生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~

雪野ゆきの

文字の大きさ
上 下
71 / 117
三章

職場見学①

しおりを挟む
「ちょっちょっと何やってんすか葛宮さん!?」

 葛宮の行動が理解不能なのはいつものことだが、今日は一段とタガが外れていた。
 俺たちは車に乗り込み汐見の様子を見ていたのだが……。
 汐見と水川がマンションに入っていくや否や、葛宮はどこかに電話をかけた。

「……僕だ。ちょっと聞きたいことがあって……あぁ、水川弓月だよ…………3002だね、ありがとう」

 俺と晴瀬は顔を見合わせる。

「上の階を押さえてくれないか?うん……指紋は登録してある僕のもので構わない。……頼むよ」

 そう言うと葛宮は電話を切り、車を降りた。

「さぁ、行こう!」
「どこへ!?」
「水川弓月の部屋の上の部屋だ」
「何者だよあんた!?!?」

 このマンションは父の管理物件でね……等とのたまいやがる。
 葛宮の家が超絶金持ちであることは知っていたが、こんな高級タワマンを管理してるって一体どんな家だよ!?
 俺は話のついていけなさで思わず呟いた。


「……ボンボンはやることが違うよ」
「犯罪に走らずに済んだことを君は喜ぶべきじゃないか?」

 確かに、葛宮のコネがなければおそらく法に触れるやり方でこのタワマンに侵入する羽目になっていただろう。
 喜んでいいのか悲しんでいいのか、少なくともこの金持ちに少々イラっとはする。

「へ~俺タワマンなんか入るの初めてだわ。オーナー、俺にも融通効かせてここ入れてよ」
「君は部屋汚すからダメ」

 晴瀬が軽口を叩く一方、葛宮は自身の指紋で難なく入り口のオートロックを開けた。
 俺たち三人は、タワマンの中に正面堂々潜入したのだった。
 エントランスではコンシェルジュが葛宮にそっと耳打ちする。

「あぁ、助かるよ」

 葛宮はそれだけ返した。その時は意味がわからなかったが、部屋に入った瞬間その意味を知ることになる。
 だだっ広い部屋、高級そうなインテリア、高級家具も既に置かれていて、

「盗聴機ぃ~!?」

 部屋のテーブルには盗聴機のスピーカーが置かれていた。

「ってことはなんですか?さっきのコンシェルジュが勝手にスペアキーを使って水川の部屋に忍び込んで、盗聴機を仕掛けたってことですか?」
「相変わらずイカれてんな~」
「結局犯罪じゃないですか!!!」
「汐見くんの一大事だ、手段は選んでられないだろう?」

 嘘つけ!!内心楽しんでる癖に!
 満面の笑みの葛宮が機械の電源をつけると、汐見と水川の口論、水川の過去、そしてあられもない汐見の嬌声が鮮明に聞こえてきた。

「あーらら、やべえなこりゃ」
「相変わらずいいね……生きてるって感じの感情の乗った素晴らしい声だ……」

 能天気な晴瀬と変態発動してる葛宮に、俺はもうなにも考えるまいと思った。葛宮のやりたいようにやらせよう。

『俺の幸せの中に……あんたはいない……!』

 スピーカーから汐見の信じられないほどの悲痛な叫びが響いた瞬間、葛宮の目の色が変わった。

「……乗り込むよ」
「え?」

 葛宮は俺の腕を無理やり掴んで、ベランダから下の階に飛び降りたのだった。


ガッシャーーーン!!
バリーーーーン!!

 ぎゃあああああ死ぬうううう!!
 運良くなのか計算なのか、葛宮の脚が窓ガラスを割り砕き、俺と葛宮の身体は部屋の中にするんと入り込んだ。

「よいしょっと」

 そのあとに続いて、晴瀬は極めて慎重にベランダから下に飛び降り、呑気に水川の部屋に入った。




「そこまでだ!!!」
 
 葛宮が高らかに叫ぶ。

「なんなんだ!?……というかお前ら葬儀屋の……!」

 ベッドの上で水川は怒りを滲ませながら喚いた。
 その水川の下では汐見が息を荒げながら、両股をもじもじと擦りあわせている。

「何だかんだと聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」
「それ以上はアウトですよ!!」

 打合せしたかのようにロ○ット団になる葛宮と晴瀬を俺は必死に止める。

「うちの大事な従業員を傷つける人間は、兄であろうが許しては置けないねえ!」
「よく言うよ、自分が満足するまで鑑賞しておいて、堪能しきってから助けに来たくせに」

 俺の言葉に晴瀬もうんうんうなずいている。
 早く助ければ良かったものの、汐見が焦らしプレイで追い込まれるまで食い入るように鑑賞していたのは葛宮だ。

「俺たち家族の問題に、首を突っ込むな……」
「何言ってるんですか!家族なら、そんなレイプ紛いなことしないでしょう!?万が一恋愛関係にあったとしても、そんな酷いことするな!!」
 
 俺は思わず叫んでいた。この好き勝手している男に汐見が傷つけられるのは無性に腹が立つ。

「俺たちは血の繋がった、唯一の家族だ。他の家族は死んだ、剣が見殺しにした。だから、俺には剣を好きにする権利がある、剣を幸せにするのも不幸にするのも、許すのも許さないのも、飼うのも、自由にするのも、全て俺だ」
「………………」
「だから、俺だけが…ブフォオウッ!!」

 水川弓月が喋り終える前に、俺はこのクソムカつく成金俺様バカ男の顔面に飛び蹴りを食らわした。
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。