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三章
お披露目しました
しおりを挟むお披露目は、結果的に言えば大成功だったと思う。
私が人型のまま行ってしまうと身長や骨格から私だということがバレバレになってしまう。なので、子竜の姿になってバッグの中に入り、こっそりとお披露目会を見に行くことになった。もちろんバッグを持ってくれるのはヴォルフス様だ。
どうしてこっそり見に行くのかと言うと、やっぱり気を遣ってない生の声が聞きたいからだ。竜人のみなさんは優しいので、私が近くにいたら素直な意見は言いにくいと思ったんです。
「リア、これくらいのバッグなら入れるか?」
「きゅ!」
ヴォルフス様が持ってきてくれたハンドバッグによちよちと入る。ヴォルフス様の持ち物だけあってしっかりとした素材だけど、中には柔らかいタオルが敷いてあった。ヴォルフス様が敷いてくれたんでしょうか。
バッグの中で伏せをすると、ふわっふわのタオルが私を包み込んだ。
おお、結構居心地がいいです。なんか、すっぽり納まってる感じがいいんですかね。
うっとりと目を閉じる私の頭をヴォルフス様が撫でた。
「居心地は悪くないみたいだな。このバッグでいいか?」
「きゅ! (はい! もちろんです!!)」
全然お昼寝もできちゃいそうです。
バッグの口からひょっこりと目を出す。うん、こっそり見られそうです。
「頭が出てると流石にバレるから、上からタオル被せておくな」
「きゅ! (ありがとうございます!)」
こちらもまた柔らかいタオルを頭の上からかぶされる。温かくなって寝ちゃいそうですね。我慢しますけど。
「じゃあ行くぞ」
「きゅっ (はい)」
よいしょっとヴォルフス様がバッグを持つ。
いざ、お披露目会に参りますよ!!
バッグの中で揺られること数分、お披露目会の会場に辿り着いたようだ。
私が酔わないようにヴォルフス様が気を遣ってくれたのか、ほどよい揺れでむしろ眠くなりました。
お披露目会の会場は、お城の庭だった。おそらく魔道具が置かれるであろうテーブルが置いてあり、その周りにちらほらと人が集まっている。お披露目会というからにはもっと仰々しい感じを想像してたけど、意外とラフな感じなのかもしれない。
魔道具は高価でそうそう買えるものでもないって感じでしたし、お披露目会に来るほど熱心な人もあまりいないのかもしれない。
ちょっとだけ緊張が和らいだ。
それからまた数人がテーブルの周りにやって来た後、魔道具を持ったミカエルさんがやってきてテーブルの前を陣取る。
そして、自分の周りを見回した。
「今日も大体いつもと同じ面子ですね。みなさん今日も来てくれてありがとうございます」
ぐるりと周囲を見渡すミカエルさんと目が合う。すると、パチンとウインクされた。
お茶目ですね。
「今日ご紹介させていただくのは入眠用の魔道具です」
そう言ってミカエルさんがさっそくベッドメリー型の魔道具を取り出した。
「入眠と言っても、従来の強制入眠ではありません」
「ほう?」
観客の中にいたお医者さんみたいな人がミカエルさんの言葉に反応した。
「こちらは使用対象の疲労度に応じて入眠に誘う効果が異なります。さらには睡眠を上質なものにするという効果もございます。子育て家庭や夜に中々眠れない方などにはもってこいですね。睡眠時に使うものなのでこの場での実演はできませんが――」
「うちの仮眠室で少し試させてもらうことは出来るかい?」
そう言ったのは、いの一番にミカエルさんお言葉に反応していた白衣を着た男性だ。
「いいですよ。一応発売前の品物なので付き添わせてもらいますけど」
「はは、君が傍にいたら魔道具の効果も倍増だろうね」
「じゃあ隣の部屋で待機してます。見張っている人がいては寝づらいでしょうし」
「いいだろう。もし私の他にも試したい者がいたら申し出てくれ。仮眠室のベッドは何台かあるからな」
