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三章
ハルトさんが大興奮
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しゃがみ、ドヤ顔をしている三頭を抱きしめる。
「みんないい子ですね。すごいです! 天才です!!」
三つの真ん丸な頭に自分の頬をスリスリと擦り付ける。
すると三頭はきゅるきゅると嬉しそうな鳴き声を上げた。
きゅっきゅっと楽しそうにする三頭を抱きしめていると、今度は私が後ろから抱き上げられた。
この場でこんなことをするのは、もちろんただ一人――。
「ヴォルフス様」
「リア……」
私を抱き上げたヴォルフス様の顔は真っ青だった。
そしてヴォルフス様が苦しいくらいにギュウウと私を抱きしめる。いつもは割と気を遣ってふんわりと抱き締めてくれるヴォルフス様にしては珍しい。
「どうしたんですか?」
「子竜達を振り切って無理矢理リアを連れ出さなくて本当によかった……。リアが危険に晒されたかと思うと……」
そう言ってヴォルフス様がさらに強く抱きしめてくる。ちょっと苦しいですけど、ここで指摘するのは野暮かと思い黙っておく。
一頻りぎゅ~っと私を抱きしめると、ヴォルフス様は足元の子竜達に目を向けた。
「この子達には感謝だな」
「そうですね」
すると、ヴォルフス様が口に手を当てて考え込み始めた。
「リアの危険を避けるために、常にこの子達を同行させるか……」
「ヴォルフス様? ダメですよ? 母竜から離したら可哀想ですし、ずっと拘束するのも可哀想です」
「だが……」
「だ~め~です」
断固拒否だ。子どもはのびのび派なので。
それでも何かを言い募ってこようとするヴォルフス様の頬をぺチンと両手で挟む。
「子竜はだめです! そんなに心配ならヴォルフス様が守ってください!」
「……!!」
あれ? なんか今のは変ですね。自分の身は自分で守れって話ですよ。
早めに訂正しておきましょう。
「すみませんヴォルフス様。今のは――」
「リア!!」
「ぐえっ」
ヴォルフス様に勢いよく抱きつかれ、今度は我慢できませんでした。
ヴォルフス様の背中に手を回し、ポンポンと叩く。
「ヴォルフス様、ちょっとくるしいです……」
「ああ、すまない」
そう言って離れていったヴォルフス様の瞳は、まるで光明を見出したかのように輝いていた。
「そうだな、他人に頼らずとも俺がべったりくっついてリアを守ればいいんだ」
「いえ、それはちょっと違うかと……」
「違わない! 子竜に頼ろうとした俺が間違ってたんだ!」
そう言ってヴォルフス様がもう一度抱き着いて来る。
……今気付いたんですけど、周りでは飛び散った荷物や破片の撤去作業が行われてるんですよね。チラチラと視線を感じますし、お役に立てるかは分からないですけど手伝った方がいいんじゃないでしょうか。
「きゅ」
そんな私の思考を、誰かの鳴き声が遮った。
鳴き声のした方を向くと、リューンがヴォルフス様のズボンの裾をクイッと引っ張っていた。そのきゅるんとした瞳は「ご褒美をくれ」と如実に語っている。うん、やっぱりこんなに可愛い子達に迷惑をかけるわけにはいきませんね。
リューン達の愛らしい様子に、暴走気味だったヴォルフス様も我に返ったようだ。
「ああそうだな、お前達にはご褒美をあげないとな。いつもよりも高いおやつを用意しよう」
「「「きゅ~!!! きゅるるるる~!!」」」
ヴォルフス様の言葉にぱちぱちと手を叩いて尻尾をフリフリする三頭。とってもかわいいです。
「またリアの危険を察知した時は教えてくれよ? 今度はもっと豪華なご褒美を用意するからな」
「「「きゅ~!!」」」
「ヴォルフス様!」
「はは、冗談だ」
そう言って笑うヴォルフス様の顔色は普段通りに戻っていた。さっきまでは青ざめてたからよかったです。
「ヴォルフス様、撤去作業を手伝いましょう」
「だな……っと思ったが、もう終わったようだぞ」
「へ?」
さっき始めたばっかでしたよね……?
