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三章

小休止です

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「そうと決まれば、さっさとこんな書類だらけの場所から出るぞ」

 ヴォルフス様がひょいっと私を抱き上げる。たまに思うんですけど、ヴォルフス様は私のことをサイドバックか何かと勘違いしてませんかね? まあ、全然いいんですけど。私にも二本の足がついてることを忘れてそうですよね。
 ヴォルフス様にお父さんが賛成する。

「それがいいね。残念だけど、この場所はリアと相性が悪いみたいだし。陛下とどこか落ち着ける場所で休憩しておいで」

 お父さんにサラリと頬を撫でられる。
 そんな心配そうな顔されちゃったら、「はい」って言う以外の選択肢ありませんよね。

「分かりました。ちょっとどこかで気を落ち着けてきます」
「うん、それがいい。俺はまだちょっと仕事が残ってるから一緒に行けないけど……」
「お仕事がんばってください。お仕事してるお父さんかっこよかったです」

 うん、かっこいいお父さんが見られただけでもよかったかもしれません。帰ったらお母さんにお話してあげよう。
 かっこよかったと伝えると、お父さんは嬉しかったのか何なのか顔を覆ってプルプルし始めた。

「娘が……かっこよかったって…………」
「アルフよかったねぇ」

 あ、やっぱり喜んでたんですね。喜んでくれたなら何よりです。
 宰相さんもお父さんに生温かい目を向けている。

「――それじゃあ、申し訳ないですけどお先に失礼しますね」

 宰相室のみなさんに向けてペコリと頭を下げる。

「いやいや、こっちこそ無理に呼んじゃってごめんね? まさかこんなことになるとは僕も予想できなかったよ。ゆっくり休んでね」
「ありがとうございます宰相さん」

 もう一度頭を下げ、私とヴォルフス様は宰相室を後にした。




 私を抱っこしたままヴォルフス様は廊下を歩く。
 足取りに迷いがないのでヴォルフス様の中では行先が明確のようだ。

「どこに行くんですか?」
「竜舎だ。あそこが一番書類仕事からは遠いし、リアは落ち着くだろ?」
「はい」

 竜舎は大人の竜が多くいるからか、守られている感じがして安心するんですよね。





「きゅ~!!」
「ぷぺっ」

 竜舎に到着すると、リューンが顔面にベショッと張り付いてきた。思わず変な声が出ちゃいました。
 ヴォルフス様がプルプルして笑いを堪える。だけど我慢できなかったのか、ブハッと噴き出した。

「はははっ、かわいいなリア」
「……ありがとうございます」
「きゅ?」

 どうしてヴォルフス様が笑っているのか分からないのか、きょとんとした顔のリューンを顔面から剥がして抱っこする。

「こんにちはリューン。今日は一段と元気ですね」
「きゅ~!!」

 元気いっぱいに挨拶を返してくれるリューン。ああ、癒されます……。
 さっきまで仕事をしなければとザワザワしていた心が落ち着いていくのを感じる。リューンは偉大ですね。
 スリスリとリューンに頬ずりすると、リューンも嬉しそうに頬ずりを返してくれた。

「きゅ~!」
「ふふ、リューンかわいいです」
「ああ、両方ともかわいすぎるな」

 あれ? 私も入ってる? と思って顔を上げると、ヴォルフス様が完全に小動物を愛でるような、蕩けた目をしていた。
 ぎゅうっと、ヴォルフス様が私を抱く腕に力が入る。

「カノンとノヴァも連れてきてみんなでおやつの時間にするか」
「いいですね! 二頭も呼びましょう!」

 そこで、ふと一つの疑問が湧いた。
 人間の姿のまま鳴いても通じるんでしょうか。
 竜の時はもちろん鳴き声で意思疎通する。だけど、今まで人間の姿のまま鳴いたことはなかった。
 一度湧いた好奇心はムクムクと大きくなる。
 一回試してみましょう。

「きゅ~! きゅきゅ~! (ノヴァ~! カノン来てくださ~い!)」

 人型のまま鳴き声で二人を呼ぶ。
 さて、通じますかね?

「きゅ~、きゅ~! (ノヴァ~、カノン~!)」
「グッ」

 ヴォルフス様がダメージを食らったように胸を押さえた。どうしたんでしょう。

 そうやって二頭を呼んでいると、遠くからたたたっと軽快な足音が聞こえてきた。

「きゅ~」
「きゅるるる」

 走ってきたのはノヴァとカノンだ。通じたんですかね?
 ノヴァとカノンは走ってきた勢いのまま私に飛び付いた。私の力では当然、踏ん張ることはできず、後ろに倒れそうになる。だけどヴォルフス様が腰に手を回して支えてくれたので事なきを得る。

「ヴォルフス様、ありがとうございます。……ヴォルフス様?」

 ヴォルフス様が私を支えているのとは反対の手で自分の口元を覆っている。

「なんか……大丈夫ですか?」
「問題ない。きゅうきゅう言ってるリアがかわいすぎてちょっとダメージを負っただけだ」
「そ、そうですか」

 それは大丈夫なんですかね? 
 ……まあ、ヴォルフス様が嬉しそうなので何よりです。









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