白衣の男性が周囲を見渡しながらそう言うと、三人の男性が手を挙げた。
「ふむ、三人か、ベッドの台数的にも丁度いいな。では移動しようか」
「はい」
ミカエルさんと白衣の男性、そして三人の男性の後をヴォルフス様がついて行く。
すると、ヴォルフス様がついて来ることを疑問に思ったのか白衣の男性が振り返った。
「陛下も付いてこられるんですか?」
「ああ」
「……」
お医者さんはどうしてヴォルフス様がついてくるのかを聞きたかったんだろうけど、ヴォルフス様がそれ以上答える気がないのを察して大人しく引き下がった。
私が作った魔道具だってことはまだ大々的には発表されてませんもんね。
そしてみんなが向かったのは医務室の隣にある仮眠室だった。
中には四台のベッドがあり、そのそれぞれに四人が横になる。そしてその枕元にベッドメリーが設置された。
「これは……いささか恥ずかしいものがあるな」
「そうですねぇ、ベッドメリーを使ってたのなんて記憶にない程前ですし」
「元々子どものために開発された魔道具ですからね。大人の方にも需要があれば形は変えますよ。それでは、みなさまお休みなさい」
穏やかな声音でミカエルさんがそう言い、私達は部屋を出た。
パタンと扉を閉め、医務室とは反対側の仮眠室の隣の部屋、給湯室に向かう。中には机も椅子も設置されていたので待つのには十分の設備だ。
「彼らも中々忙しい人達だからあの魔道具はぴったりかもねぇ」
勝手にお湯を沸かしながらミカエルさんがのほほんと言う。
「効果は抜群だろうな。そのままお買い上げもあり得そうだ」
「あはは、あの方々の自宅の枕元にベッドメリーがあるのを想像するとちょっと笑っちゃいますね」
そう言ってミカエルさんは棚から茶葉を出し、お茶を煎れ始めた。
「ところで、ミカエルはここで何時間も待ってるのか? 俺は途中で仕事に戻るが」
「いえ、あの方々にも仕事があるので魔道具の作用時間は15分に設定してあります。短めのお昼寝ですね」
「時間設定まで出来たのか。リアは天才だな」
「きゅ~!」
うりうりとヴォルフス様に頭を撫でられて嬉しくなる。
そう、魔道具の効果が続いて寝坊するのは問題なので、時間設定もできるように魔法陣をいじったのだ。
湯気の立ったカップを持ったミカエルさんが言う。
「まあ、のんびり待ちましょう」
そして十五分後。
バンッと音を立てて給湯室の扉が開かれた。
「なんだこの魔道具は! 睡眠の質が違うどころじゃない! 全く別物じゃないか!」
「ああ、たったの十五分なのにまるで一晩ぐっすり寝た時みたいな充足感だ」
「きゅ!?」
勢いにびっくりし過ぎて私はその場で軽く飛び跳ねた。
「今すぐ購入させてくれ! ――って、姫様……?」
みなさんがいきなり入ってきたから、バッグから出ていた私は隠れる間もなくヴォルフス様の膝の上にいる姿を見られた。
「まさか、この魔道具は姫様がお作りになったんですか?」
「それならこの効果も納得だし、なおさら買わせてほしい……!」
いきり立つみなさんをミカエルさんがどうどうと落ち着かせようとする。
「まあまあみなさん落ち着いて。まだ発売前ですし、みなさんがお使いになるならベッドメリー型じゃない方がいいんじゃないですか? 発売前に予約していただければ魔法陣が刻まれている部品を使ってインテリア型のを作ることも可能ですよ」
「「「「それをくれ!!!」」」」
「かしこまりました。ご予約ですね」
よければ周りの方にもこの魔道具を広めてくださいと言い、ミカエルさんは私達と魔道具を回収して颯爽とその場を離れた。
あまりにも圧がすごいから逃げたとも言う。
……とにかく、あの方々はとても気に入ってくれたようなので嬉しいです。
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