にわかには信じがたく振り向くけど、本当に綺麗に片付いていた。
「早いですね……」
「話を聞きたくて頑張ったんだろうな。ほら来たぞ」
ヴォルフス様が指をさした先には、満面の笑みでこちらに走り寄って来るハルトさんがいた。ああ……研究者の血が疼いちゃったんですね。
「どうせ片付いてないうちは姫様がそっちに気を取られちゃうと思って僕が全部片付けてあげたよ!!」
私のことをよくお分かりで。
この異様な速さ、魔術をフル活用したんでしょうね。
「うわぁ、子竜が他人の危機を察知した話なんて今まで聞いたことないよ。姫様は本当に竜に好かれてるね。新たな竜の謎に鼓動の高まりが止まらないよ……!」
ハルトさんの息が荒くてちょっと怖いです。
気付いてくださいハルトさん、肝心の子竜達もビビってるのか腰が引けてます。逃げ出す一歩前ですよ。
ハルトさんがどこからかペンとメモを取り出す。ハルトさんの頭脳は優秀なのでメモなんかしなくても聞いたことは全て覚えられるそうです。でも、メモで書いておいた方が他の研究者との情報共有がしやすいからという理由でメモをとっているらしいです。意外と他人思いなのかと思いきや、一々話すのが面倒くさいとのこと。
「人間だからなのか、聖竜の血が入ってるからなのか、それとも姫様という存在が特別なのか……。とりあえず、今日の出来事を朝から全部教えてくれる?」
「……はい。お手柔らかにお願いします」
とりあえず一旦深呼吸して落ち着いてほしいです。
すると、ヴォルフス様が私を地面に下ろしてスッと離れた。
「どこに行くんですか?」
「次の見学場所に人を遣って連絡をしないとな。リアを連れて行くのは後日になるって」
「あ……」
そうですよね、こうなったら解放されるのは夕方か夜ですから。
案の定、この日はハルトさんに付き合うだけで終わってしまった。
「みんないい子ですね。すごいです! 天才です!!」
三つの真ん丸な頭に自分の頬をスリスリと擦り付ける。
すると三頭はきゅるきゅると嬉しそうな鳴き声を上げた。
きゅっきゅっと楽しそうにする三頭を抱きしめていると、今度は私が後ろから抱き上げられた。
この場でこんなことをするのは、もちろんただ一人――。
「ヴォルフス様」
「リア……」
私を抱き上げたヴォルフス様の顔は真っ青だった。
そしてヴォルフス様が苦しいくらいにギュウウと私を抱きしめる。いつもは割と気を遣ってふんわりと抱き締めてくれるヴォルフス様にしては珍しい。
「どうしたんですか?」
「子竜達を振り切って無理矢理リアを連れ出さなくて本当によかった……。リアが危険に晒されたかと思うと……」
そう言ってヴォルフス様がさらに強く抱きしめてくる。ちょっと苦しいですけど、ここで指摘するのは野暮かと思い黙っておく。
一頻りぎゅ~っと私を抱きしめると、ヴォルフス様は足元の子竜達に目を向けた。
「この子達には感謝だな」
「そうですね」
すると、ヴォルフス様が口に手を当てて考え込み始めた。
「リアの危険を避けるために、常にこの子達を同行させるか……」
「ヴォルフス様? ダメですよ? 母竜から離したら可哀想ですし、ずっと拘束するのも可哀想です」
「だが……」
「だ~め~です」
断固拒否だ。子どもはのびのび派なので。
それでも何かを言い募ってこようとするヴォルフス様の頬をぺチンと両手で挟む。
「子竜はだめです! そんなに心配ならヴォルフス様が守ってください!」
「……!!」
あれ? なんか今のは変ですね。自分の身は自分で守れって話ですよ。
早めに訂正しておきましょう。
「すみませんヴォルフス様。今のは――」
「リア!!」
「ぐえっ」
ヴォルフス様に勢いよく抱きつかれ、今度は我慢できませんでした。
ヴォルフス様の背中に手を回し、ポンポンと叩く。
