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三章
しっかり休みました
しおりを挟むあれから、私はすこすこスヤスヤと眠り続け、次に目が覚めたのは翌日の昼だった。
「……きゅる?」
「クルルルルルル (おはようリア。よく眠ってたわね)」
「きゅっ」
竜姿のお母さんにベロンと顔を舐められる。
「きゅ(おかあさんおはようございます)」
「クルルル (うふふ、リアってば全然起きないし、急に竜姿になるから心配したのよ?)」
「きゅきゅ (すいません……)」
なるほど、それでお母さんが竜になって添い寝してくれてたんですね。
最近はあんまり使うことのなくなっていた竜用の寝床だけど、やっぱり寝心地は抜群だ。竜の私はまだまだ甘えたな赤ちゃんなので、傍にお母さんがいるとホッとしてよく眠れるらしい。頭はスッキリでおめめもパッチリだ。
「クルル (最近根を詰めてたから疲れたでしょう。今日はゆっくり休みましょうね)」
「きゅ~ (は~い)」
スリスリと頬同士を擦り合わせる。
すると、きゅ~という音が鳴った。鳴き声じゃない。私のお腹の音だ。
お母さんが私のお腹を見る。
「クルルルルル (昨日の昼から何も食べてないものねぇ)」
「きゅ~ん (おなかすきました)」
「クルル (じゃあご飯にしましょう)」
「きゅ~ (は~い)」
ごはんを食べるために人型になり、伸びをする。
う~ん、やっぱり寝すぎたからかちょっと体が重いですね。
「――うふふ、お腹空いてたのねぇ。ヘトヘトなのに何も食べないで寝ちゃったものね」
「ふぁい」
もっきゅもっきゅとビーフシチューをつけたパンを頬張る。空腹は最高のスパイスって本当ですね。お母さんの料理はいつもおいしいけど、今日はより一層おいしく感じる。
ついつい口いっぱいに頬張っちゃう。
そんな私を、対面で頬杖をついたお母さんが微笑ましそうに眺めている。お母さんはごはん食べないんですかね?
「あ~、私の娘がとってもかわいいわ~。まだまだあるからいっぱい食べてね」
「はい!」
あぐあぐとパンにかぶりつく。
行儀は悪いけど、たまにはいいですよね。
「――ふぅ」
お腹いっぱいです。もう食べられません。
鍋のビーフシチューを全部食べつくすくらいの気持ちだったけど、私の胃袋では到底無理だった。
リビングのソファーでぐでっと寝転がる。お腹が重たいです。
ゴロゴロする私を見てお母さんがコロコロと笑う。
「うふふ、かわいいわぁ」
「……」
お母さんのツボが分かりません。トドみたいなのがいいんですかね?
「この後はどうするの? ダラダラする? いっぱい食べてたし、すぐに動くのはダメよ」
「う~ん、まだ時間もありますし、本を読むことにします!」
「あらいいわね」
そして、リビングのソファーに寝転がったまま、以前お父さんが買ってきてくれた小説を開く。どうやら恋愛ものみたいです。お父さんも随分乙女チックなもの選びましたね。
小説は普通に面白かった。面白かったけれど、今は天気のいい休日の昼下がり。そして私はお腹いっぱいごはんを食べた後。
活字を目で追っていくうちにどんどんウトウトしてしまう。それでも面白いから頑張って文字を読もうとしたけど、ついに眠気の限界がやってきた。
……あ、もうむりです……。
折り曲がらないように小説をテーブルの上に置き、私はソファーに横たわって目を閉じた。
ああ、極上の微睡みです……。
昨日からあれだけ寝たのに、どうやら私はまだまだ寝られたようだ。
まあ、寝る子は育つって言いますからね。私がこれ以上育つかどうかは分かりませんけど。
次に目を覚ました時には、ヴォルフス様とお父さんがいた。
ソファーに寝転がったまま伸びをすると、私が起きたことにヴォルフス様とお父さんが気付く。
「お、起きたな」
「おはようリア。その小説、あんまり面白くなかった?」
テーブルの上に置かれた小説を見てお父さんがそう言う。リアに恋愛小説はまだ早かったかなぁって顔をしている。
あ、これは小説がつまらなくて寝たと勘違いされてますね。
「おもしろかったけど、ごはんをいっぱい食べたから眠くなっちゃったんです」
「なにそれかわいい」
お父さんがデレッと表情を崩した。
「俺の娘がかわいすぎる」
さっきお母さんの口からも同じようなことを聞いた気がする。夫婦ですね。
そして、お父さんと同様に相好を崩している人物がもう一人。
「リアはかわいいな~。一日の疲れも吹っ飛ぶ」
「お疲れ様ですヴォルフス様」
「ありがとう。リアはしっかり休めたか?」
「はい! もうぐっすり寝たので全回復です!」
気力も体力も充実している気がする。
「そうか、それはよかった。それじゃあ明日のお披露目会は見に行けそうか?」
「はい! ちょっと緊張しますけど見に行きたいです」
明日、私が最近せっせと作っていた魔道具がお披露目される。販売を開始する前に、こんな魔道具がもうすぐ出ますよと告知するのだ。ここでの反響で、販売後の大体の売れ行きが分かるらしい。私の魔道具がどんな反応をされるのかドキドキしますね。でも、作ったからにはちゃんと反響も見届けたい。
「じゃあ明日一緒に行くか」
「え? ヴォルフス様も一緒に行くんですか?」
「ああ、お披露目会はいろんな人が見に来れるように昼休みの間にもやってるからな。俺も行けるぞ」
「そうなんですね。一緒に行けるの嬉しいです」
ちょっと緊張が解れた気がする。
少し表情が強張る私に気付いたのか、ヴォルフス様がフッと笑う。
「リアが作った魔道具が売れないわけないだろ? 万が一売れ残っても俺が買い占めるし」
「それはちょっと……」
「ん? 城の仮眠室とか病院とか、有効に使える場所はたくさんあるから問題ない」
「そうですかね……」
でも、ヴォルフス様に買い占めてもらうのはなんとなく気が進まない。お役に立つならいいのかもしれませんけど。
「……とりあえず、もう私にできることはないので明日のお披露目が上手くいくことをひたすら願ってます」
「心配しなくてもいいと思うがなぁ……」
ヴォルフス様の言葉にお父さんもお母さんもうんうんと全力で頷いていた。
みんななんでそんなに自信満々なんでしょう……?
作った私よりも自信に満ち溢れているみんなに疑問を覚えつつも、励まされて気分は上向きになった。
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