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三章

思いつきました

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「――そんなわけで、すっかり本来目的を忘れて楽しんじゃったんです」

 ヴォルフス様に今日あったことを話す。あの後お昼寝したら一日が終わっちゃったんですよね。教えてもらった遊びといえばボール遊びくらいだ。
 ヴォルフス様が微笑みながら私の話に耳を傾けてくれる。

「そもそも、子竜の時って駆け回るだけで楽しいのであんまり高度なおもちゃは必要ないかなって気もしてきました」
「確かになぁ」
「あ、でも、一個あったら便利かなって言う道具は思いついたんです」
「お、どんなのだ?」
「うふふ、できなかったら恥ずかしいのでできてからのお楽しみにしてもいいですか?」
「もちろん。じゃあ楽しみに待っているとしよう」

 そんな会話をしながら私達は家に帰った。




***




 次の日、私は再び魔道具作成課に来ていた。

「こんにちはミカエルさん。今日も少し場所をお借りしてもいいですか?」
「うん、もちろんだよ。姫様の魔道具作りは見てて俺達も勉強になるし」
「いえいえそんな、ミカエルさんは褒めすぎですよ」

 お世辞だって分かってても照れちゃいます。半分は竜なので多少魔術は得意ですけど、魔道具作りに関してはズブの素人ですのに。

「どんな魔道具を作るのかはもう決まってるの?」
「はい。もし出来上がったらチェックしていただけますか?」
「もちろん」

 そんな会話を交わし、私達はそれぞれの作業に入った。

 まずは魔道具の中に組み込む魔法陣を考える。いろいろと試行錯誤をしてみて、一番しっくりくるのを採用しようと思います。

 魔法陣を考えるのは楽しい。子竜の姿だったら多分、ご機嫌に尻尾を振ってきゅるきゅる鳴いちゃってますね。
 まあ、人の私は自制ができるのでそんなことはしませんけど――と、思ってました。けど、実際は楽し気に足をぷらぷらさせて音楽にのるように頭を揺らす私を、周囲が微笑まし気に見ていたそうです。
 ……恥ずかしい。

 魔法陣が決まれば次は魔道具自体の形作りだ。
 私に工作は無理なので、魔術で魔道具の形を作っていく。人間の常識がある私からしたらちょっとズルい気がしますけど、こちらでは別にそんな風には思われない。むしろ絶対に自分で釘を打とうなんて考えないでくれと方々から言われました。

 そして魔道具の内側に魔法陣を刻み込めば、とりあえずは完成です。

「ミカエルさん! できました!!」
「おお! 見せて見せて!」
「はい!」

 ミカエルさんに出来立ての魔道具を手渡す。

「ありがとう。じゃあ見せてもらうね。じゃあ、その間に姫様はこっち」
「?」

 席に座らされ、目の前にバスケットを置かれた。中にはジュースと軽食が入っている。

「何時間も作業しっぱなしだったでしょ? こんなに細いんだからもうちょっと食べないと」
「あ、ありがとうございます。いただきます」

 いつの間に用意してくれたんでしょうか。全然気付きませんでした。
 やっぱり、ミカエルさんからは母性を感じます。
 そんなことを考えながらジュースをコクリと飲み込んだ。知らない間に喉が渇いていたようで、水分がすんなりと乾いた体に行き渡ってくる。

「ぷはぁ」

 おいしいです。


「さすがミカエルお母さんそつがないな。俺も今度姫さんに食いもん差し入れしよ」
「それがいいな。あんな細っこいんじゃすぐに折れちまいそうだし。姫さん甘いもん好きかな」
「じゃあ俺上手い肉とか差し入れようかな」

 ざわざわとおじ様方が私を肥やす計画を立ててます。いえ、餌付けですかね?

「こらこら、そんな一斉に差し入れしたら姫様が困っちゃうでしょ。姫様、無理してでも食べようとしちゃいそうだし」
「「「あ~」」」

 ミカエルさんの言葉に納得するおじ様達。たしかに、せっかく下さったものなら無理してでも食べちゃいそうです。

「俺が後で希望者の差し入れスケジュール組むから、みんな姫様に勝手に食べ物あげないように」
「「「は~い」」」

 ……私はどこかの珍しい動物かなんかですかね? いえ、人間と竜のハーフなので珍しい動物っちゃそうなんですけど。

 私はおずおずと申し出る。

「あの、わざわざスケジュールを組んでまで差し入れをしてもらうのは申し訳ないので……」

 お断りしようとすると、一人のおじ様に言葉を遮られた。

「そんなこと言わないでくれよ!」
「そうだそうだ! この年になるとかわいい子にうめぇもんを食べさせんのが楽しくてしょうがねぇんだ! なあ?」
「ああ、それに姫さんみたいなちぃせぇ動物には何かしてやんねぇと気が済まねぇんだよ。竜人の本能みたいなもんだ」
「「「うんうん」」」

 腕を組んで同意するおじ様方。示し合わせたかのように全く同じ動きで頷いているのが面白いです。

「うふふ、では、差し入れはありがたくいただかせてもらいます」
「ああ、そうしてくれ。食事の邪魔して悪かったな」
「いえ、お気になさらないでください」

 そして食べかけのサンドイッチを口に入れ、ふと思い出した。
 ――あ、そういえば私の魔道具はどうなったんでしょう。ミカエルさんの評価はどんな感じですかね。
 さっき一瞬話に入ってきた後、すぐに私の魔道具の見分に戻ってくれてましたけど。
 私がそう考えたのと、誰かが声を上げたのは同時だった。

「うわっミカエルお前何やってんだ!!」

 声の下方を向くと、そこにはグガー、グガーといびきをかいて床に寝ている一人のおじ様と、瞳をキラキラ輝かせているミカエルさん。

「すごいよ姫様! この魔道具は子育て界に革命を起こすかもしれない!!」

 ただの床に寝てしまっているおじ様をよそに、ミカエルさんは大変ご機嫌な様子。

「……」

 ――まあ、とにかく、好感触のようでよかったです……。








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