「ヴォルフス様、ちょっとくるしいです……」
「ああ、すまない」
そう言って離れていったヴォルフス様の瞳は、まるで光明を見出したかのように輝いていた。
「そうだな、他人に頼らずとも俺がべったりくっついてリアを守ればいいんだ」
「いえ、それはちょっと違うかと……」
「違わない! 子竜に頼ろうとした俺が間違ってたんだ!」
そう言ってヴォルフス様がもう一度抱き着いて来る。
……今気付いたんですけど、周りでは飛び散った荷物や破片の撤去作業が行われてるんですよね。チラチラと視線を感じますし、お役に立てるかは分からないですけど手伝った方がいいんじゃないでしょうか。
「きゅ」
そんな私の思考を、誰かの鳴き声が遮った。
鳴き声のした方を向くと、リューンがヴォルフス様のズボンの裾をクイッと引っ張っていた。そのきゅるんとした瞳は「ご褒美をくれ」と如実に語っている。うん、やっぱりこんなに可愛い子達に迷惑をかけるわけにはいきませんね。
リューン達の愛らしい様子に、暴走気味だったヴォルフス様も我に返ったようだ。
「ああそうだな、お前達にはご褒美をあげないとな。いつもよりも高いおやつを用意しよう」
「「「きゅ~!!! きゅるるるる~!!」」」
ヴォルフス様の言葉にぱちぱちと手を叩いて尻尾をフリフリする三頭。とってもかわいいです。
「またリアの危険を察知した時は教えてくれよ? 今度はもっと豪華なご褒美を用意するからな」
「「「きゅ~!!」」」
「ヴォルフス様!」
「はは、冗談だ」
そう言って笑うヴォルフス様の顔色は普段通りに戻っていた。さっきまでは青ざめてたからよかったです。
「ヴォルフス様、撤去作業を手伝いましょう」
「だな……っと思ったが、もう終わったようだぞ」
「へ?」
さっき始めたばっかでしたよね……?
にわかには信じがたく振り向くけど、本当に綺麗に片付いていた。
「早いですね……」
「話を聞きたくて頑張ったんだろうな。ほら来たぞ」
ヴォルフス様が指をさした先には、満面の笑みでこちらに走り寄って来るハルトさんがいた。ああ……研究者の血が疼いちゃったんですね。
「どうせ片付いてないうちは姫様がそっちに気を取られちゃうと思って僕が全部片付けてあげたよ!!」
私のことをよくお分かりで。
この異様な速さ、魔術をフル活用したんでしょうね。
「うわぁ、子竜が他人の危機を察知した話なんて今まで聞いたことないよ。姫様は本当に竜に好かれてるね。新たな竜の謎に鼓動の高まりが止まらないよ……!」
ハルトさんの息が荒くてちょっと怖いです。
気付いてくださいハルトさん、肝心の子竜達もビビってるのか腰が引けてます。逃げ出す一歩前ですよ。
ハルトさんがどこからかペンとメモを取り出す。ハルトさんの頭脳は優秀なのでメモなんかしなくても聞いたことは全て覚えられるそうです。でも、メモで書いておいた方が他の研究者との情報共有がしやすいからという理由でメモをとっているらしいです。意外と他人思いなのかと思いきや、一々話すのが面倒くさいとのこと。
「人間だからなのか、聖竜の血が入ってるからなのか、それとも姫様という存在が特別なのか……。とりあえず、今日の出来事を朝から全部教えてくれる?」
「……はい。お手柔らかにお願いします」
とりあえず一旦深呼吸して落ち着いてほしいです。
すると、ヴォルフス様が私を地面に下ろしてスッと離れた。
「どこに行くんですか?」
「次の見学場所に人を遣って連絡をしないとな。リアを連れて行くのは後日になるって」
「あ……」
そうですよね、こうなったら解放されるのは夕方か夜ですから。
案の定、この日はハルトさんに付き合うだけで終わってしまった。
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