 まるで闘牛の群れが全力ダッシュしているかのような音です。しかも、だんだんこちらに近付いてきてるような……。
 ミカエルさんがカウンターの前に出ていき、私を守るように前に立った。

「み、ミカエルさ――」

 バァンッ!!

 私がミカエルさんに声を掛けたのと同時に部屋の扉が開かれる。
 そして、目の下に多かれ少なかれ隈を携えた人達が入り口からなだれ込んできた。

「え? ……え?」

 これみなさんお客さんですかね? ミカエルさんに聞いてた話と随分違うような……。
 混乱していると、いつの間にかなだれ込んで来た人達が列をなしていた。その列の先頭の人が私に話しかけてくる。

「眠れる魔道具を一つ頂戴。形はベッドメリー型で」
「あ、はい、少々お待ちください」

 カウンターの奥にある魔道具を取ってきたのはいいが、その後どうしたらいいか分からない。お会計でしょうか、それとも先に梱包でしょうか……。
 オロオロしていると、固まっていたミカエルさんが我に返りヘルプに来てくれた。

「ごめん姫様、まさかこんなに人が来ると思ってなかった! お客さんの対応は俺がするから、姫様は注文された魔道具を持ってきて紙袋に入れるのだけやってもらっていい?」
「はい!」

 この混みようだと呑気に仕事を教えている暇もないだろう。幸い、紙袋に魔道具を詰めるくらいなら私にもできそうです。
 ……でも、せっかく高い魔道具を買ったのにこの紙袋一枚じゃちょっと防御力に不安がありますよね。紙袋に衝撃吸収の魔術でもかけてみましょうか。サービスで。もちろん短時間しか効果は持続しませんけど。
 すると、魔術が発動する気配を感じたのかミカエルさんがぎょろっとこちらを見た。いつもとの違いにちょっとびっくりする。

「姫様、余計なことしない!」
「は、はい!」

 そうですね、確かに紙袋に魔術をかけちゃうと、短時間でも魔道具になっちゃいます。そうぽんぽんと魔道具ができてしまえばその貴重性が揺らいでしまいますね。
 ……うん、余計なことはしないでひたすら魔道具を袋に詰めることに集中しましょう。



 ――そして、用意してあった在庫百個はあっという間に売り切れてしまった。
 まだ午前中なのに。

 なんというか、お客さんは疲労がたまっていそうな人が多かった。なのでミカエルさんの癒しオーラで寝てしまう人もいるかと思えばそうでもない。稀に見る忙しさにミカエルさんの癒しオーラも減弱してましたから、それが逆に功を奏したのかもしれない。そうじゃないと、今この場はグーグー寝ている人で埋め尽くされているでしょうから。

 売り切れた後もお客さんが来て、もう在庫がないことを知ると残念そうに帰っていく。
 申し訳ないです。
 ミカエルさんがその辺にあった紙に「睡眠の魔道具は売り切れ」と書いて部屋の前に貼ってた。

「いや~、まさかここまで売れるとは思わなかったよ」

 いつものアルカイックスマイルでミカエルさんが言う。

「想定してた客層と違ったしね~」
「……そうですね」

 明らかに子育て世代ではない方が結構魔道具を買いに来ていた。聞いてみると、研究などをしている方々だった。
 そういう人達は口々に「短い睡眠時間で質の良い眠りができればもっと研究に集中できる!!」というようなことを言って帰っていく。

 そう、この魔道具は以前の私と同じような人種に思いの外需要が高かったのだ。

 ――そう、竜王国にも一定数いる、ワーカーホリックの人達に。







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